知的障害者が相続人に含まれる場合に成年後見人を立てなくても相続ができるケースがある?
知的障害者の方が相続人の中にいらっしゃる場合、まず頭の中に浮かぶのが「成年後見人」を立てることだと思います。
しかし、知的障害者の方が相続人に含まれている場合でも必ず成年後見人を立てなくてはならないわけではありません。
今回は、知的障害者の方が相続人に含まれている場合の相続手続きで、成年後見人を立てなくても良い場合についてのお話をさせていただきたいと思います。
知的障害の程度が遺産分割協議をするにあたって問題とならない場合
知的障害の程度が遺産分割協議をするにあたって問題とならない場合とは、本人の意思能力や判断能力が十分あり、遺産分割協議をすることが十分可能な場合を言います。
遺産分割協議についての意思能力や判断能力とは、遺産分割協議という事柄について固有に判断されます。
例えば遺産分割協議では、「誰の財産」が「どのくらい」あり、「実際に自分に分配される財産がどのくらい」あるかなどが主な決め事となります。
「お父さん」の「貯金」や「家」、「土地」がどのくらいあって、自分がもらえる財産は何に当たるのかを最低限理解する必要があります。
そして、自分がもらえる財産の量に対して「納得できるのか」。これも重要な要素となるでしょう。
目安としては、通常の会話ができる、お金の価値が理解できる位の能力が必要でしょう。
また、財産の内容によって、理解の能力が低くても対応できる可能性はあります。
例えば、
相続財産が「預貯金1000万円」のみの場合
と
相続財産が「預貯金1000万円」と「家屋5つ」、「土地が6つ」、「投資信託が2件」、「株が10銘柄」であった場合、
明らかに前者の方が簡単に理解できます。
「1000万円をみんなで分けるからあなたの分は200万円でいい?」
ということを理解することは、それほど高度な能力がなくても可能かもしれません。
知的障害をお持ちの方でも、遺産分割協議の内容を理解できる能力を十分に持っている方はたくさんいらっしゃいます。
まずは知的障害をお持ちの方が遺産分割協議を理解できるかについて検討する必要があります。
相続財産を法定相続分で分割する
相続が発生した場合、遺産分割協議が無ければ相続人各人が法定相続分の割合で遺産を分割したことになります。
つまり、法定相続分で相続財産を移転させれば遺産分割協議は不要ということです。
遺産分割協議が不要ということは、財産を分ける際に意思能力や行為能力が必要とされないため、成年後見人の出番は無いことになります。
この方法を用いれば成年後見制度を利用しなくても相続手続きができますが、これには2つの大きな問題が残ります。
遺産に不動産がある場合はその後処分することが事実上不可能となる
相続財産が預貯金のみの場合、単純に法定相続分で分け合えば、それで終わりということになります。
※ただし、多くの銀行では法定相続分での移転をさせてくれません。
例えば、重度の知的障害があり、以前から家族が本人の障害年金などを自由に引き出して本人の生活や福祉サービス利用料に充てていた場合、本人に相続財産が入っても同じように運用できます。
キャッシュカードは家族が所持しているでしょうし、暗証番号も家族が知っているので、今まで通り自由に引き出すことができます。
しかし、不動産を法定相続分で分けた場合はどうでしょう。
例えば亡くなった被相続人が所有していた一つの土地を配偶者、子1、子2で、「2分の1、4分の1、4分の1」の持ち分で分けた場合などです。
不動産の所有権は預貯金などと違い、簡単に処分することはできません。
誰かに売ったり、あげたりするのも厳格な本人確認が必要となります。
3人で持ち分を分けた土地を売却する場合、それぞれの持ち分を持っている3名の本人確認が必要となるため、不動産業者や登記業務を行う司法書士などに「成年後見人等を立てなければ売却できません」と言われてしまうことでしょう。
そうなるとその土地は、成年後見人等を立てなければ売却を行えないこととなり、成年後見人等を立てなければ知的障害のある方が亡くなるまで何もできないこととなります。
実際に成年後見人を立てて売却しようとしても、本人の生活に必要な不動産である場合は簡単に成年後見人等は許可をしません。また成年後見人等が許可をしても、最終的には家庭裁判所に委ねられるため、なかなか難しい状況になってしまいます。
法定相続の場合でも銀行は遺産分割協議書を要求してくる
不動産についての問題点を述べましたが、預貯金や有価証券等についても実際上の問題があります。
法定相続の場合であっても、銀行等が遺産分割協議書を要求してくることが多いからです。
こちらが「法定相続分で分けているので」と説明しても、「ではその法定相続分で分けたという証明ができる遺産分割協議書を提出してください」と言われてしまうのです。
法定相続というのは、一見一般的だと思われていますが、実は特殊な分け方と言えます。
特にトラブルの無い家族間のみで相続を行う場合、厳密な法定相続は行われないことが多いです。
あくまでも「法定相続分を加味した」遺産分割協議によって相続を行っているご家庭が多いでしょう。
となると、実際に遺産分割協議書無しで法定相続を行うというのは銀行等にとってはかなりイレギュラーなことです。銀行等も対応方法が無いため、通常通りの「遺産分割協議書を提出してください」となってしまうのです。
知的障害者の相続手続きは大変!
以上、知的障害者の相続について、成年後見人等を立てなくても良いケースの例を挙げました。
しかし、知的障害の程度は人それぞれであり、また相続を取り巻く状況もご家庭毎に違います。
当事務所では、「成年後見人をどうしてもつけたくない」というご家族の相談を多く受けております。成年後見人等を立てるしか方法が無いと諦めていらっしゃる方も、ぜひ一度当事務所にご相談ください。