障害者や認知症の相続において遺留分は問題となるのか?
障害者や認知症の方が相続人に含まれる場合の相続において、被相続人となる者が遺言書を残していた場合、その遺言が最も優先されます。
しかし、法定相続人(一部を除く)には遺留分という権利があるため、完全にその遺言の内容が実現できないということもあります。
障害者や認知症の方が相続人に含まれる場合、遺留分についてはどのような問題が生じるのでしょうか。一般的な相続とは全く違う結論になる場合もあります。今回はこの点についてお伝えしていきたいと思います。
「遺留分」とは?例を挙げて解説!
遺留分とはどのようなものでしょうか。例を挙げて解説していきます。
父、母、兄、弟の四人家族。母には重度の認知症があり、兄には重度の知的障害があります。
父は、自分の相続の際に母と兄に成年後見人をつけなくても良くなるよう、遺言を残しました。遺言の内容は下記のとおりです。
「自分の財産を全て弟(次男)に相続させる。遺言執行者は弟とする。」
このような遺言を残した場合でも、母や兄は自分の遺留分を主張することができます。
遺留分とは、遺産がどのように分配される場合でも、最低限の取り分を保証するという制度です。
このケースでは、母は総財産の1/4、兄は総財産の1/8にあたる部分を請求できます。
しかし遺留分は勝手に支払われるものではありません。遺留分侵害額請求をしてはじめて支払いが保証されるものです。
母や兄が弟に自分の遺留分を請求すると、弟はそれぞれの遺留分について支払いを行わなければならないということになります。
そのため、遺留分を侵害した遺言を作ることも、その内容の財産移転を行うことも、そのこと自体は無効でも違法でも無いということなのです。
遺留分は請求がなければ時効によって消滅する…が?
それでは、障害者や認知症の方が相続人に含まれる場合の遺留分についてはどうでしょう。
上記のケースの場合、母に重度の認知症があり、兄に重度の知的障害があるため、遺留分を主張できませんでした。
遺留分は主張してはじめて発生するものですから、主張しなければ遺留分を渡す必要はありません。そして相続を知ってから1年間、相続開始から10年間が経過することによって時効により消滅します。
なお、意思能力が無い者が遺留分を侵害されていた場合「相続を知ってから1年」という条件には当てはまらないと考えておきましょう。
遺留分を支払わないのは善なのか悪なのか
上記の例で、母と兄に遺留分を渡さないことは悪なのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
上記の例で父が弟のみに財産を渡す遺言を書いたことにはほとんどの場合理由があると思います。
父の希望は、成年後見人をつけずに弟(次男)が家族をみてくれること。そのために全ての財産を弟に渡したかったというわけです。
成年後見人をつけて相続を行えば、不動産が共有となってしまったり、手持ちの現金を弟に持たせることができなかったりと色々な弊害が考えられます。
そのため、成年後見人をつけてしまった場合にかかる費用も含めて全ての財産を弟に渡し、その中から母と兄にかかる費用を支出して欲しかったのです。
父が生前に弟にそのことを伝え、弟がそのことを了承している場合、家族単位で考えれば何もトラブルが起こることは考えられません。
費用面や今後の財産の管理のしやすさで考えた場合、上記の遺産分割方法が最も効率的であると考えられます。そのため、全財産を健常者に渡してしまい、その他の家族に遺留分すら渡さないという手法はご家庭によってはある意味正しいことと言えるでしょう。
付言事項を残しておくのも良い
なお、遺言には「付言事項」というものを記載することができます。
法的に有効なものではありませんので、家族に残すメッセージのようなものだと考えて良いでしょう。
付言事項に自分が考えていることを記載しておくことによって、家族の理解を深め、トラブルを防止することにも繋がります。
そのため、遺留分を侵害した内容である場合、その真意を記載しておくことも良いかもしれません。
付言事項の実例
〇〇(長男)には△△(次男)の面倒を生涯見て欲しいと思い、全財産を渡しました。私がいなくなった後も、母さんと△△を助け、仲良く人生を過ごしてください。
遺留分を渡さないことについての注意点4つ!
上記のように、遺言で障害や認知症のある者へ遺留分すら渡らないような手法を取る場合にはいくつか注意点があります。
本人の意思を確認すること
本人にしっかりとした意思があり、遺産を他の家族が所有することに反対している場合は無視するべきではありません。
本人にとっては、遺留分を主張できることは知らないが、少しは遺産を分配して欲しいと思っているかもしれません。
将来を含めて説明し、必ず本人のために支出することを理解してもらうことも必要です。
成年後見人がつけば必ず遺留分は主張される
遺言を残して財産を特定のものに移転し終えた場合でも、遺留分を侵害した家族に成年後見人がついてしまっては意味がありません。
成年後見人は時効の範囲内であれば必ず遺留分を主張してくると考えたほうが良いでしょう。
近いうちに成年後見人をつけるつもりであれば、遺留分について支払う心持ちでいましょう。
不動産の登記は早めに行っておくこと
成年後見人などにより遺留分侵害額請求がされるおそれがある場合には、早めに不動産登記は済ませておきましょう。
当然遺留分については不動産の持ち分にも及びます。不動産が共有となると、処分する際に弊害となる可能性が高くなります。自分一人の所存で売却を行うことができなくなってしまうこともあるのです。
不動産は一人の単有としておき、遺留分侵害額請求があった場合にはその分を現金で支払うようにしましょう。
障害者控除を使う場合は少しでも財産を渡すようにすること
相続税の障害者控除は非常に強力な制度です。しかし、障害者の方に相続分が全く無い場合は制度そのものを利用することができません。
従って、相続財産が基礎控除額を超えている場合は、障害者の方にあえて財産を一部渡すという方法を取らなければなりません。
相続分の残し方については、少々専門的な知識が必要となるため、ご相談ください。
【相続税の障害者控除を使いつつ相続財産の調整をする方法】
遺言の内容や手続きについては行政書士花村秋洋事務所へご相談を!
以上、法定相続人に意思能力に支障がある者が含まれている場合には、遺言を活用することによって家族にとって効率的な財産移転が行なえます。
逆に言うと、遺言を残しておかないと成年後見人をつけなければならない状態になることに加え、多額の財産が使えなくなってしまう状態にもなってしまうという、いわゆる「手遅れ相続」となる可能性が高くなってしまいます。
まず、自分達の家庭には遺言が必要なのか、その遺言の内容はどのようなものにすれば良いのか、遺言を作成する手続きはどうすれば良いのか、障害者控除を適用させるためにはどうすれば良いのかなどは事前に相談をしておいたほうが良いでしょう。
当事務所では、障害や認知症をお持ちの方が含まれるご家庭に必要な遺言を作成するサポートを行っておりますので、ぜひご利用ください。