知的障害者に関する「親亡き後」の財産移転についてシミュレーションを通して検討する
現在、「親亡き後問題」という言葉が障害者や引きこもりの方がいるご家庭に不安をもたらしていると思います。
しかし、この「親亡き後問題」は確かに重大な問題です。
事前に準備をしているご家庭であれば最悪の自体は回避できる可能性が高いですが、何も準備をしていないご家庭では対処が難しい状況に陥ってしまうことも多々あります。
また、一族の財産移転に関しても、準備をしていた場合とそうでない場合で、大きく差が出ることがあります。
今回はこの親亡き後の財産移転という点について、例を挙げてシミュレーションをしてみたいと思います。
親が亡くなった時の対策を考えていなかった場合
70歳の母と子二人(40歳の兄と35歳の弟)の三人家族。父はすでに他界しています。
兄には重度の知的障害があり、通所型の作業所に通っています。
弟は兄の支援に積極的で、通所の手伝いや休みの日に兄と遊びに行くなど、関わり合いが深くあります。
そんな時、母が急死しました。
弟は変わらず兄を支援していくつもりでしたし、それなりの資産も残っています。
しかし、近所の馴染みの銀行から「相続手続きには成年後見人が必要です」と言われ、そのまま兄に成年後見人をつける手続きを行ってしまいました。
成年後見人との遺産分割協議の結果、兄と弟で住んでいた自宅の持ち分は半分ずつとなりました。そして母の預貯金を1500万円ずつ分けることとなりました。
その後、弟が仕事の関係で遠方で暮らすこととなったため、兄は入所型の施設で生活することとなりました。
弟は遠方で結婚をし、そこで暮らすこととなったため、誰も住んでいない実家を売却し、新居を購入する費用にしようとしましたが、成年後見人から「兄の変える場所が無くなる」といった理由で拒否されてしまいました。弟は仕方なく賃貸マンションで生活を送り、誰も住んでいない実家の固定資産税を兄弟で払い続けることとなりました。
そして結果的に弟が先に寿命を迎え、次に兄が亡くなりました。弟夫婦には子がいなかったため、兄の預貯金1000万円は弟の妻には引き継げず、全て国庫に帰属しました。
上記のシミュレーションで対策を行っていた場合
上記の例で、もしもの時の対策を取っていた場合はどうなるでしょう。
まず、母が健在の時に、遺言を残しておきました。遺言の内容は「全財産を弟に譲る」といった旨のものでした。
こうしておくことで母が急に亡くなっても成年後見人を選任しなくて良くなりますし、全財産を弟に移すこともできます。
弟は兄の生活の面倒をみるつもりでしたので、こういった内容の財産移転でも全く問題はありません。
「兄には遺留分があるので全財産を移転することはできない」という専門家がいますが、問題なく全財産は移転できます。兄は法定相続分の二分の一を受け取る権利があるのですが、重度の知的障害があるため、それを主張することができないのです。
そのため、弟はその分を兄の生活のために使用してあげると良いでしょう。
そして、自宅の持分を全て弟名義にできたことも大きいでしょう。兄が入所施設に入って自宅に誰も住むことがなくなった時には売却してしまえば良いのです。
ちなみに福祉施設の契約については、弟が施設とどのくらい離れた所に住んでいるかで状況は変わると思います。
月に1回程度施設に訪れることができれば、そのまま継続して弟が兄の名で施設の契約を行うことを可能としてくれる施設もあります。それが不可能と言われてしまった場合は成年後見人等の選任が必要となります。
そして、兄には財産を残さず必要な支出のみを行っていたため、現金は最終的に国庫には帰属せず、弟の妻に残すことができました。
母が全財産を弟に渡す旨の遺言を残していた場合と何もしなかった場合を比較すると、成年後見人の選任費用及び報酬分や早めに自宅を売却できた代金分で大きく差が出ます。そして弟と兄が亡くなったあとに弟の妻が亡くなった場合でも、妻に兄弟や甥姪などがいた場合にはさらに財産を引き継ぐことができます。
家族の状況に合わせて最良の方法を検討する
現在、親亡き後の財産移転に関しては、「家族信託が有効」と言われています。家族信託の仕組みを活用することによって一族の財産移転計画が円滑に進められます。
しかし、遺言一つでも十分に計画的な財産移転を行える場合もありますので、ご家族の状況に合わせて検討すると良いでしょう。
行政書士花村秋洋事務所では、障害者専門の相続を行っております。そのご家庭ごとの最良の財産移転計画をお考えの際は、ぜひご活用ください。