意思能力の無い者の作成した遺言は無効だが…?
意思能力の無い者が作成した遺言は無効となります。
しかし逆を返せば、意思能力のある者の作成した遺言は有効です。
ということは、意思能力が無いとまでは判断されない者は有効な遺言を作成することができるのです。
知的障害や精神障害がある方や認知症を患っている方でも有効な遺言を残すことができる方はたくさんいらっしゃいます。
今回は、意思能力に支障はあるが(出てきたが)有効な遺言を残せる場合とそうでない場合のボーダーラインについて考えていきたいと思います。
※今回の記事はあくまでも「家族や友人が本人を支援できる」という前提で書かれています。
有効な公正証書遺言を作成できるかできないかのボーダーライン
それではまず、公正証書遺言について考えていきたいと思います。
公正証書遺言は、遺言書自体は公証人が作成します。遺言書側は遺言の内容、「遺言案」を作成すれば足ります。
遺言案については行政書士などの専門家に依頼すれば法律用語などが分からなくても作成することが可能です。公証役場との打ち合わせ、予約のやり取りも行ってもらうことができます。
しかし問題は「公証役場でのやり取り」です。
公証役場での遺言書作成手続きの場面では、相続人となる家族は立ち入ることができません。証人2名は同席することになりますが、遺言内容について口を出すことはできません。
となると、公証人からの質問に自分ひとりで答えなければならないのです。
公証人からの質問例
公証人からは遺言者に対して以下のような質問がなされます。
・住所、氏名、生年月日
・家族の氏名、財産の分け方とその理由
・遺言書を作成しようとする意図等
軽度の認知症であっても長期記憶である自分自身の情報については容易に答えられる方が多いと思います。しかし、自分が所有している財産や、それをどういった割合で分配するか、なぜ遺言書を作成しようと考えたのかなどを聞かれるとなかなか正確に回答するのは難しいかもしれません。
また、公証人によって態度や聞かれる内容は多少変わってきますので、相性の問題も影響してくるでしょう。
有効な自筆証書遺言が作成できるかのボーダーライン
それでは、公証人と話す必要のない自筆証書遺言ではどうでしょう。
自筆証書遺言は自筆証書遺言で懸念される点はあります。
まず、公正証書遺言と比較すると「有効な遺言」となる確実性が劣るという点です。
公正証書遺言は交渉人が作成しますから、有効な遺言であるという確実性は相当高いものになります。
一方、自筆証書遺言は様式の間違いなどで無効となることが多く、また一般市民が作成するとなるとそのリスクは遺言の内容にまで及びます。
そのリスクをできるだけ軽減させるためには「法務局の自筆証書遺言保管制度」を利用することが有効ですが、その際にも認知症状をお持ちの方には新たなハードルがあります。
それが「法務局職員とのやり取り」です。
法務局職員とのやり取り
自筆証書遺言の保管制度を利用することに関しては、意思能力の有無を判断するという機能はありません。
しかし、自筆証書遺言の保管制度を申し込む際には、公正証書遺言作成の場合と同じく相続人の同席は許されませんので、法務局職員とのやり取りを遺言者自身で行わなければならないのです。
とはいえ、公正証書遺言作成の際とは聞かれる内容は違います。
法務局の職員は、自筆証書遺言の内容については一切触れてきません。
そもそも自筆証書遺言の保管制度は、「遺言書の内容をチェックする」という機能は無く、「遺言書の様式をチェックする」という機能にとどまるからです。
そのため、法務局職員から聞かれる内容はあくまでも事務的なものです。
公正証書遺言作成よりもハードルは低いと考えられるが…
万が一法務局の職員から認知症であることに気付かれたとしても、それを理由に自筆証書遺言の保管の申し出を断られる可能性はそれほど高くないと考えます。
もちろん申し出自体には意思能力が必要ですから、申し出自体が難しいと判断されたら受領を断られることもあるでしょう。
遺言書の内容まで確認される公証人とのやり取りと比較すると法務局のやり取りの方が若干ハードルは低くなると考えられますが、やはりどちらにせよ認知症の程度が重くなることによって難易度は上がってくるでしょう。
遺言はスピード!会えない間にどんどん症状が進行することも…
認知症は人それぞれで症状が進行するスピードが違います。
現在施設に入所している、病院に入院しているといった場合、しばらく会わないうちに認知症状が急激に悪化しているという可能性もあります。
施設等に入所している場合でも、公証人に出張してもらうことや(手数料が上がります)ご家族が付き添い、介護タクシー等を利用して自宅で遺言を書いてもらうことも可能です。
知的障害者や精神障害者の方が相続人に含まれている場合、遺言がないと大変なことになります。「手遅れ相続」にならないためにも、認知症状には注意し、早めの遺言作成を心掛けましょう。
【当事務所では認知症の方の遺言作成サポートを専門的に取り扱っています】
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