市町村長が勝手に成年後見人をつけてしまう!?【鍵は地域の根幹施設!】

障害者の将来(親なき後問題)

成年後見制度の市町村長申立とは?

成年後見には「市町村長の申立」という制度があります。

市町村長の申立とは、簡単に言うと、市民の成年後見人の申立を市町村長の権限で行うというものです。

市町村長の申立制度については、民法ではなく、老人福祉法や知的障害者福祉法、精神障害者福祉法にそれぞれ規定されています。

知的障害者福祉法を例に挙げると、以下のように規定されています。

第二十八条 市町村長は、知的障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第七条、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。

上記内の条文は成年後見人や保佐人、補助人に関しての申立等について規定されている条文のことです。それらを代わりに市町村長が行うことができると定められています。

条文内の「その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」という文言がありますが、この範囲を巡っても問題が起きています。

市町村長申立は家族や本人に無断で行われる!?

市町村長申立は赤の他人である市町村長が成年後見人を申し立てることができてしまうという非常に危険な制度です。

そのため、多くの問題が起きています。

当事務所にご相談される内容で多いのが、

「家族に無断で成年後見人をつけられた」

というものです。

一見とんでもないことのように思えますが、市町村長は家族や本人の許可なく成年後見人の申立が行え、また家庭裁判所も家族や本人の許可なく成年後見人をつけることが当然にできてしまいます。

例えば以下のような状況です。

・本人以外に家族がいない、または近くに住んでいない

・家族や本人が成年後見人をつけることを拒否している

・家族が成年後見人になることが相応しくないと考えられる

このような状況の場合で、「その者(本人)の福祉を図るため特に必要があると認めるとき」は市町村長が申立を行うことができることになります。

そのため、家族が反対しているのに勝手に成年後見人をつけられてしまったり、家族が成年後見人になりたいのに第三者を候補者として成年後見人の申立が行われたりする問題が起きているのです。

市町村長申立は無断で行われるわけではない

とはいえ、市町村長申立が何も考えられずに勝手に行われてしまうということではありません

何らかの理由がある場合が多いでしょう。

本人や家族の状況だったり、緊急性だったり、あらゆることを考えて行われるのが通常です。

しかし、一旦成年後見人が就いてしまうと勝手にやめさせるわけにはいきません。成年後見人等に支払う報酬も、本人の資産から「強制的」「一生」捻出されることになります。それが他の制度と大きく異なる点です。

実際に市町村長申立を提案するのは根幹施設の職員?

市町村長申立は色々な事情を勘案して行われるのが通常だと言いましたが、それでも危険な制度には変わりありません。

そもそも、市町村長申立は市町村長が実際に行うわけではありません

実際に市町村長申立を提案するのは地域の根幹施設の職員であることが多いのです。

地域の根幹施設とは、地域包括支援センター障害者生活支援センターなどのことです。

これらの施設で担当しているケース(利用者)が困難事例だったりする場合に市町村長申立が検討されるわけです。

根幹施設だけでなく、市町村役場の福祉課も加えて、市町村長申立の必要性が判断されています。

申立の主体は市町村長となっていますが、実際は実務担当者が検討を重ねて申立が決定されているという流れなのです。

根幹施設の職員も日頃から多くの困難事例を抱えているため、一人ひとりにそれほど労力をかけられるわけではありません。ましてや、現在のケース会議に法律の専門家が参加することはまず無いと言えるでしょう。そこにも大きな問題があります。

福祉と法律の乖離

法律の専門家無しで成年後見の申立を決定するのですから、実際に成年後見人が就いた場合のデメリットやリスクは十分に理解できていない場合が多いと思います。

根幹施設の職員は「福祉の専門家」であるため、本人の生活に関しての問題をクリアすることが最優先なのです。

そのため、目の前の問題はクリアできたが、その反動で別の場所や別の人に問題が生じてしまうという悪循環が起こりえます。

これは誰が悪いというわけではありません。逆に言えば本人を含めてその周囲の者全員が被害を受けることになっているからです。

関係者が十分に話し合うことが必要

成年後見制度がスタートしてまだ二十数年。まだまだ問題点の多い制度です。

市町村長申立によって悲しむ人の無いよう、関係者が十分な話し合いの場を持つことが重要と言えます。

福祉担当者と本人およびその家族が妥協点を見つけ、成年後見制度以外の方法で本人をサポートすることができないかを考えてみることも必要だと思います。

また、地域包括システムの枠組みへの法律の専門家の参入も必須です。現在の枠組みではカバーできない問題が多くあるため、法律面でアドバイスできる機関を含めたシステムの運用が急務となるでしょう。

成年後見制度は本人を保護するという目的であれ、「本人の権利を大きく制限し、家族が本人をケアする権利を剥奪する」という厳しい側面のある制度です。それだけに慎重に運用しなければならないということを、関係者が十分理解した上で進めていくことが必要だと思います。

(他にも思わぬ罠がありますのでご注意ください)

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