遺言が無いために地獄の苦しみを味わう家族が多い
成年後見人をつけるタイミングで多いのが「相続」です。
「成年後見人についてはいずれは考えなくては…」と思っていたところに突然襲いかかって来るため、何の対策もしていなかった家族は一気に地獄のような苦しみを味あわなければならなくなります。
また、認知症に関しては予測できないため、何の対策もしていない家族がほとんどです。
相続時の地獄の苦しみとは?
相続時の「地獄の苦しみ」とは何でしょう?
これは家族によって異なりますが一つの例を挙げてみます。
父85歳、母80歳(重度認知症)、子55歳の3人家族。相続財産は不動産を含めて2億円程度です。
父の持病が悪化し、亡くなりました。相続人は認知症の母と子の2人。法定相続分は2分の1ずつです。
子は「仲良く半分ずつ分ければ何のトラブルも無く今後も安心して生活していけるだろう」と安心していましたが、そうはいきません。
母は重度の認知症であるため、話が理解できないどころか署名や押印もできません。
「今後も変わらずに安心して生活していける」という目論見は崩れていきます。
成年後見人をつけて遺産分割協議を行わなければ銀行の口座が凍結されたままになる
まず、銀行から成年後見人をつけなければ口座は凍結したままになってしまうと言われました。今回のケースでは遺産分割協議書が作成できないばかりか、銀行への相続財産移転の申請書も出すことができません。
相続をしない「放置」は有効?
相続手続きを一切しない「相続の放置」もケースによっては有効になります。
例えば、先程の例を挙げると、認知症の母が2年後に亡くなった時、その際にまとめて財産の移転手続きを取ることもできます。
簡単に言うと、「父と母の財産をまとめて子に移転する」という形です。不動産でも預金でもどんな財産でもまとめて移転することが可能です。
しかし、それは限られた場合のみ、例えば「相続税の支払いが無いまたは子のみの財産で相続税を支払うことができる場合」などです。
さらに相続税の支払いに関しては下記のような問題が絡んできます。
相続税の納付期限が迫ってくる
まず、相続税を10ヶ月以内に納めなければなりません。税理士に相談すると、「配偶者控除」や「小規模宅地の特例」があるのでかなりの減額ができると言われ安心していましたが、それは「遺産分割協議ができる場合のみ」です。
厳密に言うと、「実際の財産の移転を確認することができるものがある場合」となりますが、先程の銀行の例などから、遺産分割協議書が無ければ財産の移転はできません。
不動産は「法定相続分での移転登記」が比較的簡単にできますが、預貯金や有価証券についてはかなり難しいと言えるでしょう。
相続財産が2億円のケースで配偶者控除と小規模宅地の特例が使えないとなると、かなりの負担が見込めます。
子が成年後見人になる
結局相続財産が無ければ相続税の支払いができないという状況に陥った子は、成年後見制度を利用するしかなくなりました。
父が亡くなり、認知症の母の介護も大変になってきました。まだ家庭が落ち着いていない状況ですが、急いで成年後見人について調べてみました。
「通帳を渡さなければならない」、「不動産が処分できない」、「費用がかかる」、「福祉サービスの決定権も無くなる」という可能性があるなどのリスクを知り、自分が後見人になることを強く希望しました。
必ずしも子が成年後見人になれるわけではない
しかし、必ず家族が成年後見人になれるわけではありません。
国の方針転換により、家族が成年後見人に就任できる可能性は高くなってきました。
それでも全くの他人が成年後見人に就任する可能性もあります。
相続をきっかけに家族が成年後見人に就任するといった場合、相続財産なども少なからず影響してくると思います。
家族が成年後見人になることによっての横領事件も実際には起こっているからです。
第三者が成年後見人になったほうが本人の財産が守られると家庭裁判所が判断した場合は家族が成年後見人となれない場合があります。
相続には特別代理人が必要
家族が成年後見人になれたとしても、遺産分割協議書を作成するためには特別代理人の選任が必要となります。
相続人同士という利害関係が生じてしまうため、いくら成年後見人であろうと母の代理人にはなれないのです。
そのため、自分の都合の良い財産移転方法をとることができず、最悪相続税の節税にも影響してくることが考えられます。
後見監督人が就任する
家族が成年後見人に就任した場合、同時に後見監督人が就任する場合が多くあります。
後見監督人は成年後見人を監督する立場にあるため、「不正防止」の効果が期待されています。また、成年後見人への報酬相場よりは安いですが、成年後見監督人にも毎月の報酬を支払う必要があります。
そのため、家族が成年後見人に就任できても、費用の負担や他人が家庭に介入してくることからは避けられません。
地獄の一年間とこれからの負担
上記の例では、結局子が成年後見人に就任することができましたが、同時に司法書士による成年後見監督人がつき、毎月1万円の報酬を支払うことになりました。
また、母の財産管理や福祉サービスの利用についても後見監督人からのチェックが入ることになりました。
父が亡くなってからの葬儀やその他の手続きに加え、成年後見人の申立手続き、相続税の申告手続きを、認知症の母を介護しながら行うのは相当な負担になると思います。
しかも今後も成年後見人として、後見監督人の監視の元で母の財産管理や身上監護を行わなければならないというプレッシャーがあります。
横領罪で逮捕されるリスクも
成年後見人になったのであれば、いくら家族であっても今までのような大雑把な財産管理は許されません。不適切な支出はチェックされ、場合によっては横領罪で逮捕されるリスクも出てきてしまいます。
親族相盗例が適用されない!
なぜなら、家族間の窃盗や横領の罪が免除される「親族相盗例」の適用が無くなるからです。
通常の家族同士であれば、一定の罪であっても「家族間の解決」が優先され、罪が免除となる決まりがあります。
しかし家族が成年後見人になった場合はこの免除規定が適用されなくなってしまうのです。
そのため、家族後見人は、大変なリスクを抱えながら家族の面倒を見ていくこととなるのです。
さらに家族に障害者が含まれている場合
上記の例に加え、障害のある子が含まれていた場合はどうでしょう。
父、母(認知症)、子(健常)、子(知的障害)の4人家族で父が亡くなった場合です。
この場合、母と知的障害のある子の2人に同時に成年後見人をつけなくてはならなくなります。
一人に対して成年後見人をつけるというだけでも大変なのに、それを二人同時に行わなければならない。想像を絶する負担になると思います。
実際にも、強度の精神的負担に肉体的負担が追加され、体を壊す方もいらっしゃいます。
地獄の苦しみから遺言一つで解決!
しかし、これらの地獄の苦しみから一気に開放される手段があります。
それが「遺言」です。
遺言があれば、相続をきっかけにして成年後見人がつくことを回避できる可能性が高まります。
※成年後見人は福祉サービスの契約行為にも関係することがあるので一概には言えません。
例えば一番最初の例で、父が「母(父から見て妻)と子に半分ずつ相続させる」(厳密には財産の種類ごとに半分程度になるように調整した内容)という法定相続通りの遺産分割内容を遺言に残していたらどうでしょう。
その遺言を元に財産を分割すれば良いだけです。成年後見人は必要ありません。
また、さらに知的障害者の子が加わった家族構成では、父の遺言に加え、母が認知症になる前に遺言を残しておくことが必要となります。
そうすれば、父が亡くなった際も母が亡くなった際にも成年後見人無しで相続を行うことができます。
遺言は相続対策として大変有効ですが、逆を考えると、相続で成年後見人が絡む場合には「遺言が無ければ命取り」と言わざるを得ないのです。
遺言をもっと簡単に考えよう!
遺言というと、大変敷居の高い手続きに感じてしまう方が多いと思います。しかし、遺言は「残された家族を地獄から救う唯一の手段」とも考えられると思います。
まず、自筆証書遺言が作りやすくなり、インターネットの知識だけでも専門家の手を借りずに正式な遺言を作ることができると思います。
これは新しい制度「法務局の自筆証書遺言保管制度」ができたためです。
自分で作った遺言が自筆証書遺言の形式に適合しているか(遺言の内容には触れません)を確認した上で預かってくれるのです。
この制度を利用すれば、簡単な内容の遺言は自分一人でも作れるかもしれません。
さらに専門家の意見を取り入れた遺言の作成についても、相続税を考えた財産の分配方法や、親なき後に残された子の生活を考えた財産の分配方法が取れるため、大変有効だと思います。
もちろん一定の費用はかかりますが、先程説明した「成年後見人問題が絡む地獄の苦しみ」を家族に味あわせないためであれば信じられないほどの安価に感じてしまうと思います。
当事務所では、成年後見人をつけないための遺言作成や、相続税を加味した遺言作成(別途税理士報酬が必要となります)をサポートいたしますので、どうぞお早めにご利用ください。
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