成年後見人をつけないための遺言の作り方【3つのケースごとのポイントを解説!】

成年後見人をつけない相続

成年後見人をつけないための遺言の作り方を3つのケースを例に挙げて解説する!

成年後見人をつけないための遺言とは何でしょう?

それは、「相続の際につける必要のない成年後見人をつけないで手続きを行うための遺言」のことです。

相続の際に成年後見人をつけざるを得なくなるご家族は大変多くいらっしゃいます。しかし、事前に対策をしておくことによってその局面を回避することは可能です。

今回は成年後見人をつけないための遺言の作り方のポイントについて、3つの家族構成を例に挙げて解説していきたいと思います。

※各ケースでは「相続手続きの際に」成年後見人を不要とすることを主眼に置いているため、他の家族が世話をすることができないため成年後見人をつけざるを得なくなるといったケースを除きます。

ケース① 片方の親が認知症の場合

例を挙げると、父Aと母B、子C一人であって母に重度の認知症がある家族の場合などです。

この場合は父(および子)が遺言を残すことで、父が死亡した際に、母に成年後見人をつけることを回避できる場合があります。

ポイント① 母にできる限り財産を渡さない

父名義の土地および建物、父名義の預貯金、有価証券、その他の財産を子に相続させる旨の条文を入れます。

こうすることにより、父が死亡した際に父の財産は母に渡らないようになります。

母に父の財産が渡らないようにすることによって、財産の凍結を防ぐことができます

母の生活に要する費用は、母の年金および母名義の預貯金に加え、子が父から引き継いだ財産から捻出するようにします。

ポイント② 遺言執行者を子Cにする

遺言執行者を子Cに指定する内容の文面を入れます。

こうすることによって父が死亡した際に、子が母の関与無く、一人で父の遺産の移転手続きを行うことができます

遺言執行者を子Cに指定しておかないと、せっかく遺言を残しても母に成年後見人をつけて遺言執行者を誰にするかを決めなくてはならなくなります。

ケース② 子に知的障害または精神障害がある場合

例えば父、母、長男、次男の4人家族であって、長男に重度の知的障害や重度の精神障害がある場合などです。

この場合、父および母が同内容の遺言をそれぞれ残しておくことによって、父および母が死亡した際に長男に成年後見人をつけることを回避できる場合があります

今回は父が遺言を残し、父が亡くなることを前提とした遺言を考えてみます。

ポイント① 父の財産が長男に渡らないようにする

先程の例と考え方は同じです。父の財産を母および次男に相続させるという内容の条文を入れることにより、長男に財産が渡らないようにします。

長男の生活に要する費用は、長男名義の財産および障害年金に加え母と次男が父から引き継いだ財産から捻出するようにします。

ポイント② 母または次男を遺言執行者に指定する

父の相続手続き時に長男の関与を不要とするため、母または次男を遺言執行者に指定する条文を入れます。

母が高齢である場合などは次男を遺言執行者に指定しておいたほうが良いでしょう。

ケース③ 知的障害または精神障害がある子しかいない場合

例えば、父と母、子一人の3人家族で、子に重度の知的障害または重度の精神障害がある場合などです。

この場合、父および母がそれぞれ遺言を残しておくことで子に成年後見人をつけることを回避できる場合があります。

ここでは父が遺言を残し、父が死亡するという前提で考えてみましょう。

ポイント① 父の財産は母に渡るようにする

ケース①、②と同様の考え方で、父の財産は母に全て渡るようにします

ポイント② 母を遺言執行者に指定する

こちらもケース①、②の考え方と同様です。

ポイント③ 親族に財産を移転することも考える

上記の家族のケースでは、将来的に父と母両方が亡くなった場面を考えなければなりません。父と母がそれぞれポイント①と②の内容を踏まえた遺言を作成しておくことが第一段階、父または母が亡くなった場合、残された親は「子に成年後見人をつけること」か「親族に子の世話をしてもらうこと」を選択することになるでしょう

「子に成年後見人をつけること」を選択した場合は特に遺言を残さなくても財産は子(成年後見人がつき、その財産を管理する)に渡りますが、「親族に子の世話をしてもらうこと」を選択した場合は、遺言で親族に財産を移転することも検討しなくてはなりません。

各ケース共通のポイント

各ケースに共通する、または成年後見人をつけないための遺言作成における全般的なポイントについても触れておきます。

ポイント① 予備的遺言

遺言で財産を相続させるものを指定しておいても、その者が遺言者よりも先にまたは同時に死亡していた場合は遺言の効力を発揮できません

例えば、ケース②の例のように、父と母、長男、次男の4人家族で、父が知的障害のある 長男に成年後見人をつけないよう、母と次男に全ての財産を相続させるような遺言を残したとします。

しかし、母や次男が長男よりも先に死亡してしまった場合または父と母、長男が車の事故などで同時に死亡してしまった場合は、次男に財産が渡ることとなります(成年後見人をつけて相続をおこなうことになる)。

それをできる限り防げるように「予備的遺言」についての条文を追加します。

例えば先程の例で言えば、「父よりも先(または同時に)に母が亡くなっていた場合は、母に相続させるはずの財産は次男に相続させる」という内容の条文を追加します。次男の場合も同様です。

さらに遺言執行者やその他の決め事についてもについても同様の条文を追加しておきます。

ポイント② 付言事項

付言事項は法的効果の無い、いわゆる「メッセージ」のようなものです。

法的効果はありませんが、心理的効果はあります。付言事項は自由に記すことができるため、残された家族の仲が悪くならないよう配慮したメッセージを残しておくと良いかもしれません。

ポイント③ 遺留分

「遺留分があるからこの記事に書いてある内容の遺言は無効でしょ?」

と考えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。

また専門家の中でもこのような遺言は作らないほうが良いと説明してしまう者もいるようです。

しかし遺留分を無視した遺言は有効ですし、現在でも多くの家庭で遺留分を無視した遺言の作成および遺言内容の執行手続きが行われています。逆に言えば遺留分を無視しないで成年後見人をつけないための遺言というのは考えられません

ただし、一定の金額を障害または認知症のある者に相続させる必要が出てくる場合があるため、次項で説明します。

ポイント④ 相続税の障害者控除

相続税の障害者控除を適用させたい場合は、障害または認知症(障害と同等と認められた者)のある者に相続財産が渡ることが必須となります。

障害者控除を受けられる相続とは

そのため、障害者控除を使いたければ成年後見人をつけたくない者へも財産を渡さなければなりません

しかし、この財産は「現金」で足ります。さらに「1円以上」で構いません。

相続税の障害者控除は数百万円の相続税を控除できる非常に強力な制度であり、しかも税申告の前提無し(障害者控除適用後に基礎控除額に収まっていれば申告自体不要となる)で使えるという制度ですのでぜひ活用してください。

ポイント⑤ 遺言執行者の単独執行を認めない銀行等がある?

これは例外的な話ですが、遺言執行者を定めていてもその他の法定相続人の署名押印を求めてくる銀行が存在するというものです。

しかし私の経験上はそのような銀行には出会ったことがありません。

万全の体制を取るために、以下のポイントを考慮しましょう。

・遺言執行者の条項に「遺言執行者は排他的に遺言の内容を実現できる」という旨を強調しておきましょう。

・遺産に記載することとなる銀行に事前に問い合わせ、都合が悪ければ他の銀行に乗り換えることも考えましょう。

成年後見人をつけないための遺言作成はかなり大変?

以上、成年後見人をつけないための遺言作成のポイントについて解説しましたが、安心できる内容の遺言を作成するのはかなり大変です。

「公証役場に依頼するから大丈夫」とお考えの方も多いと思いますが、公証人の中でも「成年後見人をつけないための遺言」というのはかなりのレアケースですので、はっきり言って慣れている方は多くありません。

趣旨の食い違いで誤った遺言の内容となってしまう可能性は十分に考えられますので、専門家の目は必要となるでしょう。

当事務所では、「成年後見人をつけないための遺言作成」に特化したサポートを行っておりますので、お困りの方はぜひ一度ご相談ください。

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