知的障害や精神障害をお持ちの方が含まれる相続を行う場合、財産をうまく管理できない方である場合はその方の相続分を0にするということも考えられると思います。
その手法を取る場合、相続財産が基礎控除の範囲に収まる場合であれば、特に注意することはありませんが、相続財産が基礎控除を上回り、障害者控除を受ける必要がでてくる場合には注意が必要です。
相続税の各種控除の適用を受けるか否かの判断
まず、相続税の基礎控除(相続税を納めなくてよい)額ですが、3000万円+(相続人の数×600万円)
相続財産の合計が上記の額の範囲内に収まっていれば相続税を納めることも申告する必要もありません。
例えば、夫が亡くなり妻と子3人の計4人が相続人である場合は3000万円+(4×600万円)の5400万円までは相続税がかかりません。
しかし、その額を超える場合は相続税の申告が必要となります。といっても、相続税には基礎控除の他にも色々な控除があるため、基礎控除を上回る額の相続財産があったとしても相続税がかからないことが多々あります。
代表的なものが「配偶者控除」であり、配偶者の相続財産の額が法定相続分相当額又は1億6千万円以下であれば、配偶者には相続税がかかりません。
また、配偶者や同居の親族等が使える「小規模宅地の特例」では、一定規模の宅地等を相続する場合には8割程度の減額が適用されます。
そして、障害者手帳を持つ障害者の方等の相続分とその扶養義務者には「障害者控除」が適用されます。
障害者控除を受けようとする場合の注意点
障害者控除は、障害者の相続分から障害の程度により、(85-現在の年齢)×10万円 (一般障害者)(85-現在の年齢)×20万円 (特別障害者)
までの額が相続税額から控除されます。
また、その控除により引ききれなかった残余の分は、その障害者の扶養義務者達の相続税額から控除することができるというのが大きなメリットです。
しかし、この障害者控除の適用を受ける際に必要なことは、
障害者本人に相続分があること
です。
遺産分割協議により、障害のある方の相続分を0にしてしまった場合、障害者控除は受けることができません。
障害者の相続分を0にすると障害者控除が受けられない
「相続分が0なんだから当たり前でしょう?」と思うかもしれませんが、重要なのは「扶養義務者も適用を受けることができない」という点です。
例えば障害者の相続税額が100万円で扶養義務者の相続税額が500万円だった場合、障害者控除の枠が600万円以上であれば両者ともに相続税はかかりません。しかし、障害者に相続分が無く、障害者控除が使えない場合には、扶養義務者の相続税額500万円はそのままです。
ということは、障害のある方にも財産を分けておく必要性が生じます。
前述したとおり、相続財産が基礎控除内に収まっている方であれば障害のある方の相続分を0にしてしまうことは構わないのですが、相続財産が基礎控除額を超える家庭であれば、障害のある方にも相続財産を分けておいたほうが良い場合があるのです。
障害者控除を受けるために分ける財産の種類は現金
その場合に考えておく必要があるのは、「相続財産の種類」です。
例えば知的障害があり、財産がうまく運用できない方であれば、不動産を残しておいても自由に処分ができません。そのため、できるだけ簡単に処分できる「現金(預貯金含む)」などが良いでしょう。
現金であれば、他の家族が本人のために使うことができます。もちろん本人の意に反した使用はしてはなりませんが、本人の生活費にあてたり、好きな物を購入したり、旅行に行かせてあげたりするために使用することは差し支えないでしょう。従来どおり、ご家族が本人の障害年金を本人のために使用するのと同様です。
不動産となれば処分することは簡単ではありません。売却時に本人の障害の程度が意思能力や判断能力の有無に影響すると疑われることもあるでしょう。
相続税が基礎控除額を上回り、各種の控除の適用を受けたい場合は税理士等の専門家に相談することをお勧めします。当事務所では、連携している税理士やその他の専門家とともに障害をお持ちの方の相続手続きをサポートしておりますので、ぜひ一度ご相談ください。