認知症や障害者の相続対策として最も簡単で有効なのは自筆証書遺言保管制度を活用して遺言を書いておくこと!
認知症や障害者の方が相続人にいる場合、被相続人となる者が生前に自筆証書遺言を残しておくことによって成年後見人を選任しなくても良いことがあります。
「自筆証書遺言は難しい」、「自筆証書遺言は無効になることがある」などの話を聞いたことがあるかもしれませんが、自筆証書遺言は最も費用がかからず、書く内容によっては最も簡単な遺言方法です。
今回は、自筆証書遺言がなぜ最も簡単なのかという理由と、自筆証書遺言を書いておいただけで成年後見人を選任することを回避できる例をご紹介します。
なぜ自筆証書遺言は一番費用がかからず簡単な遺言なのか
令和2年7月10日からの改正法施行で自筆証書遺言の確実性が担保される?
「自筆証書遺言は無効となる可能性があり、自分で行うと危険である。」こういったことをどこかで見聞きしたことがあることだと思います。
確かにそれは本当だったと言えます。令和2年7月9日までは。
しかし、令和2年7月10日からは、そう言えなくなりました。なぜなら、自筆証書遺言の保管制度が開始したからです。
法務局で自筆証書遺言を確認して預かってくれる!
令和2年7月10日から始まった自筆証書遺言保管制度の概要は、「自筆証書遺言を法務局が内容を確認し、保管をしてくれる。そして遺言者が亡くなった時には法務局から指定された相続人等に通知が行われ、通知が行われた者等は遺言の証明書を受け取り、遺産の引き継ぎを行うことができる。」というものです。
自筆証書遺言保管制度が最も有効なのは「遺言の様式を確認してくれる」こと!
この制度の最も重要な点は法務局で「保管」をしてくれることでなく、「様式を確認」してくれることです。この制度の活用により、自筆証書遺言が無効となってしまうリスクを大幅に減らすことができるようになったのです。※遺言の内容については法務局では一切関知しません。
この制度を利用することにより、認知症や障害者が相続人の中に含まれる場合でも成年後見人を選任せずに相続を行うことが比較的簡単にできるようになりました。
自筆証書遺言保管制度を活用し成年後見人を選任せずに相続を実現する活用例
それでは、自筆証書遺言を活用した成年後見人不要の相続手続きについて、シンプルな例を2例紹介します。
相続人の中に認知症の方がいる場合
ケース①:父、母、子の三人家族。母は重度の認知症で意思能力が無い。
上記の例であれば、父が亡くなった際の相続には原則成年後見人が必要となります。
父が亡くなった場合の相続人は母と子の2名でありますが、母は意思能力が無いため、有効な遺産分割協議ができません。
そのため、成年後見人を選任し、数十万円の費用と数カ月の長い期間をかけて遺産分割協議を行うこととなります。
では、同じケースで、父が自筆証書遺言を残していたという場合はどうでしょう。
ケース②:ケース①の場面で父が自筆証書遺言で「全財産を子に相続させる」と残していた場合。
この場合ですと、成年後見人を立てずに相続を行うことができます。母に財産を全く移さないため、母自身の預貯金や不動産などの相続手続きを行う必要がなくなるからです。
相続人の中に重度の障害者が含まれている場合
先程と同様に、重度の障害者が相続人に含まれている場面を考えてみましょう。
ケース①:父、子二人の三人家族。母はすでに死亡している。下の子は重度の知的障害があり、意思能力が無い。
上記の例で父が亡くなった場合、子二人で遺産分割協議を行うには原則成年後見人が必要となります。
しかしこのケースでも父が自筆証書遺言を残しておくだけで成年後見人が不要となるのです。
ケース②:上記の例で父が「全財産を上の子に相続させる」旨の自筆証書遺言を残していた場合。
この場合ですと、上の子は単独で全財産の相続手続きを行うことができます。
極端にシンプルな2例となりましたが、遺言が無かった場合と遺言があった場合で大きく差が出ることが分かると思います。
ではその他の補足点についても説明します。
自筆証書遺言保管制度では「遺言があることを知らなかった」ということを回避できる!
上記の2例で、残された者が遺言の存在を知らなかったというリスクが考えられると思います。
遺言があることを知らずに成年後見人を選任してしまうと、後で遺言が見つかったとしても成年後見人に辞めてもらうことはできません。
もちろん家族に伝えておくことが一番簡単ですが、法務局にお願いしておくこともできます。
「自分が亡くなったら遺言の存在を相続人の〇〇に通知する。」といったことも可能ですので、自筆証書遺言保管制度は大変便利なのです。
遺留分は気にしなくて良い?
上記の例では「全財産」を一人に引き継がせるといった内容の自筆証書遺言となっています。
意思能力が無い者に多額の財産を残しても使用することはできません。そのため、理想としては他の家族がその分の財産を所持し、本人のために使ってあげるというのがベストと言えるでしょう。
しかし、「遺留分っていうのがあるのでは?」とお考えの方もいると思います。遺留分とは、相続人が法定相続分の一定の割合は必ず確保できるという決まりです。
この遺留分について、実際はそれほど気にしなくても良いかもしれません。
なぜなら、遺留分は権利を行使することによって実現できるものであるため、意思能力が無い以上遺留分を請求することが出来ないからです。
本人の権利を無視できると考えると大変怖いものとなりますので、なおさら財産を受け取った家族の倫理観が重要となってくるでしょう。遺言者としては、この点を生前にしっかりと伝えておくことが必要です。
成年後見人から遺留分を主張されたら?
ちなみに、後に何らかの理由で意思能力の無い者に成年後見人が選任された場合、その成年後見人から遺留分を請求される可能性はあります。
そのため、全財産を受け取った家族は、本人の遺留分を別個に所持しておき、請求があったら返却できるようにしておくと楽でしょう。本人のための口座(名義は自分自身)を作っておき、本人の必要費を支出し、遺留分の請求があったらその残りを返済すると考えれば良いでしょう。
相続税の配偶者控除を利用する場合は注意!
相続税の配偶者控除は1億6千万円まで相続税がかからないという強力な制度ですが、上記の認知症の例のように全財産を子に相続させてしまうと活用できません。
認知症の親が高齢であった場合などは、すぐに活用しない不動産や預貯金をあえて分配しておき、配偶者控除を活用できる方法を考えることも必要となります。
障害者控除を使うためには障害者にも一定の財産は相続させること
障害者控除は、相続税を大きく減額させることのできる制度です。
しかし、上記の知的障害者のいるケースのように障害者の子に一切相続分を渡さないと障害者控除を使うことができません。その点を考慮し、最も障害者控除を活用できる方法で財産の分配を考えましょう。
自筆証書遺言や相続税の控除の活用について分からない場合は専門家に相談を!
自筆証書遺言の保管制度とそれを活かした相続例と注意点をご紹介しましたが、相続は税金も絡んでくる難しい手続きです。
財産額が大きく、相続税の基礎控除額を超えてしまう場合などは、専門家に相談することをおすすめします。
行政書士花村秋洋事務所では、障害者や認知症の方が相続人に含まれる場合の手続きを専門的に行っており、相続税や不動産登記についても提携の税理士や司法書士と手続きを進めることが可能です。
特に障害者の相続については、専門で扱っているところが大変少ないため、全国対応とさせていただいておりますので、成年後見人が必要だと言われて困っている方などはぜひ一度ご相談ください。