※今回お伝えする手法はやっておいたほうがやらないよりも良いという「簡単でお金もかからない」親なきあと対策の一つです。しっかりと財産を活用したい方は家族信託等をご利用ください。
成年後見人がついた時点で多額の財産が凍結するケース
多額の財産を残して親が亡くなる場合、その財産を相続した子がお金を使うことができなければ事実上凍結したことになります。
親が亡くなった後に子に成年後見人がついた場合が典型例です。
親の財産として、不動産1億円相当、預貯金1億円相当があったとしましょう。
親が亡くなり、障害のある子に成年後見人がつきました。相続人は子のみであるため、全ての財産を子が引き継ぎ、成年後見人が管理します。
亡くなった親としては子の生活の安定が確保されれば安心です。しかし、残された財産はほとんど活用されないまま、最終的に国に帰属します。
親の心理としては、子の生活が充分に確保されるのであれば、残った財産はお世話になった人などへ渡したいと考えると思います。しかし親が亡くなった後はそうすることができません。
成年後見人としては子本人の財産を「保全」するよう努めます。有効活用することは一切考えません。それが成年後見人の義務だからです。
いくらお金があるからといって散財することもできないため、本人が生きているうちに使い切ることは考えられません。
成年後見制度の利用に該当するのですから本人の障害の程度は障害年金の受給に相当する可能性が高く、また福祉サービスの自己負担額が0円(実費分除く)であるという可能性も充分にあり得ます。
そのため、本人の財産はあまり減少せず、本人が亡くなった際には多額の財産が残ってしまうという結果になるのです。
親が生前にやっておくことで子のためになること
それでは、財産を利用して子のために行っておきたいことは何でしょう。
それは、子をサポートしてくれる者へ財産を渡しておくことだと思います。
例えば、(子が亡くなった時の相続人となれない)親戚やご近所、子が利用している法人などです。
子の人的資源や子が暮らす地域への投資を行っておくことで子に何らかの恩恵がもたらされる可能性は充分にあります。
もちろんお金をかけて「家族信託」などの対策をとっておくことが一番だと思います。
しかしそこまではちょっと…という方でも、生前贈与や遺言、馴染みのお店への投資などで生前に資金を活用することも可能だと思います。
知的障害者や精神障害者の方であっても、住み慣れた地域で暮らす権利があり、また新しく居住する地域の中でもその人らしく生活を送っていけるよう支援を受けることができます。
その地域への投資ということも生前に行うことのできる一つの手法と言えるでしょう。
「親戚」の活用
子にお金を残しても使い切れない場合には、(相続人となれない)親戚に譲渡するという方法もあります。
家族信託という制度を使って親戚にお金を預けるにはなかなかの手間がかかります。
ただ親戚に譲渡しておくだけでは法的効果は何も生じませんが、親族という繋がりを強くしておくことも一つの方法と言えるでしょう。
「私がいなくなっても旅行に一緒に行って欲しい」とか「好きな物を買って欲しい」などを頼んでおき、そのための資金を事前に、または遺言で譲渡できるようにしておきます。
成年後見人に「贅沢だ」と思われてしまうような希望を叶えるためにはこういった方法を取ることもできます。
【親族を養子にするといった方法も考えることが可能です】
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福祉施設への寄付
子が利用している福祉施設へ寄付することも可能です。
これも事前または遺言によっても行うことができます。
「国にお金がいってしまうならせめてお世話になっている福祉施設にあげたい」と思う親はかなりの数いるでしょう。それを実現するためには生前の意志表示としての贈与や遺言が必要です。
デメリットは「子の将来が予測できない」ということ
生前または遺言で第三者へ財産を移転することの最大のデメリットは「子の将来を予測した上で行わなければならない」ということです。
例えば子に1000万円を残し、その他の財産を寄付してしまった場合、子が予想より長生きして財産が無くなってしまうこともあるかもしれません。
またその逆として、予測していた金額よりかからなかった場合、結局多額の財産が国に帰属することになります。
子の財産がなくなったとしても生活保護に切り替えることは可能であるため、最悪の自体になることはありませんが、十分な財産があったのにそうなってしまうのは本末転倒とも言えます。
子に十分な財産を残しておき、確実に使い切れない財産を譲渡の対象とするしかないでしょう。
法的に拘束力のある約束をしておきたい時は「家族信託」の活用を!
「お金がかかってもいいからしっかりと財産を使い切りたい」と思う方は民事信託(家族信託)を用いるのが良いと思います。
「受託者」という財産を託して決められた内容で運用する者を設定する必要がありますが、これは親戚などでも構いません。
「子が亡くなった時の残余財産は〇〇(受託者の子)に移転する」などと設定すれば喜んで引き受けてくれるかもしれません。
信託の内容も自由度がかなり高いです。受託者によりいい加減な対応をされてしまう可能性は否定できませんが、監督者をつけることによりある程度防止することもできます。
「信託」>「遺言」≧「生前贈与」といったイメージで法的な強さや必要な資金、手間は変わると思います。しかし何も対応を取らないと財産は事実上凍結されたままという結果になってしまいます。
「親なきあと対策」は元気なうちにしかできません。出来るだけ早めから残された子の利益になる対策を考えておきましょう。