親なきあとを不安に思う家庭は非常に多い
現在当事務所では「親なきあとについてのご相談」もお受けしております。
相続に関すること以外にも、漠然と「親が無くなった後どうすれば良いのか」という内容のご相談にもできる限りのアドバイスをしております。
その中で、今からできること、とりわけ「今すぐ簡単にできること」もあります。今回は重度知的障害・重度精神障害・(脳の障害を含む)身体障害のお子様をお持ちのご家庭に対応する内容を、モデルケースを例示しながら具体的にお伝えしたいと思います。
モデルケース(子が2人で弟に障害がある場合)
障害の無い兄は2000万円の価値の不動産を相続し、障害のある弟は現金2000万円を相続した。障害のある弟は障害年金から生活費や施設入居費を支出するように切り替えたが、毎月の生活費は支給される障害年金のみで賄えたため、すでに溜まっていた30年分の障害年金2500万円に手を付ける必要が無かった。
障害の無い兄は相続財産で家を建て替えたり、車を購入したりすることを考えていたが、現金はもらえず、そのまま古い自宅に住むこととなった。
その後20年経ち、兄は亡くなった。相続財産は不動産のみであったため、妻に不動産を取得させて弟に法定相続分の4分の1にあたる500万円を代償金として支払った。
弟は間もなく亡くなったが、兄には子がいなかったため、一切手を付けなかった現金5000万円は相続されず国庫に帰属した。
今回はこの結論にならないために対策を以下に紹介していきます。
子の障害年金を率先して使う(簡単度★★★★★)
これは最も簡単にできる親なきあと対策だと思います。
現状、障害年金に手を付けず、親のお金や別口座の子の預金を優先的に生活の資金にしているご家庭は多くあります。
その場合、将来親が亡くなってから非常に困ってしまう可能性があります。
モデルケースのように、親の相続で子それぞれに法定相続分で遺産が分けられたとします。すると障害のある子にもそれなりの金額が入ります。
ましてや不動産を相続させないで法定相続させようとすると、現金をさらに多く保有することになります。
逆に言えば、障害の無い子には現金の分配は少なくなります。それで困らなければ良いのですが、一般的に考えると使わないお金を活用できない(預金の利子のみ)ことは大変もったいないと感じるでしょう。
本来、障害年金は障害のある方の生活のために支給されます。また、日本の社会保障制度では、一応は年金だけで最低限の生活が送れるよう額が決められています(余暇のためのお金などを考えると不足することもあります)。
それでしたら、わざわざ親のお金を回すことはせず、障害年金から積極的に支出することをお勧めします。
障害のある子に貯金をしない(簡単度★★★★★)
「障害のある子の将来のために少しでも貯金を…。」とせっせと子名義の口座に振込や入金を行っている親御さんも多いでしょう。
しかしこの行為は、無駄に終わってしまう可能性が高いです。
なぜなら、子が自分で口座を管理できない場合、それは「名義預金」として捉えられてしまうからです。
名義預金とは、名義だけがその者の預金であるだけで、実際はその者が保有している預金では無いと税務署に判断されてしまうことです。
そうなると、その貯めたお金は親の財産に戻されて相続税が計算されます。そのため、親の相続財産として子に移っただけという流れになるのです。
結果的には親が親名義の口座にお金を貯めていたことと変わりが無くなってしまうため、無駄な行動になってしまうというわけです。
遺言で障害の無い子に多く相続させる(簡単度★★☆☆☆)
遺言を作るというのは少々敷居が高いでしょうが、これが最も有効に働く対策と言えるでしょう。
モデルケースの例の場合では、親が「兄に多く相続させる」という内容の遺言を作成します。
仮に兄に不動産(2000万円相当)と現金1000万円、弟に現金1000万円と分ければ、最初の例と比較すると兄が自由に使えるお金が1000万円増えます(遺留分を無視しない遺言を作成した場合)。
モデルケースでは、弟が死ぬまでにお金を使い切るということはどう考えても難しいため、結果的には丸々1000万円得したことになります。
遺留分を無視した遺言は無効?
例えば「兄に全財産を渡し、弟には1円も渡さない。」などの遺留分を無視した遺言も有効です。銀行や法務局(不動産登記)でも遺言の内容のまま手続きすることができます。
遺留分を侵害された者に成年後見人が就いた場合は、その者が遺留分を請求してくる可能性がありますが、請求されるまで遺留分にあたる財産を保有していても何の問題もありません。遺留分を侵害された弟が別に構わないと思っているのであればそれでOK、という法の考え方です。
残された弟の遺産を取得する方法
兄が亡くなった後、法定相続人のいない弟に残された財産を誰かが取得するというのは大変難しいです。そのまま国庫に帰属する可能性が高いでしょう。
モデルケースで、兄の妻が弟の介護を献身的に行ったなどの事実がある場合には「特別縁故者」として認められる可能性がありますが、弟が施設に入所しているという状況も含めて、なかなか簡単に認められるものでは無いと考えます。
弟が養子を取るということも考えられなくは無いですが、弟のしっかりとした意志を必要とするため現実的ではありません。
唯一考えられるのは、兄が無くなる前に養子をもらうということです。それについての詳細は下記の記事または動画を参考にしてください。
今簡単にできることは「障害のある子へのお金の流れを考え直す」ということ!
具体例を挙げて親なきあとの対策をお伝えしましたが、今からでも簡単にできることは、障害のある子と障害の無い子のお金の用途を考えてみることです。
障害年金をもらっているのであれば、そこまで大きな額の蓄えは必要無いと思います。家族間で信頼関係があれば、弟にお金が無くなった時は兄が支援するという対応方法も当然あり得ます。
また、法定相続を前提に考えた場合、不動産を取得した者は余計にお金がかかります。不動産を取得しなかった他の相続人に対して代償金を支払う必要があるからです。
そのため、親が考えていたよりも障害の無い子が苦労してしまうという場面が多く起こっています。
当事務所では、将来どのように財産を遺していくべきか、親が生きている間にどのようにお金を動かしていくべきかを含めた親なきあと相談を行っておりますので、ぜひご活用ください。
当事務所の親なきあと相談
相談料
22,000円(1〜2時間)
※出張が必要な場合は別途交通費、日当を頂戴します。
※税務、不動産に関することは専門では無いため、別途連携している税理士や司法書士をご紹介することがあります。
メールや電話での初期相談は無料で行っております。