親亡き後対策として生命保険信託がうまく活用できるパターンと出来ないパターン

障害者の将来(親なき後問題)

親なきあと対策に生命保険信託は有効?

障害等のあるお子さんを残して親が無くなった後の問題を総じて「親なきあと問題」と言いますが、親なきあと問題への対策として「生命保険信託」が有効という話は聞いたことがあるかもしれません。

では、本当に親なきあと対策として生命保険信託が有効なのか。結論としてはケースによっては大変有効だが、ケースによっては生命保険信託を活用するメリットが少ない場合があると言えるでしょう。

今回は、本当に生命保険信託がうまく機能するケースとそうでないケースについてお伝えしたいと思います。

生命保険信託とは?

生命保険信託とは何か。文字通り「生命保険」と「信託(家族信託)」を組合せて作られた保険会社の商品の一つです。

生命保険と信託の良い部分をうまく組み合わせた画期的な商品であると言えるでしょう。

生命保険信託のポイント

生命保険信託と聞くと大変難しく思われるかもしれません。確かに生命保険信託は保険会社のサービスの一つであり、その内容も多種多様です。

ここでは、生命保険信託の基本的なポイントについて分かりやすく解説します。

生命保険部分

単純に一般的な生命保険と考えていただいて構いません。

掛金を支払い、自分が亡くなったら保険金が支払われる。この点については疑問は生じないと思います。

信託部分

生命保険信託が一般的な生命保険と違うのがこの信託部分です。

この信託部分は「自分の死後」に対応が行われるものですので、保険金が支払われた後に自分が何かするということは残念ながら不可能です。

しかし生命保険信託は「自分の死後に自分の保険金をどう活用するかを生前に決めることができる」という性質を持つ画期的な商品だということを覚えておいてください。

自分の死亡保険金をどう活用するか

生命保険信託は「自分の死後に自分の保険金をどう活用するかを生前に決めることができる」という性質のものだと説明しましたが、どういった活用方法が考えられるでしょう。

生命保険信託では、自分が亡くなった後に支払われる保険金で「信託」を行います。

信託とは、信託機関や他の者に財産(ここでは現金)を預け、その財産を自分の希望通りに扱ってもらうという仕組みのことです。

例えば、「自分の家族に支払って欲しい」ということももちろん可能です。これは一般的な生命保険と何ら変わりはありません。

一般的な生命保険は受取人を指定することができますので、指定した家族に直接保険金を支払うことができます。

それでは、生命保険信託ならではの活用方法はどのようなものでしょうか。

支払い方法が自由自在

生命保険信託では、保険金は一括支払いでなくても構いません。むしろ一括支払い以外の方法が取れるということが大きなメリットなのです。

例えば「子に毎月10万円を支払って欲しい」というのもOKです。

「○年○月から支払って欲しい」という期間の指定も可能です。

このように支払いの自由度が高いというのが長所の一つです。

受益者の死亡後も自分の希望通りにできる

受益者というのは、前述した例の「子に毎月10万円を支払って欲しい」の「子」にあたる、生命保険信託の恩恵を直接受ける者のことです。

子が早くに亡くなってしまったとしましょう。そしてその者に財産を引き継ぐ相続人がいなかった場合、その者名義の財産は最終的に国庫に帰属(国の物になる)します。

しかし生命保険信託で信託された財産はこの縛りを受けません。財産の所有者はあくまでも受託者(信託機関)名義だからです。

一般的な生命保険で1000万円を子が受け取ったとしましょう。その1000万円の名義は子になりますので、その子が相続人無くして亡亡くなった場合はその財産は最終的に国庫に帰属します。

生命保険信託の場合は、同じ1000万円のうち、「子が使い切る前に亡くなった残りの分」を他の者に引き継げるのです。

知的障害者が本人の思いを伝える

「他の者」とは、例えば相続人では無い親族(相続人の誰かでもOK)やお世話になっている人(社会福祉法人)などです。

自分の子が受け取ることが出来なかった部分の財産の行き先を自分自身が決めることができるというのも生命保険信託の大きなメリットと言えます。

生命保険信託の全てのメリットをうまく活用出来るケース

生命保険信託は保険会社・信託会社によりその内容は様々ですので、それを細部まで説明するのは簡単ではありません。前段でご紹介した内容も含め、実際に加入を検討している場合は必ず取り扱い保険会社に相談しましょう。

ここでは本題である「親なきあと対策として活用できるケース」の一例をご紹介したいと思います。

生命保険信託がうまく活用できる家族のケース

それでは、生命保険信託がうまく活用できる家族のケースについてほんの一例ですが、実際の例を挙げて説明していきたいと思います。

子が一人でも自立して生活が送れる軽度の障害者の場合

残された子が、一人でも自立して生活が送れる程度の者である場合、生命保険信託は大きな活躍をします。

その一番のメリットとしては、「保険金相当額を分割で渡すことができる」ということです。

事例を上げますが、両親が亡くなり精神障害者の方が一人残されました。本人は一人で生活を送ることができます。

親御さんが残された財産総額は約3000万円。これを相続により取得しました。

客観的に見て不安に思う点はどこでしょう?私は「浪費」や「詐取」にあると思います。

本人の自己実現の障害

浪費や詐取のリスクが高い

健常者であってもいきなり3000万円という額が自分の物となった場合、おそらく支出の感覚が狂ってしまうと思います。親御さんが本人が安心して暮らせるようにと残した額がバランス良く使われるという保証はどこにもないのです。

また、大金を持っているということを他の者に知られた場合、「投資」などの話が持ち込まれることは多々あります。運用リスクについての知識の無いまま怪しい投資に手を出して財産を失っては元も子もありません。

生命保険信託の「分割受領」を活用した場合

これを生命保険信託で置き換えてみます。

親が亡くなった時の保険金が3000万円支払われるよう設定して掛金を払い続けたとしましょう。

親が亡くなった時、その3000万円は子のために信託されます。

そして親が「毎月○万円子に渡す」という内容の信託を設定していたらどうでしょう。

残された子は障害年金も受給していましたので、その収入と合わせると、毎月の給料に類似した収入が入ることになります。

一気に本人の元に渡ることにはならないため、浪費や詐取による費消のリスクを減らすことができるのです。

障害はないが就労意欲が無く引きこもりがちである子の場合

残された子に就労意欲が無く、自宅等に引きこもりがちである場合にも生命保険信託は有効です。

前述した例と同様に「定期収入」を得られるため、浪費や詐取のリスクを抑えつつ安定した生活を送ることに繋がります。

しかし障害年金の受給が出来ないケースであれば、老齢年金の受給年齢までは毎月の支払額を上げるなど、計画的な信託内容の設定を考えなければなりません。

通常の家族信託でも対応可能?

上記の活用例はもちろん通常の家族信託契約でも対応可能です。

家族信託契約を活用すれば、自分自身の財産を信託して自分の希望通りの支払い方法で活用することができます。

生命保険信託をあえて使う理由としては「価格の手軽さ」と「自分がいつ亡くなっも安心」という点でしょう。

実質的な負担を感じない

生命保険信託で有名なプルデンシャル生命を例に挙げると、生命保険信託を利用するために特別にかかる初期費用は5000円(税抜)程度です。これは家族信託と比較すると明らかに安価です。

家族信託を専門家に依頼して行った場合、最低30万円は必要です。信託財産の額によっては100万円以上かかってもおかしくありません。

生命保険信託独自の費用としては、自分が亡くなり実際に保険金が信託された後にかかる仕組みとなっています。

前述のプルデンシャル生命の例で見ると、分割交付の場合は保険金受け取り時に受領保険総額の2%(税別)、財産交付開始後は受け取り金額に関わらず年間2万円(税別)となっています。

これらの費用を保険金から支払うことになるため、実質の負担が無くなるというのが大きなメリットと言えるでしょう。

多額の預貯金を眠らせておく

貯蓄の必要が無い

家族信託との大きな違いは「貯金をする必要が無い」ということです。

家族信託では、今ある財産を信託するわけですから、今現在で財産が無ければ不可能です。

そのため、財産を残さないうちに親が亡くなってしまった場合、子には何も残せないことになります。

一方、生命保険信託は加入し続けている限り親の財産が全く無くても子に保険金が渡ります。これが決定的な違いと言えるでしょう。

自分が急に亡くなっても子には安定した生活を送らせることができるという絶対的な安心感を持って生活を送れるのは生命保険信託ならではのメリットです。そのため、親なきあと対策としては貯金と同視できる手法だと思います。

生命保険信託の「信託部分」をうまく活用することが出来ない家族のケース

それでは逆に生命保険信託をうまく活かしきれないケースというのはどのような場合でしょう。

※前述した生命保険信託の「負担面」や「貯蓄が不要となる点」については変わらずメリットを享受できます。ここでは本来の信託部分についてうまく機能しない点を挙げています。

兄弟や成年後見人などの信頼できる支援者がおり、なおかつ相続人が存在するケース

この場合、一般的な生命保険と生命保険信託(保険金分割受領の場合)を比較するとメリットは多くはないかもしれません。

なぜなら、生命保険信託は「分割受領できること」や「受益者の死亡後も残された財産を活用できること」に大きなメリットがあるからです。

分割受領のメリット部分について

兄弟や成年後見人などの信頼できる支援者がいる場合、その者が一括して受領した金銭を管理してくれるならば、信託での受託者と同じ役割を果たせると言えます。

そのため、親が亡くなったら確実に成年後見人をつける必要がある場合などは生命保険信託の「分割受領できる」といったメリットは活かしきれないかもしれません。

とはいえ、「信頼できる支援者」という点に注目すると、家族または家族後見人が本人の財産を管理する場合、全額を横領して逃げてしまうというリスクが無いとは言い切れません。その点では「受益者本人に分割して支払うことができる」という生命保険信託は安全性が高いと言えるでしょう。

残された信託財産を活用できるといったメリット部分について

先程の例にプラスして、なおかつ受益者に相続人がいる場合、信託部分のメリットは活かしきれないかもしれません。

というのも、相続人がいる場合は残された財産が国庫に帰属する可能性が少ないからです。

そのため一般的な生命保険金を受領した場合でも結論は同じとなるケースが多いでしょう。

もちろん特定の者に残余金を渡したいと考えている場合は、信託特有の機能を活かせることにはなります。そういった場合にはあえて生命保険信託という形を取ることに大きな意味があります。

生命保険信託のみでは不安が解消出来ないケース

生命保険信託に加入したからといって、それだけで全ての不安が解消できるわけではありません。

ここでは生命保険信託だけでは問題を解消出来ない代表的なケースについて触れておきます。

不動産を多数有している場合

親が不動産を多数有している場合、子にそれを運用または処分できる能力が無いとトラブルになる可能性があります

子に重い障害があり、成年後見人がついた場合には、その不動産を処分することもなかなか難しくなるでしょう。

子が亡くなった時に相続人がいれば、その不動産を引き継ぐことができますが、相続人がいなければやはり最終的に国庫に帰属することになってしまいます。

生命保険信託による保険金は現金のみの取り扱いですので、不動産や有価証券はまた別の形で遺言や信託を活用する必要があります

自分自身のケースを考えて利用することが必要

結局のところ、親なきあと対策は家族ごとによって取るべき手法が全く違います

今自分は何歳か、今残せる財産はどれぐらいか、自分が亡くなったら相続財産はどのように分配されるのか、残された子の障害の程度はどれくらいか、サポートしてくれる兄弟や親戚はいるのか、などにより遺言で済む場合もあれば生命保険信託を活用すべき場合もあります。

また、生命保険信託を活用する場合でも、やはりケースによって設定すべき信託内容は全く変わってきます

一括受領か分割受領か、支払われる保険金はどのくらいにするのか、子が保険金を受け取りきれずに亡くなった場合はその承継先を誰にするのかなど、一人や家族のみで考えるのには限界があります。

生命保険信託の設定内容については生命保険会社か障害者相続の専門家、または両者を交えて考えることが非常に重要です。

当事務所では福祉の現場経験のある生命保険担当者及び行政書士が、生命保険信託の設定方法やその他の親なきあとに関するご相談に応じることが可能ですので、お困りの方はぜひご活用ください。

文中に登場したプルデンシャル生命保険の生命保険信託については、下記の担当者がご相談に応じることができます。
プルデンシャル生命保険株式会社 郡山支社
ライフプランナー 今泉 翔太
(社会福祉士、精神保健福祉士)
TEL 080-6040-5339
Mail shota.imaizumi@prudential.co.jp

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