市町村長申立の制度を使えば本人や家族の意思と関係無く成年後見人をつけられてしまう?
成年後見制度の申立を行える者は下記の通りです。
【成年後見人等の申立を行える者】
本人,配偶者,4親等内の親族,成年後見人等,任意後見人,成年後見監督人等,市区町村長,検察官
上記の中に「市区町村長」との記載がありますが、これはいったいどのようなものなのでしょうか。
今回は成年後見人等の市町村長申立についておよび市町村長申立ができることによってどのようなトラブルが起こり得るのかを考えていきたいと思います。
成年後見制度の市町村長申立とは?
成年後見制度の利用が必要な状況であるにもかかわらず、本人や家族ともに申立を行うことが難しい場合など、特に必要があるときは市町村長が成年後見人選任の申し立てすることができます。
【市町村長申立を行う場合の理由例】
・4親等内の親族がいない場合
・4親等内の親族がいても、音信不通だったり、申立を拒否している場合
・虐待等の理由により、親族による申立が適当でない場合
成年後見人等の申立が必要であると認められるが申立をする家族や親戚がいない場合に市町村長が代わりに成年後見人の申立をしてくれるという大変便利な制度と言われています。
例えば本人に障害があり、意思能力が無いために契約行為が行えず、今まで代わりに施設との契約事務を行ってくれていた親が亡くなってしまった場合などにこの市町村長申立が活躍することが想定されているのです。
しかし、この制度は言い換えれば「全くの赤の他人が本人に成年後見人等をつけてしまえる」という恐ろしい側面も持ち合わせています。もしこの制度がトラブルを引き起こすとしたらどのような場面になるのでしょうか。
成年後見制度の市町村長申立が家族のトラブルを引き起こすことがある?
この市町村長申立の制度がトラブルを引き起こすとしたらどのようなケースが想定されているでしょうか。事例を挙げてみます。
高齢の夫婦二人、子どもは遠方にいるため夫婦の支援は難しい状況です。
この高齢の夫婦のうち、奥さんに認知症状が現れ、高齢者施設に入所しました。
初めは旦那さんが奥さんの入所事務やその他の支援を行っていましたが、旦那さんも年を重ねるに連れ奥さんの施設へ出向くことが大変になってきました。
それでも旦那さんは自分が奥さんの世話をしていくという意志が固く、頻繁にとはいきませんでしたが、なんとか奥さんの施設に足を運んでいました。
しかし奥さんが入所している施設の職員は、奥さんに成年後見人をつけたほうが良いのではないかと考え、旦那さんにそのことを伝えました。
旦那さんは「成年後見人なんかに自分の妻の世話をさせることなんて出来ない。自分が生きている限りは自分の妻は自分で面倒を見たい。」と成年後見人の申出の勧めを断固として断ります。
施設としては、旦那さんには体力の面や認知の面で不安があり、施設の負担の点も考え、旦那さんの反対を押し切り市の担当課に市町村長申立のお願いをしてしまいました。
結果、市町村長の名で奥さんに成年後見人の申立が行われ、成年後見人がつくことになりました。今まで旦那さんが行っていた利用料の支払事務や福祉サービスのケアプランも全て成年後見人が行うこととなりました。
市町村長申立がトラブルの元となり得る点は?
この事例はフィクションですが、実際にあったご相談などを参考にして作りました。市町村長申立の規定によると、こういったケースも実際にあり得るというわけです。
市町村長申立が行われる理由についての気になる点としては、
・4親等内の親族がいても、音信不通だったり、申立を拒否している場合
・虐待等の理由により、親族による申立が適当でない場合
この2点なのですが、事例のケースであると「親族が申立を拒否している」という点ですね。
「親族が本人に対し成年後見人を不要と考えていても成年後見人がつけられてしまうことがある」というのはメリットもありデメリットもあると思います。
今回のケースでも旦那さんの意に反し成年後見人をつけたことが良いことだったのか悪いことだったのかは一概には言えません。
もう一点は「虐待等の理由により」というものですが、虐待以外の理由はどのようなものがあるのかははっきりとしていません。
その範囲が広ければ広いほど恣意的な市町村長申立が行われる危険性が高まると言えるでしょう。
市町村長申立が行われても費用負担はあくまでも本人が負う
ちなみに勘違いしている方も多いと思いますが、市町村長による成年後見人の申立が行われても、成年後見人への報酬はあくまでも本人の資産から支払われることになります。
そのため家族から見ると「勝手につけられてお金を払わされた」という印象にもなりかねません。
成年後見制度利用支援事業を利用して報酬負担の軽減を受けられる可能性はありますが、原則本人負担という点が市町村長申立への理解を深められない要因にもなっているかもしれません。
成年後見人は本当に必要な時につけることが理想
成年後見制度が始まってから20年が経ち、制度を利用する人も少しずつ増えてきています。
しかし、当然のことですが「成年後見人は本当に必要な時につけるべき」だと思います。
成年後見制度本来の趣旨「本人を誰も看ることができなくなった時」に利用することが、本人および家族の負担を最も減らすことにもつながります。
そのため、多くの方が納得されない「相続手続き時に仕方なく成年後見人をつける」というケースは避けるべきだと思います。
ただし、上記のケースは対応によって回避できる可能性は十分にあります。相続時に成年後見人をつけることを回避したい方は、事前に遺言などを準備しておき、意思能力の無い者でも相続手続きが行えるような対策を取ることが必要となります。
当事務所では認知症や障害者の相続手続きを専門に行っておりますので、お困りの方はぜひ一度ご相談ください。
(他にも思わぬ成年後見人の罠がありますのでご注意ください)