成年後見制度にはどのような問題点があるのかを白書から紐解いてみる
成年後見制度は2000年にスタートされました。
すでに20年以上の歴史がある制度ですが、逆に言えば古くからある民法の歴史に比べると相当新しい部類の制度となります。
「たった」20年の中で、国は試行錯誤を繰り返し、現在でも当初から比べると大きな方針転換がありました。
成年後見制度は本当に機能しているのか、まだ市民に知られていない問題点はどのようなところにあるのかなど、白書から読み取ることのできる点を解説してみたいと思います。
※参考【最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」】
成年後見白書から読み取れる問題点を挙げてみる
最高裁判所事務総局家庭局は毎年「成年後見関係事件の概況」という統計資料を公開しています。
いわゆるこれが成年後見白書ということになりますが、これを読んだだけでは「ふーん、そうなんだー。」位しか分からないかもしれません。
しかし、統計資料は成年後見制度の見通しや問題点を我々に知らせてくれようとしています。以下に白書から読み取れる問題点を一つずつ挙げていきたいと思います。
成年後見制度は本当に本人保護のために利用されているのか?
私が考える成年後見制度の価値は、「本人を看る者がいなくなっても、本人に変わらぬ生活を送らせることができる」という機能です。
一般市民がイメージする成年後見制度も同様だと思っています。
そのため、「本人を看てくれる家族がいるのに利用せざるを得なくなった」というケースは避けるべきだと考えています。
当事務所にご相談される方の多くがこの後者の理由でお困りの方です。そのため、現状もその通りなのだと思います。
もちろんそれはデータからも容易に分かります。
多くの場合は財産手続きのために成年後見制度が使われている?
前述した「成年後見関係事件の概況」の「6.申立ての動機」を見ると、2番目、3番目に多い「身上保護」と「介護保険契約」は2つ合わせても全体の35.7%となっています。
その他の項目としては、「預貯金等の管理・解約」、「不動産の処分」、「相続手続き」、「保険金受取」、「訴訟手続等」、「その他」となっており、財産関係の手続きを理由として成年後見制度の利用を開始するケースのほうが圧倒的に多いという結果となっています。
これは成年後見制度の申立人ともリンクしていると考えられる部分があります。
市区町村長が申立人となるケースが全体の23.9%という結果が出ていますが、市区町村が申立人となるケースで多いと考えられるのが「申し立てる家族がいない(いなくなった)場合」です。
ご存知の通り、現在の福祉サービスは家族が代理で契約をすることが可能な場合がほとんどですので、本人を看られる家族が存在するのに市町村申立が行われるというのはレアケースです。
しかしレアケースと言えども、家族の意向を無視して市町村申立が行われ、トラブルとなっているという場合もあり、一つの社会問題化していることには注意が必要です。
後見相当に達しない者が増加している
成年後見制度には、意思能力の違いによって「後見」、「保佐」、「補助」に分かれます。圧倒的に後見の類型が多いのですが、後見開始の伸び率よりも、保佐開始や補助開始の伸び率のほうが高くなっているという傾向が見られます。
これが何を推測させるかというと、かつてと比べて「意思能力の高い者の申立が増えた」ということだと思います。
保佐や補助は後見と比較すると、限定的な支援となります。成年後見制度は意思能力に応じた支援(本人から見れば制限とも取れます)を行うこととなっているため、保佐や補助が増えているということは、後見類型とまでは至らない意思能力の方の申立が増えていると考えられます。
個人の意思能力に応じて適切な類型の利用が増えていると言えば聞こえは良いようですが、「本当に必要な時に成年後見制度を使うべき」という立場から見ると不安に思う点があります。
例えばこんなケースはどうでしょう。
会話もできる、理解力もある知的障害者の方のお父さんが亡くなった。
お母さんは我が子はしっかりしていると思いつつも正直に銀行に伝えると、銀行からは「成年後見人をつけなければ手続きはできません」と言われてしまった。
銀行に言われるがまま成年後見を申し立てると、後見類型には至らずに保佐、補助の類型に該当した。
という、まさに当事務所に多く来る相談のパターンが思い浮かんでしまうのです。
確かに意思能力に疑問のある状態で相続手続きを行うのは不安だと思います。
しかし少なくとも成年後見人は銀行に言われて申し立てるものでは無いと思います。メリットとデメリットをしっかり理解した上で、本人と家族が覚悟を決めて申し立てるものでなければならないのです。
家族後見人には簡単になれる?
次に家族後見人についての考察です。
新しく公開された貴重なデータがこちらです。
右側の円グラフから、申立書に親族が候補者として記載されていた割合が23.6%、左上のグラフから実際に親族が後見人等に選ばれた割合が19.7%となっています。
ちなみに親族の内訳で子が最も多いのは、成年被後見人等の持つ症状で認知症の割合が最も高い、すなわち高齢者が多いこととリンクします。
このことから何が予想できるかと言うと、単純に考えて「親族を候補者として申し立てた(23.6%)−実際に親族が成年後見人等になれた(19.7%)=候補者として申し立てたのに他の者が選ばれてしまった(3.9%)」ということです。
家族後見人になれなかった者の数が多いのか少ないのかで言えば少ないと思いますし、国の指針「家族後見人を増やす」からみても今後はより少なくなってくると考えられます。
ただこのデータには裏があります。
「家族後見人になれた」ことが良いことなのではなく、「第三者の監視下に置かれる」ということを理解してなれたかどうかは全くの不明です。
家族後見人になられた方のほとんどが、「後見監督人が就く」または「後見制度支援信託等の利用を求められる」に該当します。
今まで「家族のお金」として扱ってきたものがいきなり第三者の監視下に置かれることの負担は大きいと思います。
そのため、それを知らずに後から「こんなはずじゃなかった…」となってしまう方が多いというのが社会問題になっているのです。
成年後見人は本当に必要な時に!
以上、成年後見白書から読み取れる問題点について解説してみましたが、当事務所の考えは「成年後見人は本当に必要な時につけるべき」で一貫しています。
本来ならつける必要が無かったのに言われるがままつけてしまった、成年後見人をつけることががこんなに大変だとは知らずにつけてしまった、と言う方が増えないためにも、生前財産対策や遺言など、事前に取れる対策を考えておきましょう。