成年後見人を申し立てられる人とは
本人・配偶者・4親等内の親族・未成年後見人・未成年後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人・検察官が申立人となります。また、法律上の一定の条件を満たしている場合には、市町村長も申立てができます。なお、「親族」とは、民法上、6親等内の血族、配偶者、3親等以内の姻族を指します(民法725条)。したがって、4親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族が、成年後見開始申立ての申立人になることができる親族に該当することになります。
父、母、長男、次男、三男(知的障害者)という5人家族の例を挙げると、三男に成年後見人をつけたいと考えた場合には少なくとも5人全員に申立権があるというわけです。
成年後見人を申し立てるか否かを家族間で統一させておかないとトラブルの原因になる
では、なぜ成年後見人を申し立てるか否かを家族間で統一させておかないとトラブルの原因になるのでしょう?
相続のタイミングを例にします。
先程の5人家族のうち、母が亡くなったため相続が開始しました。
そして三男の知的障害が軽度だったとしましょう。
長男と次男は三男の知的障害が軽度であり、意思能力はしっかりしていると考え、遺産分割協議を行うつもりでした。
しかし父は知り合いに「知的障害者には成年後見人をつけないと相続手続きができない」と言われたため、他の家族に対し「三男に成年後見人をつけないと遺産分割協議は無効になる」という主張をしました。
三男本人は「知らない人にお金を管理されるのは嫌だ。今まで通り家族が管理して欲しい。」と言っています。
最悪の結果となることも
長男と次男は三男が成年後見人を必要とせず、また成年後見人をつけたら今後の費用もかさむため、行政書士に依頼して遺産分割協議書を作成しました。
父も一旦は遺産分割協議書に署名と押印をし、三男も言われるまま遺産分割協議書に署名と押印をしました。母の預貯金と不動産の持ち分は将来を考えた内容で分配され、相続税の申告も終えました。
しかし、一年後、父が事情を話していた知り合いに話すと「成年後見人をつけていないので遺産分割協議は無効となってしまう」と言われてしまいました。そのため、焦った父は息子達の反対を押し切りって三男のために成年後見人の申立を行ってしまいました。
成年後見人は三男の法定相続分を主張したため遺産分割協議をやり直し、移転登記や相続税の申告もやり直すことになってしまったため、莫大な費用がかかってしまいました。
つけなくて良い成年後見人をつけることになってしまう
家族間の意思が統一されていないとこのようなトラブルが起こる可能性があります。
つけなくても良い成年後見人をつけてしまうということだけでなく、成年後見人が入ることで遺産分割協議をやり直すことになってしまいます。
司法書士に依頼してさらに持分移転登記を行うとなると、費用は倍かかると考えて良いです。相続税の修正にも相当の費用がかかるでしょう。
成年後見の申立は家族の誰からでもできてしまう
ここでのポイントは、「成年後見の申立は家族の誰でもできてしまう」ということです。
いくら長男と次男が反対していても、父の一存で申立自体はできてしまいます。
三男が反対していることは家庭裁判所でも一考の余地はあるでしょうが、本人が反対していても成年後見人等がつけられてしまう可能性は十分にあります。
今回は父が知り合いから謝った情報を提供されたことにより起きてしまったトラブルですが、これが家族間の怨恨による場合だってあり得ます。
家族に財産を費消させようとしたり、財産を使わせづらくしようとしたりするために成年後見制度が用いられてしまったら最悪です。
しかし家族の怨恨による成年後見申立も他の家族が防ぐのは難しいといった問題点が成年後見制度にはあるのです。
遺産分割協議をやり直すのは費用もかさんで大変!十分な共通理解を家族で持とう!
以上のように、家族間で成年後見人の申立を行うか否かで意見が食い違うと大変なことになる可能性があります。
家族(及び法定相続人)全員が成年後見人の申し立てについての考え方を同じくしておかなければ、後々にトラブルとなることがあるのです。
人から聞いたことを鵜呑みにして軽はずみに成年後見人をつけてしまった後は悲劇です。家族で十分に考えた上で申立を行わなければなりません。
当事務所では、成年後見人についてのメリット・デメリットについてもご相談に応じることが可能ですので、お困りの方はまずご連絡をいただければと思います。