もし自分が高齢者になったら子どものためにどんな相続対策をしておかなければならないか
私が高齢者と呼ばれるにはまだ20年以上かかります。
しかし、相続のお手続きのサポートをしているという仕事柄、色々な方の相続場面を見てきました。
その上で、あらためて「自分が高齢者になったら何をしておかなければならないか」を考えてみました。
もちろん高齢者になる前からやっておけることもありますので、「高齢者になるまで待ってから取る対策」というわけではありません。
資産によっては相続税対策なども取るべきですが、今回は全ての方に共通する「高齢者になったらやっておかなければならないこと」を挙げていきたいと思います。
子に障害があるならば自分が何歳だろうと「絶対に」遺言を残す
私はすでに法務局の自筆証書遺言保管制度を用いて自筆証書遺言を作成してあります。
自筆証書遺言保管制度の活用で成年後見人がいらなくなる?【障害者や認知症の相続対策】
現在は家族間でトラブルも無く、通常であれば遺言を残さなくても良い状況なのかもしれません。
しかし、自分が亡くなった後にどんなトラブルが起きるかは知る由もないのです。
遺言を残したからといって、その内容が将来の全てのトラブルに対応できるわけではありません。ただ、最良の手段は「その時その時にあった状況の遺言を残すこと」しかないのです。
子に障害があり、意思疎通が難しい状況である場合
この場合、ほとんどの家庭で「遺言があるのとないのでは天と地ほどの差が出る」と言っても良いでしょう。
遺言がないことによって起こる地獄を知る者はまずいません。なので遺言を残している者がこれほど少ないのです。
困難① 成年後見人が必要になる
障害のある子にいずれは成年後見人をつけることを考えている親も多いでしょう。
しかし、自分が亡くなった瞬間にその時は訪れます。
「誰も看てくれる家族がいなくなったら成年後見人をつける」という算段が、「看てくれる家族がたくさんいるのに成年後見人をつける」ことになってしまうのです。
「成年後見人をつけないと相続手続きができないなんて知らなかった」と相談されることが多くありますが、「知らなかったでは済まされない」という厳しい社会になってきているのです。
困難② 財産が活用できない
「成年後見人をつけないと相続できないなら仕方ない」と諦める方も多くいらっしゃいます。
しかし問題はそれだけではありません。
「障害のある子には不動産を持っていても仕方ないな」と考えていたとしてもそうはいきません。
なぜなら成年後見人は本人の財産の確保に全力を尽くしてくるからです。
障害のある子に不動産を残したくないとしても、それを実現させるには「その分の現金」が必要になります。
成年後見人は本人のために、必ず「法定相続分以上」の財産を確保しなければならないからです。
例えば子が二人いる4人家族の場合で、亡くなった父の相続財産の総額が1億円であった場合、障害のある子には2500万円相当の財産を相続させなければならなくなります。他の相続人がいくら頼もうが、成年後見人はその分の財産を確保しなければならないのです。
成年後見人のデメリットをケースごとに解説【影響が大きいのは障害者>認知症】
不慮の事故に注意!
「じゃあ自分が高齢者になったら遺言を考えてみようかな」なんて思ってる人は注意です。
不慮の事故で亡くなることも十分に考えられるからです。
多くの相談者の方が「急に亡くなるとは思わなかった…」とおっしゃるのですが、急に亡くなることがあるから遺言という制度が用意されているのです。
そのため、意思疎通が難しいほどの障害を持ったお子様がいる親御さんは、どんなに自分が若くても父親・母親両方の遺言を残しておくことが必要となります。これを知らない親御さんは非常に多く、現在もたくさんの遺族の方が窮地に追い込まれています。
「あれ?もの忘れかな?」と思ったら定期預金を崩せ!?
軽い物忘れは高齢者であれば誰だってあるものです。しかし、この物忘れが良いきっかけになってくれると考えましょう。
親が認知症になったらもう片方の親に遺言を書いてもらう【成年後見人をつけないテク】
自分の財産の多くを「定期預金」にしている人は、危険かもしれません。
「自分が亡くなった時に少しでも多くの財産を残したいから」と思うのは至極自然です。しかし、ご家族が窮地に追い込まれるのは「意思能力がなくなったまま何年も生き続ける場合」です。
夫婦の貯金を一方(ここでは夫)にまとめており、そのほとんどを定期預金にしている場合は特に危険です。
なぜなら「夫が重度の認知症や意識不明となった場合に生活費が捻出できなくなるから」です。
どんなに世帯の生活に必要だからと言っても定期預金を名義人以外の者が解約したり引き出したりすることはできません。
そのため、事実上多額の定期預金が凍結した状態になるのです。
もしその定期預金をどうしても解約したければ成年後見人をつける必要があります。ただし成年後見人をつけたところで、そのお金が自由に使えるわけではありません。原則、成年後見人はそのお金を本人のために使わなければならないからです。
私であれば定期預金など作りません。大して利子のつかない定期預金にすることでそんな大きなリスクをおうことになるのは危険すぎるからです。
キャッシュカードと暗証番号を託しておけばとりあえずの資金は引き出すことができる
自分が高齢であり、物忘れが出てきたことが自覚できたのであれば、私は迷わず家族にキャッシュカードと暗証番号を託します。
普通預金であれば、キャッシュカードと暗証番号で預金を引き出すことができるからです。
もちろん銀行に知られてしまうと預金は引き出せません。しかし銀行に知られなければ、家族が本人のために預金を引き出すことは違法でも何でもないのです。
朗報!認知症の家族の預金を引き出せるようになった!?【銀行の考え方の変更】
もちろん「自分のために預金を引き出してほしい」と託しておくことは必要ですので、気になる方は文書にしておくと良いでしょう(その文書があるからといって銀行窓口で堂々と預金を引き出すことはできません)。
これは普通預金にしておくことでなせる業であり、定期預金では絶対にできないことです。そのため、私はあまり定期預金を勧めることができないのです。
高齢者の定期預金は危険?認知症のリスクを考えて財産管理を行おう
銀行は高齢者に対して「使わないなら定期にしましょう!」と勧めてきますが、本当にリスクを分かっている銀行員であれば迂闊に定期を作ることを勧めることはできないはずだと思ってしまいます…。
障害や認知症のリスクを考えた対策を…!
こんなことはどこにも書いてありませんし、誰も教えてはくれません。まだまだ世の中は障害や認知症を「当たり前」としていないからです。
そのため「こんなはずじゃなかった…」と嘆かれる市民の方が非常に多くいらっしゃいます。
私から解決策をご提示できるときは大変喜ばしいことですが、私でもどうすることもできない状況に陥ってしまっている方からのご相談も多くあるため、そのような方を増やさないためにも今後もできる限りの情報提供に努めていきたいと考えております。