意思能力の有無が疑われる者や入院等で本人が直接印鑑登録手続きを行えない場合も印鑑登録は認められるのか?
相続手続き等には「印鑑証明書」が必要となります。印鑑証明書とは、自分の印鑑を正式な物(実印)として証明するためのものですが、そのためには「印鑑登録」を行う必要があります。
印鑑登録は15歳以上の者であれば住所地の自治体(役所)で行うことができます。
一般的な作成方法としては、
①本人が登録する印鑑と運転免許証やパスポートなど顔写真が貼付されている本人確認書類を持って窓口に行く
②申請書を記入する
以上でその日に印鑑登録が行われます。
これだけ簡単な印鑑登録手続きですが、状況が変わると手続きは煩雑になってきます。
印鑑登録を行うには、「本人がその意思を持って行うこと」が必要となりますので、それらが確認できない場合はより複雑な手続きが必要となるのです。
さらに困ったことに、印鑑登録手続きは自治体により取扱い方の違いがあります。全国で統一されたものが無いため、お住いの地域の自治体によって手続き方法が変わってくることもあるので注意が必要です。
そのため、今回は知的障害や精神障害があったり、病院に入院していたりする場合などの少しイレギュラーなケースの印鑑登録申請方法についてお伝えしたいと思います。
代理人による印鑑登録申請もOKだが手続きはかなり煩雑
印鑑登録は原則本人による申請が必要ですが、代理人による申請も認められています。これは全国どこでも可能となっています。
【さいたま市の例(さいたま市HPより)】
代理人が申請する場合(即日登録はできません)
持参するもの(1回目)
- 登録する印鑑
- 印鑑登録者本人の自署した委任状
- 代理人の認印(朱肉を使うもの)
- 代理人の本人確認書類(健康保険証等 下記参照、コピー不可)
持参するもの(2回目)
- 必要事項を記入した回答書
- 登録する印鑑
- 印鑑登録者本人の自署した委任状
- 印鑑登録者本人の本人確認書類(健康保険証等 下記参照、コピー不可)
- 代理人の認印(朱肉を使うもの)
- 代理人の本人確認書類(健康保険証等 下記参照、コピー不可)
以上の例より、代理人による申請の場合は少なくとも2回の来所が必要となります。印鑑登録者からの委任状はもちろんのこと、代理人による申請が行われたのちに自治体から本人宛に照会書が送られ、その回答書に本人が記入して代理人に渡すという手順により意志確認が行われるといった仕組みです。
本人に電話確認が行われる自治体もあり
書類のみのやり取りだけでなく、代理人による印鑑登録の申請に電話での本人確認の手続きを要する自治体も多くあります。
【草加市HPより】
代理人が申請
- 登録する印鑑
- 委任状(様式は下記の添付ファイルからダウンロードできます)
- 代理人の本人確認書類
申請時に電話で、登録者本人の意思確認をします。
本人が入院中や入所中の場合の本人確認方法は?
それでは、代理人による印鑑登録申請の際に本人へ電話確認を行う自治体の場合、もしも本人が入院中だったり入所中だったりする場合はどうなるのでしょうか。
某市役所からは「病院や施設に電話をして、本人につないでもらう」とのことでした。入院中や入所中でも対応は可能というわけですね。
知的障害や精神障害がある者でも印鑑登録は行える?
本人に知的障害や精神障害があり、意思能力に支障がある場合にも印鑑登録は行えるのでしょうか。
再度さいたま市HPの例を見てみましょう。
印鑑登録ができる方
- さいたま市に住民登録をしている方。
- 15歳未満の方及び意思能力のない方は、印鑑登録をすることができません。
成年被後見人の方の印鑑登録について
成年被後見人の方は、成年被後見人ご本人が窓口に来庁され、かつ法定代理人(成年後見人)が同行している場合に限って、登録が可能となります。
必要書類のほか詳しい手続き方法は、以下に記載されているお住いの区の区役所区民課へお問い合わせください。
「意思能力のない方」は成年後見人をつけて印鑑登録を行う必要があると定められています。
しかし、意思能力は確かにあるのだが、少々支障がある者などについてはどうでしょうか。それはケースバイケースだと思われます。
本人と家族が市役所に出向き、本人申請で印鑑登録を行うという方法もありますし、回答書に記入することが可能であれば代理人による申請方法も用いることができます。
代理人による印鑑登録申請時に用いられる「照会書」と「回答書」はどんなもの?
代理人よる印鑑登録申請時に自治体から送られてくる「照会書」と「回答書」とはどのような様式なのでしょうか。
和歌山県西牟婁郡にある上富田町の印鑑条例施行規則の中に様式が載っていました。
自治体により書式は違いますが、画像のように、住所、氏名、生年月日を記入する欄がありますので、そこに自署することが必要となります。
そのため、症状によっては逆に本人が直接自治体の窓口に行ってしまった方が楽かもしれません。
どの程度の意思能力があれば印鑑登録は行える?
しかし、どこまでの意思能力で印鑑登録が行えるのかはやはり「自治体によって差異がある」でしょう。
私の情報では、言葉はうまく話せないけど相槌や頷きで意思確認をしてもらえたという自治体もありました。その他、重度に区分される知的障害の方でも印鑑登録は行えたという話も多く聞いています(当然重度の区分の方でも意思能力がしっかりしている方はたくさんいらっしゃいます)。
どちらの方法を取るか悩み続けている方は、思い切って窓口で直接申請してしまうのも良いかもしれません。
印鑑証明書が無いと相続手続きは行えない!
印鑑証明書は実印の有効性を証明するために必要となる重要な書面であり、相続手続きでは必ず必要となります。
そのため、印鑑登録が行えなかった場合、相続手続きは一人では行なえません。
意思能力はあるのに自治体に印鑑登録が認められなかったため成年後見人をつけざるを得ないといった状況に陥る方もいるでしょう。
言い換えれば、自治体により、そして窓口担当者により成年後見人の必要性が左右されるというかなり危険な状況であるとも言えます。
※こちらの場合もやはり印鑑証明書があることが大前提となります。
知的障害や精神障害のある方が相続手続きを行うためにはまず印鑑登録がスタートラインとなります。
不明な点はお住まいの市役所等に聞きながら手続きを進めていきましょう。
※当事務所の個人的見解ですが、印鑑登録についての本人の意思確認については、将来的にはより厳しいものになってくると思います。今は必要ないと思っている方でも、必ず必要となる時が来るものであるため、できるだけ早めに印鑑登録を行っておくことをお勧めいたします。