「成年後見人はお金目当て」ってホント?
当事務所では、できる限り成年後見人をつけない人生を送っていただくということを推奨しているため、成年後見人をつけることに消極的な記事を掲載していることが多いです。
また自身でも成年後見業務は行っておりません。
しかし、成年後見人に対しては決して否定的な立場を取っているわけではありません。
成年後見制度を利用している方やそのご家族、またはこれから利用を考えている方からは成年後見人をやっかむ声も多く聞かれているのが現実です。
未だに成年後見人の横領事件などが世を賑わすこともあり、ごく一部の悪質な事例が制度全体を脅かしている状況であるとも言えます。
ただ、「成年後見人(専門家)=金の亡者」のような考えは明らかに誤りです。
ほとんどの成年後見人は責任を持って業務を遂行しています。
しかし、先程の不正や支出の制限に関してのニュースが世に出回っていることもあり、成年後見人と当事者家族の間にズレが生じてしまっているのではないかと感じることが多くあります。
今回は当事務所が考える、世間が成年後見人に対して偏ったイメージを持ってしまう原因について解説していきたいと思います。
成年後見業務は儲からない?
まず「成年後見人は金目当て」というイメージについての原因を考えていきたいと思います。
成年後見業務は報酬が発生することが基本です。
家族が成年後見人になり、無報酬という決定がなされている場合は別ですが、第三者の成年後見人には報酬が発生します。
報酬は被後見人の財産を元に家庭裁判所が決定しますが、毎月1万円〜3万円程度が多いのではないでしょうか。
一方、成年後見業務は多岐にわたります。
被後見人の財産管理と身上監護(介護などの事実行為を除く)を全て行わなければならないからです。
仮に被後見人が一人暮らしをしている場合で考えてみると、
- 日用品以外にかかる支出の代理支払い
- 契約行為
- 福祉サービスの方針決定
などを行う必要があり、また突発的なトラブル(住居、近隣関係、家族間)があれば直接成年後見人が立ち合わなければならない場面もしばしばあります。
さらに何も無くても定期的に連絡や訪問を行わなければ本人の安否確認ができません。
これらの業務を完璧に行った上で毎月の報酬が一万円だったとしたら、ほとんどの専門家は成年後見人になりたがらないと思います。
逆に被後見人が施設に入所しており、施設が通帳を預かって細かな支出をしてくれている場合で報酬が月あたり五万円だったら、やりたいと思う専門家も多くいると思います。
専門家も事業として行っているわけですから、他の業務に支障が出てしまうと困ります。そのため業務内容と報酬のバランスを第一に考えなければならないわけです。
そのため家族からは、
- 全然面会に来ない
- 手紙のやり取りしかしない
- 施設に入所していないから断られた
などの不満の声が上がってしまうのだと思いますが、成年後見人の事情を考えると仕方の無い部分もあるのだと思います。
被後見人が好きなことをさせてくれない
こちらの動画は多くの方が視聴し、話題を呼んでいました。
成年後見人が被後見人が好きなこと、やりたいことのための支出を制限しているという話です。
これについては、確かにそういった方向に動きがちな理由はあります。
その理由とは「本人の財産により成年後見報酬が変わってくる」という仕組みです。
極端な話、被後見人の財産が一億円ぐらいあれば、成年後見報酬はかなり高くなり、財産が100万円しかなければ成年後見報酬はほとんど貰えなくなります。
また、最初は本人の財産がある程度あっても、その後財産が著しく減ってしまうと、成年後見報酬が減額されることもあるわけです。
そのため、成年後見人が支出を極力減らして報酬を確保するという考えが働く可能性は否定できません。
しかし、全ての場合がそれにあたるとは限りません。趣味や嗜好に関する支出がそれほど大きくない場合も多いからです。
「本人ではなく家族が希望しているだけであるから」、「本人の意志がなかなか確認できないから」などの理由で支出を渋られることも多いと思います。
成年後見業務を主とするのはなかなか大変!
専門家として成年後見業務を行っている者としては、弁護士および司法書士が多くを占めています。
中には成年後見業務を主としている専門家もいますが、なかなか簡単にはいきません。
月あたり平均二万円の報酬があったとしても、40万円の売上を出すには20人の被後見人を受け持たなければならない計算になります。
そのため、お金のためというよりも社会貢献の意味合いで成年後見業務を受けている専門家も多いと思います。
成年後見人が支出を渋ったり、なかなか面会に来られないというのも公平性の観点から仕方の無いケースもあるでしょう。
被後見人およびその家族と成年後見人とで考え方のズレが生じてしまうのも制度上の欠陥の一つと言えるのかもしれませんが、市民が成年後見制度についての理解が深まるよう、より一層制度の周知がなされなければならないと思います。
また成年後見人も、本人は元より、その家族の心境にも配慮した業務を行えるのが理想だと思います。
最も重要なことは、本人およびその家族が成年後見制度を十分納得した上で利用することです。
「遺言が無ければ成年後見制度を使わざるを得ないことがある」、「進められるままに成年後見の申し立てをするのは危険」、「成年後見人をつけると今までの管理方法が大きく変わってしまう」などの情報は国から発信されることはありません。
制度のメリットとデメリットを十分理解した上で、それでも利用せざるを得ない場面になってから申し立てを行うことで、制度に対しての納得度は変わってくると思います。
とはいえ付ける必要がないのに成年後見人をつけることになるのは誰でも避けたいところです。
当事務所では、原則成年後見制度自体に関する相談には応じておりませんが、「成年後見人をつけずに生活を送りたいという方達へのアドバイス」を行っております。
簡単に成年後見人をつけたくないという方などは、ぜひ一度ご相談ください。