成年後見人をつけて相続手続きを行うのは大変!
障害者や認知症の方が相続人に含まれている場合、相続手続きには成年後見人が必要になることが多いです。
しかし簡単に成年後見人をつけるとは言っても、実際にはかなりの手間と費用を要します。
また不動産の相続ではできる限り避けたい「共有」についても回避できない状況に陥ることがあります。
それでは、不動産に関しての相続手続きに障害者や認知症の相続人を関与させないことはできるのでしょうか?
結論としては「限られたケースではあるが可能」です。
今回は不動産の登記や売却を、障害者や認知症の相続人を関与させずに行う方法について解説したいと思います。
障害者や認知症の相続人を不動産手続に関与させずに相続を行う方法は2つ
障害者や認知症の相続人を不動産手続きに関与させずに相続を行う方法は大きく分けて2つになります。
一つは「遺言」、これは生前の相続対策になります。
二つ目は「代償分割」を用いる方法です。これは遺産分割協議ができるという前提が必要になるため、限定的に可能となるパターンです。
通常の分割手続きにより、障害者や認知症の方が不動産の持分を持ってしまうと、その不動産が売却できないという窮地に追い込まれることがあります。
というのも、売却時には不動産仲介業者等に依頼する必要があるため、その際に意思能力が無いと判断されてしまうと売却手続きを拒まれてしまいます。
それを回避するために、代償分割という方法を用いて、共有状態を作らないことが重要となります。
遺言で障害者や認知症の相続人を手続きに関与させなくする方法
それではまず遺言を用いた方法ですが、これはシンプルです。
- 不動産を健常の相続人に相続させることを指定
- 健常の遺言執行者を指定
- 売却を要する場合は売却することを明記
ということ含んだ遺言を作ります。
例えば、重度知的障害のある長男と健常者の次男の二人が相続人であった場合、次男に不動産を相続させ、次男を遺言執行者に指定すれば良いだけです。

そして不動産を売却してその代金を分割したい場合はその旨を記載します。
こうすることによって、遺言者が亡くなった際には、遺言者の不動産は次男一人の手続きにより次男に移転させることができます。
逆に「土地は長男と次男で二分の一ずつ相続させる」と記載してしまっても、遺言執行者を次男に指定しておけば手続き自体は可能ですが、不動産を売却したい場合は絶対に避けるべきです。
なぜなら、不動産売却の際には持分を持っている長男の関与が必要になるからです。
共有者全員が契約書にサインしてはじめて売却をすることができるため、そこで不動産仲介業者に長男の意思能力を疑われてしまうと、手続きは頓挫します。
そのため、重度知的障害のある長男には不動産の持分を取得させず、売却した代金またはその他の預貯金を相続させるべきです。
遺産分割協議による場合も代償分割の手法は可能!
二つ目は不動産の所有者が死後に取れる手法ですが、前提として相続人には遺産分割協議が可能な程度の意思能力が必要となります。
長男(障害は遺産分割協議ができる程度のもの)と次男が相続人だった場合、遺産分割協議書に、
- 次男が不動産を相続する
- 次男はその代償として長男に金◯◯円を支払う
ということを明記すれば良いです。
長男に対して支払う金銭が足りない場合は売却してから支払うことを記載します。
こうすることによって、不動産の登記や売却の手続きに障害のある長男を関与させなくすることができるのです。
代償分割を用いることのメリットとは?
この代償分割の手法を取ることの一番のメリットは何でしょう?
例えば長男と次男で不動産を二分の一ずつ共有した場合、ハードルとなる手続きが3つあります。
それは「相続登記」と「売買契約」、「移転登記」です。

まず被相続人から相続人である長男と次男への相続による移転登記を行う必要がありますが、ここで必要となるのが「司法書士」への委任です。
もちろん相続人が自分で移転登記の手続きをする場合は不要なのですが、登記手続きを自己で行うのはなかなか困難です。
しかし今は法務局も親切に教えてくれますから、時間と労力をかけてでも行いたいという方は不可能では無いと思います。
司法書士にお願いして相続登記を行う場合は、司法書士による「本人確認」が必要です。
司法書士は登記名義人が架空の人物であった場合に登記を行ってしまうと罰せられてしまうため、それを回避するために登記権利者(不動産を新たに所有する者)の本人確認を行うことが必須です。
その際に司法書士から「長男に障害があるから登記手続きはできない」と言われてしまったらどうでしょう。
長男と次男は遺産分割協議ができる程度の意思能力があるという認識で遺産分割協議書を作成したのに、その意思能力を司法書士が認めてくれなければ手続きは行ってもらえません。
司法書士は登記の専門家ですので、障害者福祉の専門家ではありません。そのためその障害が手続きを行い得るものなのか否かという判断はできないのです。
不動産仲介業者も同様です。不動産仲介においても取引の安全性を確保するため、本人に障害があるということは大きな懸念点となります。
そのため、不動産の相続登記、売却手続き、売却後の移転登記の3つの場面で手続きが頓挫する可能性があるのです。
代償分割を用いている場合
では遺言や遺産分割協議で代償分割を用いている場合はどうでしょう。
先程のケースで次男が不動産を相続し、その代償として長男に金銭を支払うという内容になっている場合です。
この場合は次男が一人で前記3種の手続きを行うことができます。長男の関与は一切不要となります。

ということは、司法書士と不動産仲介業者が行う本人確認は次男に対してだけです。次男に意思能力が認められれば手続きを行ってもらえます。
また代償分割を用いることで手続き自体を楽にすることができます。
次男一人で全ての手続きを行えるため、いちいち長男とやり取りしなくて済みます。この点も大きなメリットと言えるでしょう。
代償分割で贈与税は取られないの?
代償分割では次男から長男へ大きな額のお金を支払うという内容ですから、贈与税の心配をされる方もいるかと思います。
代償分割とは本来不動産を相続させるところを金銭に代えて支払うということですので、贈与税はかかりません。
もちろん相続税の対象にはなりますが、代償分割により不要な納税を行う必要はないということになります。
障害者や認知症の相続人を手続きに関与させない方法は当事務所へ
今回のような相続方法は一般的な相続とは少々異なる方法になります。
もちろん世の中で多く行われている手法にはなりますが、障害者や認知症の方が関係する手続きであるため、それ相当の知識を備えている専門家は多くありません。
当事務所では、障害者や認知症の方が含まれる相続手続きをメインに行っておりますので、お困りの方はぜひご相談ください。