令和7年10月から公正証書で遺言を作成する場合の方法が変更され、東京都を皮切りに徐々に新方式での作成方法に移行されています。
新しい遺言公正証書の作成方法とは、いわゆる作成方法が一部「電子化」されたということです。

電子化されるということは一般的に考えると利便化、簡素化されるというイメージだと思いますが、実際のところはどうでしょうか?
今回は実際に体験してきた新方法での公正証書遺言の作成方法についてお伝えしたいと思います。
公正証書遺言がオンラインで作成できるようになった!しかしハードルは高い…
まず、公正証書遺言の電子化について、オンラインでの作成が可能となりました。
しかしこのオンラインでの作成方法については、電子署名が必要であり、専用のカードリーダーなどを備え付ける必要もあることから、高齢者の方が遺言を作成する場合にはまだあまりなじまないのではないかと思います。
そのため、今回はその方法については割愛し、従来の対面式の公正証書遺言の作成において変更された点を解説していきます。
従来の公正証書遺言の作成方法と変わった点は?
従来の公正証書遺言の作成方法と変わった点は、一言で言うと「遺言への押印が不要となった」ということです。
従来は遺言作成時に、遺言書へ「本人の押印」と「証人2名の押印」が必要でした。

これが不要となります。
しかしこれにより大きなメリットがあるかというとそうではないと言えます。
なぜなら、印鑑証明書と実印の整合性を確認するという作業は変わらないからです。
遺言作成時には、遺言者本人が印鑑証明書と実印を持参し、公証人がそれぞれの印が同一かを確認して遺言書に押印させます。
この作業は変わらず必要となるため、従来と変わるのは「遺言書本体への押印が不要となったこと」だけです。
しかし証人の印は従来から認印で良かったため、今回の改正で押印自体が不要となり、持参自体も不要となります。
ということは、万が一の証人の印鑑忘れのリスクが無くなったと言えるでしょう。
逆に面倒になったかもしれない「署名」!
そして電子化により大きく変わったことが「署名」です。
従来の公正証書遺言では、本人および証人2名が遺言書本体(紙媒体)に直筆サインをすることが必要でした。
これが「PC画面へのサイン」に変わります。
公証人が使用する遺言作成ソフトの署名画面へサインする。具体的に言うと、パソコンの画面に専用のペンで書き込むことになります。

これは慣れていない人にとっては逆に負担になるかもしれません。
実際に私もパソコン画面への署名を行いましたが、紙へ書くよりもゆっくり、丁寧にサインする必要があると感じました。
ペンの線の太さはボールペンや万年筆よりも太く、小さく名前を書こうとすると線同士が重なってしまいます。

普段字が小さい方は、なるべく大きく書こうと心掛ける必要があると思います。
また行書体のように字を繋げるような書き方をする方も見づらくなってしまうかもしれません。
いずれにせよ、公証人と証人2名が立ち会っている中で署名しているのですから、証拠力としては従来通り強いものがあると思います。
一番大変になったのは公証人の先生?
私が最も感じたことは「公証人の先生が大変になった」ということです。
専用ソフトの導入により、公証役場での対応方法も大きく変わりました。公証人や事務員もソフトの使い方をマスターしなければなりません。

しかもパソコンの画面を見ながら順々に作業を行っていく必要があるため、実際には遺言作成にかかる時間は多くなったと感じました。
これは作業への慣れやソフトのロード時間の短縮などで改善される可能性はありますが、もうしばらく時間を要するでしょう。
遺言書本体の扱い方も変わった?
それでは遺言書本体の扱いはどう変わったでしょうか?
従来の遺言書公正証書は、「原本」を公証役場で保管し、「正本」と「謄本」が遺言者に交付されます。
電子化により、原本データは公証役場が保管し、「正本相当」の書類と「謄本相当」の書類が遺言者に交付されることになりました。
正本相当の書類とは公正証書全部事項出力書という名前の書類で、はっきり言って従来の遺言書正本と変わりません。
また謄本相当の書類も公正証書同一事項証明書といい、従来の遺言書謄本と変わりません。
公証人の先生に尋ねてみましたが、どちらの書類も全ての手続きに使用できるとのことでした。

ちなみに古来からある「謄本は銀行手続きに使えないと言われてしまう可能性がある」疑惑ですが、今回の電子化については、銀行関係者も研修に参加して制度を学んでいるとのことでしたので、謄本でもちゃんと手続きできる状況が統一されて欲しいです。
結論は…「ちょっと手間になった」?
今回一部電子化による公正証書遺言作成手続きに立ち会った私とスタッフ個人の感想としては、「従来よりも少し手間になった」です。
公証役場で紙媒体を保管しなくて良くなったことは大きなメリットになると思いますが、遺言作成者としては少しだけ手間が増えたかもしれません。
パソコン画面に署名がしづらいことと、時間が多少かかってしまうことがマイナス面で、証人の印鑑忘れのリスクが無くなったことはプラスだと思います。
実際の場においては、公証人の先生が丁寧に教えてくれますので、その通りに進めていけば何の支障もないと思います。

当事務所は公正証書遺言作成において、遺言案の作成を始め、公証人とのやり取り、出張による証人同伴についても全国的に対応しておりますので、お困りの方はご相談ください。






