もし配偶者が重度障害になって意識が無くなってしまったら?
自分の配偶者が事故や病気で意識が無くなるほどの重度障害になってしまうということを考えたことはあるでしょうか?
これは十分にあり得る話ですが、実際にそうなってしまった場合のことまで考えている人はまずいません。
しかし、実際に配偶者の意識が無くなってしまうと、困ることがたくさんあります。
本人の身体についてはもちろんのことですが、その点については病院や介護施設にある程度任せるしかありません。

しかし本人の財産管理については、病院や介護施設では行なってくれませんので、多くの場合は配偶者などの家族が行っていくこととなります。
今回は、実際に配偶者が重度障害になってしまった場合、どのようなことで困るのか、またその対策について説明します。
重度障害になるとできなくなること
治療や介護などの身上監護を除き、意識に支障があるほどの重度障害になるとできなくなることは「財産管理」です。
財産管理の中でも特に困る点を挙げていきます。
①通帳の管理
まず本人の通帳やそこに入っているお金は本人のものです。
家族であっても基本的には自由に下ろして使うわけにはいきません。
銀行に「本人の意識が無いんです」と伝えてしまえば、すぐに口座は凍結され、誰からも下ろすことはできなくなってしまいます。

②相続
相続手続きは重要な「契約行為」です。
契約行為は「意思能力」が無いと行えません。
そのため、自分の配偶者が当事者(相続人)となる手続きは一切行えないこととなります。
③不動産の処分
不動産を売却したり、あげたりする行為も重要な契約行為となります。
そのため意識が無い場合は行うことができません。
そうなると、不動産を処分したい時に処分できないこととなるため、大きな損失を被る場合もあります。

成年後見人を使えばいいんでしょ…?
上記①〜③を行うためには「成年後見制度」があります。
本人に成年後見人をつけて財産管理や契約行為を行ってもらうという制度です。

しかしご存知の方も多いと思いますが、成年後見制度は使い勝手が悪いため、市民からは大変不人気です。
一生費用がかかってしまうことや、赤の他人(基本的には弁護士や司法書士などの専門家)がなってしまう可能性も十分考えられます。
そのため、どうしても成年後見人をつけたくないという方は非常に多くいらっしゃいます。
成年後見人をつけないための対策はあるの?
それでは成年後見人をどうしてもつけたくない方ができる対策はあるのでしょうか?
実際に配偶者が重度障害になってしまい、意識がない状態でも成年後見人をつけていない家庭は多くあります。
その方達が取っている方法について説明します。
キャッシュカードの暗証番号を配偶者に教えておく
体が健康な時から、または体に異変が生じた時から自分のキャッシュカードの番号を配偶者に教えておくという方法があります。
特に家庭の財産の大半を保有している側の者が重要になります。
こうしておくことで、本人の意識が無くなったとしても、普通預金からお金を引き出すこと自体はできてしまいます。
急な治療費や施設への入所一時金などを捻出できるかできないかは非常大きな問題です。
もちろん配偶者であっても自分のお金がどう使われるかはわからないのでリスクはあります。
そこはよく考える必要がありますが、例えば自分がもしもの時に家族が見つけられる場所に書き記しておくなどの対応も取れると思います。

こうしておくことで、すぐに成年後見人をつけなくても良い状況を作り出している家庭は多くあるでしょう。
ただしそれでも困難なことは、
- 定期預金の解約、満期による普通預金への切り替え(自動更新の場合)
- 多額の引き出し(設定している限度額や頻度による)
ですので、意識があるうちに対策をとっておくとより家族が安心出来るでしょう。
相続に備えて遺言を作成しておく
相続については事前に対策を取ることができます。
それが遺言です。

「意識が無いのに遺言なんて作れないでしょ?」と思うかもしれませんが、意識の無い本人ではなく、本人が相続人となる「被相続人」が作っておく遺言のことになります。
例えば遺言が無い状態で被相続人が亡くなった時、相続人の中に重度障害で意思能力に支障のある者がいた場合には相続手続き全体がストップします。
重度障害の者に関しての手続きだけでなく、他の相続人も財産を取得することができません。
正式な手続きとしては、重度障害のある者に成年後見人をつけるよう家庭裁判所に申立を行い、成年後見人がついたのち、その者を代理人として相続手続きを行います。
一方、遺言があればすぐに手続きを行うことができます。
その遺言により定められた遺言執行者という者は成年後見人の関与無しに手続きを進められるため、そもそも成年後見の申立が必要ありません。
ただし、成年後見人無しで手続きできるような内容の遺言を作成できているという大前提が必要です。
例えば夫が重度障害になってしまったら、夫が相続人となる場面は主に「妻」、「夫の父母」、「夫の子」です。
夫の子については、未成年であったり結婚して子がいたりする場合には成年後見人をつける必要性が無い場面もありますので、「夫の父母」が最も重要になります。
(両親がすでに亡くなっていれば、夫から見た「子のいない兄弟」がいる場合も重要となります)

夫の父母どちらが亡くなった場合でも夫は相続人になってしまうため、両者に成年後見人が不要になるような内容の遺言を作成しておいてもらう必要があります。
不動産の処分は困難!
重度障害で意識の無い者の不動産を処分(売却・贈与)することは極めて困難です。
これは成年後見人がいても同様であり、家庭裁判所の許可が必要になるからです。

重度障害の本人自身の財産が減少しており、また病院などにいるためその不動産を使用していないなどの理由があれば、売却自体は行える可能性はあるのですが、売却代金は本人の財産であり他の用途には使えません。
夫婦で不動産を共有している場合(土地の持分を二分の一ずつ持っている等)、健常者の持分を売却することはできますが、そのような買取を行なっている不動産業者はそれほど多くなく、また相場よりもかなり安価で買取される可能性があります。
しかし重度障害の夫名義の家で妻が住み続けることは可能ですので、住居用不動産においてはそれほど不安視しなくても良いでしょう。
賃貸などを行なっている不動産では、賃借人や管理会社の対応次第になりますので、対応を確認してみましょう。
できる限りの対策をとっておこう
以上、配偶者が重度障害になった場合に困ることとその対策について説明しましたが、配偶者の片方が家庭の財産の大半を占めている場合には、その者が重度障害になった場合には生活に支障が出てしまいます。
そうならないようできる限り事前の対策をとっておきましょう。
また事後の対策を取れる可能性もありますので、軽はずみに成年後見人をつけることなく、良く考えた上で手続きを進めましょう。

当事務所では成年後見人をつけないための遺言の作成や相続手続きの支援を専門的に行なっておりますので、お困りの際はぜひご相談ください。





