平等に子に不動産を残さないと後々トラブルになる?
成年後見制度が絡んだ場合、親が子に対して不動産を残した際にトラブルとなる可能性があります。
今回は、認知症及び障害者のいる家庭で、片方の子のために不動産を渡しておいた場合に考えられるトラブルのケースをご紹介します。
片方の子のみに土地を渡していた場合に起こりうる恐ろしいトラブル
父と母、長男、次男の4人家族。長男には重度の知的障害があります。
父と母、長男と次男は一緒の家に住んでいましたが、父がこの度父の名義で別の土地を購入しました。
父としては、長男は将来施設へ入所するだろうから、次男には不動産を残してあげたいという考えでした。
数年後、次男は贈与税がかからないよう、父の名義のまま次男名義の建物を建てて独立することになりました。
その20年後、母が認知症になってしまいました。現在では母は施設に、長男も施設に入所しています。
そしてその数年後、父が亡くなり相続が開始しました。
遺言が無かったため、次男は母と長男に対して成年後見人の申立を行いました。一ヶ月後に成年後見人が選任され、遺産分割協議を行うことになりました。
父の財産を調査してみると、父が住んでいた土地と家屋(評価額1000万円)、次男のために買った土地(評価額3000万円)の他、預貯金が600万円でした。
この場合相続税の基礎控除は4800万円であるため、相続税はかかりません。しかし大きな問題が生じました。
遺産分割協議は、母の成年後見人および長男の成年後見人、そして次男の計三名で行いました。その中で成年後見人達はこう言ったのです。
「次男さんが今の家に住み続けるにはお母さんとお兄さんに現金を支払ってください。」
代償分割は負担が大きい
成年後見人は本人のために法定相続分を主張してくるのが原則です。先程の相続で法定相続分を当て込んでみると
母 1/2(2300万円)
長男1/4(1150万円)
次男1/4(1150万円)
次男の土地は3000万円の価値がありますから、そのまま次男が受け継ぎたいなら母と長男にその分のお金を支払わなければなりません。これを代償分割と言います。
母が今まで父と住んでいた不動産を引き継ぎ、長男が現金600万円を引き継いだとしても、まだ法定相続分には足りないため、次男は母に1300万円、長男に550万円の計1850万円を支払わなければならないことになるのです。
もし支払うことができなければ次男は今住んでいる土地を母と長男との共有名義にするか、または土地を売却して現金化するしかありません。
もちろんこれは成年後見人の有無に関わらず生じ得る問題です。しかし通常の遺産分割協議は家族が配分を自由にできるのに対して、成年後見人が含まれる遺産分割協議では、成年後見人は本人の法定相続分を死守しなければならないため、このようなケースになると手段が限られてしまうのです。
ということで、父が良かれと思って行った行動が逆に家族を困らせる結果になってしまいました。
遺言があれば問題を解決できた
このようなことにならないためには、父が
①不動産を買わずに現金を残しておく
または
②遺言を残しておく
という必要があったのです。
特に最も有効だったのは②の遺言です。遺言で3000万円の土地は次男に相続させるということにしておけば、今回のようなトラブルは起きない可能性が高かったでしょう。
父と母は次男に土地を渡し、長男は施設で面倒を見てもらうという算段だったわけですから、それを遺言に残しておけば良かったのです。
今回は「次男が相続のタイミングで現金を支払わなければならなくなる」というケースのご紹介をしましたが、家族に意思能力の問題が生じている場合は、その他のトラブルも考えられます。
適切な遺言を作成しておくことでこれらのトラブルを回避することが可能となりますので、お困りの方はぜひ一度当事務所へご相談ください。