なぜ意思能力の無い者が家族の中にいる場合でも遺言を作らない人が多いのか
家族(法定相続人)の中に障害や認知症などで意思能力の無い者がいる場合、その他の家族が遺言を作っておかないと予期せぬことが起きてしまいます。
それは、「成年後見人をつけたくないのにつけざるを得なくなる」ということです。
今まで家族が本人をみることができていたのに家族の相続のタイミングでその状況はガラリと変わります。
成年後見人が本人の通帳を預り、財産管理が始まってしまうのです。
どうしようもない状況「手遅れ相続」に陥ってしまった方からのご相談を多くいただきますが、その状況になると私でも何ともできません。
しかし遺言一つあれば手遅れ相続は回避できます。成年後見人をつけないままの生活を引き続き送ることができるのです。
それでも遺言を作らない者は多くいます。今回は遺言を作らないとマズい状況なのになぜ遺言を作らない人が多いのかということについてお伝えします。
自分達の家族のケースが相続のタイミングで成年後見人をつけざるを得なくなってしまうことを知らない
これが最も多いパターンと言えます。ほとんどの方はそのことを知らないために遺言を作らないのです。
「意思能力の無い者が含まれる相続は成年後見人が必要」。この言葉だけ理解できればすぐにでも遺言を作る方がほとんどになるはずですが、この説明はなかなか簡単にはできません。
「遺言があれば遺言執行者が財産の移転を一人でできるので成年後見人が必要なくなる」と言い換えてみても、一般の方ではすぐに理解するのは難しいでしょう。
インターネットなどで障害者の相続について調べてもそこまで多くの情報は得られないため、「障害者や認知症のいる家族の常識」となっているとは言えないのです。
障害者や認知症の相続を専門的に取り扱っているところがほとんど無い
これは、当事務所のように障害者や認知症に関する相続を専門に取り扱っているところがほとんど無いということが大きな原因です。
福祉と相続が絡む領域というのはどの機関でもなかなか手を出すことが難しいのです。現に行政でのアナウンスを行うこともできていませんし、福祉施設主導でアナウンスを行っていくことなどあり得ないと思います。
となると相続の専門家である行政書士や司法書士、税理士、弁護士などがこの問題について周知していかなければならないのですが、福祉の現場知識と相続の知識を兼ね備えている専門家など全国レベルでもほぼいないのです。当事務所には全国からご相談が来ますが、それは上記の事実の裏返しと言えると思います。
「遺言は難しい」と考えている
「遺言を残す」というと、一般の方には難しいものだというイメージがあると思います。
そのため、遺言を作るタイミングがなかなか図れないという人も多いでしょう。
一から自分で調べ上げれば「自筆証書遺言」という形で残すこともできます。しかしこれは無効となるリスクが生じてしまう可能性があるので少々ハードルは高くなります。
あとは「公正証書遺言」という方法ですが、これは公証役場で公証人に遺言を作ってもらうやり方です。
遺言が無効になるリスクが極力抑えられるという点が大きなメリットとなるため、こちらの方がおすすめです。
あとは遺言内容については、やはり専門家のサポートが必要となるでしょう。「成年後見人をつけないようにする」という目的があるのであれば、「障害者福祉、高齢者福祉に詳しい相続の専門家を探す」というハードルがあります。
ただし、それさえクリアできればあとは自分自身が苦労せずに遺言書作成までたどり着ける場合がほとんどです。
「遺言を作るのは高い」と思ってしまう
「遺言を作るためには高額な費用が必要である」といったイメージを持つ方も多いでしょう。
自筆証書遺言を自力で作る場合はまだしも、確かに公正証書遺言をおまかせで作るには費用がかかります。
例えば当事務所を例に挙げると、公正証書遺言のトータルサポートで15万円程度、さらに公証役場への支払いが5万円程度必要です。
「遺言は安すぎる!」とみんなが思う訳
「20万円以上」と単純に考えると確かに安くないのかもしれません。しかし、遺言を残さなかった結末と比べると話にならないぐらいの安さになるのです。
遺言が無いことによって成年後見人をつけることになった場合、単純に「申立費用20万円程度」、「成年後見人への報酬年間20万円程度×本人が亡くなるまで」と考えると莫大な費用となります。
この比較を考えれば「すぐにでも遺言を作ろう!」と思う方がほとんどだと思います。
ただしこの点についても堂々とアナウンスできる機関が無いため、知らないという方がほとんどでしょう。
なかなか親に遺言を勧められない
これも遺言を作る人が少ないことの大きな理由になると思います。
親に知識が無い場合、子が親に遺言を勧めるというパターンはよくあります。
しかし、子から親に遺言の作成を頼むことがなかなかできない家庭も多いのです。
とある例では、「私(花村)から親に遺言の必要性を話して欲しい」という、子にあたる方からのご依頼もありました。私から遺言があった場合と無かった場合の結果を説明することにより、親の重い腰が動くこともあります。
「自分達の家庭の相続は他の家庭の相続とそもそもの本質が違う」ということを説明してなんとか遺言を作ってもらうということがハードルの一つになると言えるでしょう。
意思能力の無い方が家族にいる場合は遺言を絶対に作らなければならない!
「意思能力の無い方が家族(法定相続人)にいる場合は遺言を絶対に作らなければならない」というぐらい強く言ってしまっても良いと思います。
そのイメージが世の中に周知されていないことによってたくさんの被害者が現在も出続けているからです。
「そんなこと知らなかった…。」、「なんで誰も教えてくれないの…?」と嘆いても後の祭りです。そんな方達を私はたくさん見てきました。
「成年後見人をつけたくないなら必ず遺言が必要となる」ということについてぜひ一度家族で話し合ってみましょう。