【施設が通帳を返してくれない!】障害者施設に通帳を預ける際の注意点を解説!

成年後見人をつけない財産管理

「施設に預けた通帳が返してもらえない…」というケースが発生!

知的障害者の入所施設(グループホーム含む)を利用している場合、利用者本人の通帳と銀行印を預けているケースはよくあると思います

毎月の利用料をその口座から引き出して(または自動引落)もらえるため、家族にとっても施設にとっても互いにメリットがあると思います。

しかし最近当事務所にとある相談が相次ぎました

「施設に預けている通帳を返してもらおうとしたら、成年後見の申立をしてくれないとできないと言われてしまった…!」

このようなことはなぜ起こるのでしょうか?今回はその理由とそうなっても困らないような対策方法について解説していきます。

「通帳を預かる」のは、法律では対応できない福祉現場でのかつてからの慣習

それではまず、「施設が通帳を預かる」というのはどのようなことか、具体的に説明します。

例えば知的障害者の入所施設では、入所の際に、本人の「障害年金が振り込まれている通帳」を預けることが多いです

実はこのことは法律上定められていることではありません。むしろ定めること自体ができないのです。

なぜなら通帳は原則本人が所持し、本人の意志で預入や引き出しをしなくてはならないからです。

もちろん代理人による引き出しも可能ですが、それには「委任」という法律行為が必要です。

しかし本人に意思能力が無い場合、有効な委任をすることもできません。

ということは、家族が本人の通帳を施設に渡し、そこからお金を引き出してもらうということはそもそもが無効な行為となるわけです。

しかしそれを言ってしまうと、そもそも本人の銀行口座は本人の親権が外れた際、即ち18歳になった時点で成年後見人をつけなければ使用不能になると言えます

そんなことになったら福祉界隈は大パニックです。18歳全員に成年後見を申し立てることになってしまい、行政も家庭裁判所も業務が立ちいかなくなることでしょう。

ということで、誰にもメリットがあり、誰も困らない、「通帳預かり」という方法が今でも取られているのです

預けた通帳が返してもらえない理由とは?

では施設はどうして通帳を返してくれないのでしょう?これにはちゃんとした理屈があります。

【1つ目の理由】通帳は本人にしか返せないから

まず、預けた通帳は家族の物ではありません。利用者本人の物です。

そのため、家族に返すことは基本的にはできません。家族に返すことは「返却」ではなく「譲渡」になってしまうからです

名目上本人から預かったものを他人に渡してしまうわけですから、何かあったら施設が責任を追及されてしまうのは明らかです。

例えば、利用者の母親が預けた通帳を、施設が父親に返した。その後父親がその通帳から母親に無断で50万円下ろし、遊興費に充ててしまった。

このようなことが起こってしまったら、施設は家族間のトラブルに巻き込まれてしまいます。

悲しいことですが、実際に本人の障害年金に手を付けてしまう(それ以外に財産が無いのにも関わらず)ご家族もいらっしゃるそうです。

そのため施設としても、本人の権利擁護の観点から、通帳を簡単に渡してしまうわけにはいかないということです。

【2つ目の理由】本人へのサービスがストップしてしまうから

二つ目の理由としては、家族の資力がなくなった際に、本人へのサービスがストップしてしまうリスクを回避するためです

仮に通帳を預けていなかったとしましょう。そして、家族が本人の障害年金を家族の生活のために使ってしまい、施設へ毎月支払う利用料やその他の費用が支払えなくなってしまったとします。

そうなると、施設としては本人へのサービスが提供できなくなります。

生活保護に切り替えれば施設生活が送れるかもしれませんが、障害年金は本人が施設生活を送るに十分な額が支給されているため、生活保護の認定は困難でしょう。

施設としては、経済的虐待を理由として市町村長申立を自治体に促して、就任した成年後見人に引き落とし先の通帳を新規に作ってもらうという手段が取れなくも無いですが、そこまで施設に求めるのは酷過ぎます。

そのため、最悪の場合はその利用者が退所を余儀なくされるということにもなりかねません

施設としても本人の生活を保障することを第一に考えていますので、生活に必要な最低限度の額は担保されている状況が好ましいというわけです。

【3つ目の理由】施設と家族の負担の軽減

これも大きな理由となるでしょう。

例えば、入所施設は利用者が生涯生活を続ける場となることが多くあります。

となると、病院への入院や老人ホームへの入所とは違い、長い人では50年以上施設にいることもあるのです

そうなると本人の身元保証人も1人では済みません。父親が亡くなれば母親に、母親も亡くなれば兄弟にその身分が移ることはざらにあります。

毎月の入所費用を家族が振込み、50人分もの振込がされているかを確認し、振込みが滞っている家族には催促し、などの事務を毎月行うのはかなりの負担です。

それであれば、確実に引き落とせる障害年金の入る通帳を預かっているのが施設にとっても家族にとっても最も楽な方法となるのです。

預けた通帳が返却できないと言われたら…

それでは家族目線で、預けた通帳が返却できないと言われた場合の対策について解説します。

自然に考えると、障害年金が入っているのだからそこから利用料を支払うために預けたままにしておくのが一番良いように思えます。

しかし家族としても通帳を返却してもらいたい場面というものがあるのです。

すでに通帳に多くのお金が貯まっていた

このケースは多くあります。

施設に入所するまで、障害年金に一切手を付けていない家庭は結構多いものです。

また、生前贈与により、大きな額を入金している場合も多くあります。

「親がいなくなった時のために…」と備えておきたい親心からでしょうが、そのお金がいざという時に使えないとなるとそれは大変困ってしまいます。

通帳から下ろせないとなると、それは実質凍結されたお金になります。

本人が亡くなるまで、その口座に留まっている他ありません。

最悪なのは相続人がいないケースです。

本人が亡くなった時に相続人が存在しない場合、そのお金は国のものになります

貯まりに貯まった何千万というお金が国庫に帰属するというのは、納得できないと考える方がほとんどだと思います。

凍結されてしまうお金をなるべく作らないようにする対策!

それでは通帳が返してもらえなかった時の対策はどのようなものがあるでしょうか?

「返してもらえるようにする方法」「返してもらえなくても困らない方法」の二つを説明します。

障害年金の振込先を変更し、その口座の通帳と交換してもらう

施設としては、たくさんのお金が入っている通帳が必要なわけではありません。

あくまでも「利用者の生活に困らない程度の額」が入っていれば良いのです

そのため、障害年金の振込先が変更できれば、新たな通帳と交換することで返却に応じてもらえる可能性が出てきます

また、別の口座を持っていれば、そこに十分な額を入金しておき、従来の通帳を返却してもらえる可能性もあると思います

その額が定まっているわけではありませんが、施設としても本人が当面生活できる額が入っていれば安心はできるはずです。

いずれにせよ施設次第にはなりますので、強行手段を取ることなく、穏便に交渉しましょう。

大きな額を通帳に入金しておかない

これはそもそもの話になりますが、通帳には障害年金で入る額+α程度の額しか入れないようにしておくことです。

障害年金は毎月本人のために優先して使用し、将来の入所時期に貯まっていることの無いようにしておきましょう

また本人のために貯金する必要は基本的にはありませんが、どうしてもしたい場合は別の口座にしてください。

こうしておくことで、施設に通帳を返してもらえなくなった場合でも大して困ることは無くなります。

また、親が亡くなった際の相続時に大きなお金が入ってしまっては元も子もありません

他の相続人に渡すか、一人っ子の場合は絶対に本人が使い切れないような額は他の親戚やお世話になった施設に寄付するなどの対応を取りましょう。

なお、上記の対応を取るには内容を工夫した遺言を作成しておくことが必要となります

事前に対策をして安心して通帳を預けられるようにしておこう!

以上、施設に通帳を預けることで起こる問題とその対策について解説しました。

施設に通帳を預けることは、お互いにメリットがある反面、万が一の時に窮地に陥るリスクもあります

事前にしっかりと対策し、安心して預けておけるようにしましょう。

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