成年後見人なしで相続手続きを進める方法は結構ある?
認知症、知的障害、精神障害などをお持ちの方が相続人の中にいる場合、まず成年後見人を立てることを考えると思います。
銀行や専門家からも「その場合は成年後見人が必要です」と簡単に言われてしまうこともありますし、ネットなどにも「認知症の相続には必ず成年後見人が必要!」とか「障害者の相続には必ず成年後見人が必要!」などの誤った情報が平気で載っていたりすることも原因の一つと言えます。
しかし、認知症や知的障害、精神障害のある方が相続人に含まれる場合でも、成年後見人なしで相続手続きを進められる方法は結構あるものです。今回は、ケース毎に成年後見人なしで相続手続きを進められる方法をご紹介いたします。
※有効な遺言があればそもそも相続手続きに成年後見人が不要となる場合が多いです。
相続をしない【認知症高齢者向け】
これはあまり知られていない、いわゆる灯台下暗し的な発想とも言える手法ですが、実は実務上は多く使われています。
そもそもの相続手続きをしない。そんなことが可能なのかと言うと、もちろん可能なのです。
とは言っても最終的には相続手続きをします。相続できる権利を放棄する「相続放棄」とは全く違うものです。
正確に言うと、「認知症で意思能力が無く、遺産分割協議をするには成年後見人が必要な相続人が亡くなるまで」相続をしないということです。
例を挙げます。85歳の旦那さんが亡くなりました。相続人は80歳の奥さんと55歳の子一人です。80歳の奥さんは重度の認知症を患っており、意思能力や判断能力が無い状況にあります。
一般的な方法は成年後見人をつける
上記の例であれば、一般的には80歳の奥さんに成年後見人をつけてから、その成年後見人と55歳の子で遺産分割協議をします。そして結果的には旦那さんの財産を、法定相続分である半分ずつ分けることになるでしょう。
相続手続きをしないという方法もある
それでは次に、「相続手続きをしない」方法を考えてみます。
旦那さんが亡くなっても相続手続きは行いません。旦那さんが亡くなったのを銀行に知られると旦那さんの銀行口座は凍結されますが、それでも相続手続きはしません。
そして数年後、奥さんが亡くなりました。
その時はじめて相続手続きを行います。相続人は子一人なので、遺産分割協議も必要ありません。ただご両親2名分の遺産を子ども名義にするだけです。
以上、成年後見人なしで相続手続きが終わりました。これは極端な例ですが、子が何人いてもこの方法を取ることができます。
※相続登記義務化により、不動産の相続放置は実質3年間のみできるということになりました。
「相続をしない」という方法を取った時のメリットとデメリット
大きなメリットは2点
この方法を取ることで一番のメリットは「成年後見人の申し立て手続き」にかかる費用と手間をカットできることです。成年後見制度の利用は、費用がかかることはもちろんのことその手間がかなりの負担となりますので、この両方の点をカットできるというのは大きなメリットとなります。
しかしその反面、デメリットもあります。その主なものとしては3点です。
相続税の手続きは必要となる
相続手続きを行わないと言っても、遺産の名義変更を行わないということであり、相続税の手続きを怠ってはいけません。
もちろん相続税が発生しない額であれば相続税の申告自体が不要なのですが、特別な控除を活用したい場合は相続税の申告手続きは必要です。
被相続人が亡くなってから10ヶ月までに相続税の申告が必要となりますので、もし相続手続きを行っていない場合でも、「法定相続分で相続をした」という仮定の額で相続税の申告を行わなければなりません。
資産が多ければ多いほど、デメリットが出てくる可能性が高いでしょう。
先に亡くなった方の財産を利用できない
先程の例で言えば、最終的に相続人になる子は、奥さんが亡くなるまでは先に亡くなった旦那さんの財産を使用することはできません。
奥さんが亡くなるまでは、両者の財産を使用することはできなくなりますので、生活資金などの不足が考えられる場合はこの手法を取ることができない場合もあるでしょう。
しかし事前に対策を取っておくことである程度対処することはできます。
名義変更をしないと不都合が生じる手続きなどがある
長期間名義変更などを行わずに放置してしまうと不都合が生じる手続きがある場合は注意が必要です。
※法改正により未登記による罰則が適用されるようになりました。
また負債がある場合は、それを承継しなければなりません。
相続財産よりも負債の方が大きければ「相続放棄」をすることができますが、その場合は奥さんに成年後見人をつける必要があるでしょう。
法定相続分で相続をする(認知症、知的障害、精神障害共通向け)
法律上の建前では、法定相続分で相続財産を分け合う場合には遺産分割協議が必要ありません。
遺産分割協議が必要ないということは、相続手続きのために成年後見制度を利用する必要はありません。
例えば不動産登記は法定相続分の持ち分で名義変更を行う場合、遺産分割協議書の添付は不要となりますので、相続人のうちの一人(ここでは子)から相続登記を申請することができます。
しかし、問題は銀行や証券会社等の金融系機関です。
銀行や証券会社等では、法定相続分の分割であろうと一律に遺産分割協議書を求めてくることがあります。その中で認知症や障害のある方が相続人に含まれていることが知られた場合、「成年後見人をつけないと名義変更が出来ない」の一点張りとなってしまうことがあるので注意が必要です。
遺産分割協議書無しでも預金口座の凍結を解除する方法はありますが、結局は相続人全員の署名が必要となります。また、相続税の申告をする必要がある場合、結局は遺産分割協議書が必要となってしまうこともあります。
意思能力や判断能力の程度を見極める(認知症、知的障害、精神障害共通向け)
認知症や障害があっても、意思能力や判断能力に支障が無ければ成年後見人なしで相続手続きを行うことができます。
また、精神障害者の方で症状に「波」のある方は、その症状が収まっている時であれば遺産分割協議を行うことが可能でしょう。
しかしこの判断は一般市民には容易にできません。最終的には裁判所が判断することになるからです。
しかも、意思能力や判断能力があるかないかだけを判断するために裁判所を利用することなどできません。家庭裁判所に成年後見制度利用の申し立てをするか、誰かに「遺産分割協議無効確認の訴え」などを起こされたときに判断されることになります。
そのため、意思能力や判断能力に懐疑があるまま遺産分割協議をしてしまった場合は「後に遺産分割協議が無効となる可能性がある」ということを覚悟しておきましょう。
成年後見人なしで相続をする手段の検討はその分野の専門家に相談を!
成年後見人なしで相続をする方法をいくつかご案内させていただきましたが、これらの手続きを自分だけで行うには限界があります。行政書士花村秋洋事務所では、社会福祉の現場経験豊富な行政書士が、成年後見人をつけるつけないの判断やそのメリットデメリットなどを丁寧にお伝えしますので、お困りの方はぜひ一度ご相談ください。