お子さんがヤングケアラーになってしまうことを心配する親御さんへ
ヤングケアラーとは、家族に対して大人が担うようなケア(介護等)をしている18歳未満(その他の国では25歳までとしているところあり)の子のことを言います。
また一般社団法人日本ケアラー連盟は18歳~おおむね30歳代を「若者ケアラー」と定義しているため、ここでは広く若年者層をヤングケアラーとして考えます。
親なきあとにこのヤングケアラー問題を心配している親御さんも多いと思いますが、事前の準備で不安を軽減できる部分もあります。
今回はヤングケアラー問題を心配している方向けに、自分が生きている間に準備できる対策についてお伝えしていきたいと思います。
お子さんがヤングケアラーとなる事例
それでは典型例を挙げてヤングケアラー対策について考えていきたいと思います。
父(56歳)、母(53歳重度の精神障害あり)、長男(23歳重度の知的障害あり)、長女(18歳)の4人家族。父は仕事に就いており、母や長男は福祉サービスを利用しながらも同居しています。
この家族の場合は父が突然亡くなった時にヤングケアラーの問題が生じます。
長女が母や長男に対して何らかのケアまたはケアに関する手段を講じなければならなくなるのです。
遺言によるヤングケアラー対策
もしも父が亡くなってしまうと相続が開始されます。
父の財産を家族(相続人)で分けるという手続きです。
幸い父の財産は多く、家族がしばらく暮らしていけるくらいはあったとしましょう。
しかし何もしなかったことによって恐ろしいことが起きてしまうのです。
単純に父の総財産が2000万円、死亡保険金5000万円の受取人が母だったとしましょう。遺言を残さなかった場合、どうなるかを考えてみます。
母と長男に成年後見人をつけることになったとして、法定相続分は母1000万円、長男500万円、長女500万円です(長女については成人年齢の法改正後とします)。
さらに死亡保険金5000万円は母に渡されます。
家族は父の財産7000万円を受け取れたため、何の問題も無いと考えられるかもしれません。
しかし母と長男には成年後見人がついているため、受け継いだ財産を家族のためには使えません。
もちろん母として子が成人するまでの費用については責任が生じますが、それ以降は母の資産は母のためのみに使われます。
母があげたいと思ったとしても成年後見人(または家庭裁判所)により強い制限がかかってしまうのです。
一方遺言があれば相続の配分を自由にし、長女を保険金の受取人に指定することも可能です。
管理上の問題はありますが、長女の学費や結婚資金などのまとまったお金を事実上渡しておくことができるのです。
遺言以外でも時間はかかりますが「暦年贈与」などで対策することは可能です。その際は「名義預金」の存在について覚えておきましょう。
成年後見人をつけたくない場合は…?
母と長男に成年後見人をつけたくない場合はどうすれば良いでしょうか。
この場合は「遺言で成年後見人をつけたくない者の相続財産をゼロ(または現金)にする」です。
例えば母の精神障害が、福祉サービスを活用すれば何とか自立した生活が送れるという程度だった場合、長男に成年後見人をつけなければ当面は第三者から干渉されることは無くなります。
しかし相続手続き時に遺言(適切な内容の)がない場合、間違いなく成年後見人がつけられてしまうことでしょう。
ヤングケアラーを成年後見人にするリスク
ちなみに、この場合に長女を成年後見人にすれば良いという考えがありますが、それはリスクが高いと思います。
ただでさえ家族のケアをする負担がある上に成年後見人の負担を与えてしまうと生活を送る上で支障が出てくるはずです。
成年後見人の業務や責任は、一般に考えられている以上に重く、ましてやヤングケアラーへ課せられると将来にまで影響が出てきます。
また家庭裁判所が成年後見人を選任する際にそれらを考慮して第三者が選ばれるという可能性も高くなります。
「障害のある子に財産を多く残す」は危険!
また、多くの親が考えている「障害のある子に財産を多く残す」ということはリスクがあります。
例えば上記の例で父が遺言で障害のある長男に財産を多く渡すようにしたり、死亡保険金の受取人を長男に指定したりすることです。
また長男名義の預金に多額の入金をしておいたり、長男に暦年贈与をしたりすることも含まれます。
こうすることで長男に渡った財産は、父親が思ったように活用される可能性は極めて低くなります。
なぜなら「本人が財産を使うことができない」からです。
長男本人のための支出はその他の家族が行わなければなりません。家族が万が一長男の口座のキャッシュカードを紛失してしまったり、暗証番号を失念してしまったりすればその時点でその財産は凍結状態になります。
銀行もよほどのことが無ければ本人の意志無し(成年後見人をつけなければ)で再発行手続きは行ってくれないでしょう。
また長男に成年後見人がついてしまえばその財産は成年後見人以外が触れることができません。成年後見人は本人の財産を厳格に管理する義務がありますので、家族が思い描いていたようなお金の使い方をしてもらうことは難しくなってくるでしょう。
そのため「障害のある子に財産を残したい」のであれば、「障害のある子を世話してくれる家族に財産を多く残す」というのが正解だと考えています。
ヤングケアラーへの負担を極力無減らすために
ヤングケアラーへの負担は極力減らしたいもの。親ならなおさらそう思うはずです。
ヤングケアラー問題は介護ケアの対策が中心に考えられているため、相続手続きや成年後見人申立て手続きなどについての精神的負担の大きさにはほとんど触れられていません。
もちろんケアについての負担は相当なものです。そしてそこに様々な手続き、ましてや成年後見人手続きがのしかかってくることで地獄のような苦しみを味わってしまうかもしれません。
上記の例のような相続対策を行っていた場合、父親が亡くなった際には長女一人の名で相続手続きを行うことも可能です。長女が代表して専門家に手続きを委任してしまえば特に苦労せずに相続手続きを行うことも可能でしょう。
そして長女には費用を気にせずに福祉サービス(ヘルパーなど)やその他のサービス(宅食・ハウスキーパーなど)を活用してもらい、少しでも負担を軽減できるような対策を取っておくこと(そしてそれをしっかりと伝えておくこと)が必要だと思います。
ヤングケアラー対策には事前準備を!
以上、ヤングケアラーの負担を軽減する事前対策について挙げさせていただきましたが、子の負担を軽減させるには親の事前準備が重要となります。
親なきあと対策には親が元気なうちにしかできないものもありますので、お困りの方はぜひ当事務所にご相談ください。