養子縁組は成年後見人の回避や親なき後対策として有効!?
成年後見人をつけたくないという人は大変多くいらっしゃいます。むしろほとんどの当事者ができるなら成年後見人をつけたくないと思っているのではないでしょうか。
もちろん、誰も本人をみることが出来なくなった場合には成年後見制度は大変強力です。しかし、本人をみる者がいる場合にも成年後見人をつけなければならなくなるタイミングがあります。
それは「相続」のタイミング。何も対策をしていないと相続のタイミングで成年後見人をつけなければならなくなることが大変多いです。
何も対策をされていなかった方から多くご相談を受けますが、皆さん声を揃えて「こんなことになるなら対策しておけば良かった…」とおっしゃいます。
子に成年後見人をつけることをできるだけ避けたいとお考えの方で有効な対策の一つに「養子縁組」があります。誰かを自分の法律上の子にして、障害などがある実子の支援をしてもらうという方法です。
養子縁組は子が一人残される場合の親なき後対策の一つ
養子縁組が最も力を発揮するのはどのようなケースでしょう。
それは、「子が一人しかおらず、その子に障害等がある場合」だと考えます。
自分が死んだら子をみる者がいないが、自分が顔も見たことがない者に子の世話を任せることが不安である、といった想いをお持ちの親御さんは大変多くいらっしゃると思います。
しかし、養子縁組というとなんだかとっても敷居が高いもの。今回は養子縁組と遺言などを用いて親なき後の子のサポート体制を構築する方法をお伝えいたします。
※当事務所がこの方法を取ることで成年後見人をつける可能性が低くなる、または成年後見人をつけることを遅めることができると考えている方法について掲載しています。
一人っ子の親なき後を養子縁組でサポートする仕組み作りの例
それでは例を挙げてみます。
80歳の母、50歳の知的障害(グループホーム入所中)を持つ息子の2人家族。父は数年前に他界しています。
母は自分が亡くなった後が大変不安です。おそらく成年後見人がついて本人の面倒を見てくれるでしょうが、顔も見たことのない者が息子の世話を一生見ていくこととなるという状況を考えると不安に思います。
そこで母は兄弟の子、いわゆる甥を養子に迎え入れるということを思いつきました。甥を養子に迎え入れて親子関係を構築し、同時に実の息子と兄弟関係を築くことを思いつきます。
なぜ養子縁組が一人っ子の親なき後対策になるのか
それではなぜ甥をあえて養子にすることが親なき後対策として考えられたのでしょう。甥を養子にすることで得られる効果を考えてみます。
息子と兄弟関係を作ることで支援してもらえる
母が甥と養子縁組をすると、母、息子、甥の3人家族となったと考えることができます。
もし母が亡くなった後でも甥と息子は兄弟関係にあります。となると息子は甥に扶養してもらえる関係にあるということです。
もちろん、甥は息子の支援を積極的にしようと思っていなくては現実的なサポートにはならないでしょう。その点は母の生前にしっかり甥の承諾を得ておかなければなりません。
例えば母、息子の2人家族のままであった場合、家庭にどんなに資産があっても最終的には国庫に帰属します。相続人がいないくなってしまうからです。
それを甥に託す形にすれば甥にもメリットはあります。もし息子が亡くなった時には財産を受け継ぐことができるからです。息子の生活に必要な資金を超える財産があるのであれば、どうせなら国よりも親族に分け与えたいと考えるのも当然です。
養子縁組は相続税対策にもなる
養子縁組の一般的効果として、多額の財産がある場合には相続税の節税効果も見られます。
相続税の基礎控除額は3000万円+(相続人の数×600万円)となりますので、当然相続人の数が多いほうが相続税を支払う額は減ります。
さらに今回のケースである、「障害者が法定相続人に含まれる場合」には障害者控除の適用もあります。障害の程度により85歳−現在の年齢×10万円or20万円が相続税から控除されます。
障害者控除は法定相続人全員で控除枠を使い切ることができます(障害者本人の相続分が0の場合は控除対象とはならないので注意が必要です)ので、甥が養子に入ったことによる損失はありません。この場合は基礎控除額が丸々600万円増えたことになります。
一番の注意点は「障害者本人の相続分をゼロにしてはいけない」
しかし、この障害者控除は、本人の相続分がゼロの場合には適用されません。ということは、その他の法定相続人にも適用されなくなってしまうのです。
遺言で法定相続分が害された者は「遺留分」を主張することができますが、実際は本人が主張できない場面が多いでしょう。それでも障害のある者の相続分をゼロにしてしまわないよう注意が必要です。
遺言を組み合わせることで成年後見人をつけることを回避できる場合がある
養子縁組+遺言で成年後見人をつけることを回避できる場合もあります。
養子縁組をしただけでは、母や息子の安心感が増すという心理的効果しかありません。
結局のところ、息子に意思能力無しと判断されてしまえば相続の際に成年後見人をつけることが必要となってしまうからです。
相続財産は成年後見人と甥(養子)が遺産分割協議をし、2分1ずつ分け合うことになります。不動産の所有権が共有となってしまえば自由に処分もできません。
しかし、母が遺言を残していれば話は変わってきます。母の遺産を自由な割合で分配することができるからです。
上記のケースでの分配方法
上記の養子縁組後のケースでの遺産分割例を挙げてみます。
母は遺言で「甥(すでに養子)9割、実子1割」の割合で相続財産を分割する旨を遺しました。
母の自宅の名義は全て養子に、実子には現金500万円のみを分配します。
例のように分配するとどのようなメリットがあるでしょう。
成年後見人をつける必要が無くなる、または成年後見人をつける時期を遅らせることができる
上記のように分配すると、相続のタイミングで成年後見人をつけることを回避できる可能性が高まります。
遺言があることによって遺産分割協議が不要となるからです。
相続のタイミングで成年後見人をつけるというのが一番避けたいもの。それは費用の問題や家族の精神的負担の問題があるからです。
成年後見人をつけることを10年遅らせることができれば、財産額によりますが200万円以上の節約になります。
また、第三者による成年後見人がつくことによる家族の精神的負担もあります。「成年後見人が家族の意見を反映してくれない」、「成年後見人が不正をしていたらどうしよう」などの不安を抱えながら生活を送ることもできれば減らしたいでしょう。
家族が成年後見人になれた場合は費用面の不安は無くなりますが、負担面では増加します。成年後見人の事務は大変手間でありますし、不正などが厳しく監視される状態は精神的にも苦労すると思います。
実子の遺留分の問題について
さて、法定相続人には「遺留分」というものがあります。
上記のケースでは、障害のある子については法定相続分の2分の1、すなわち全遺産の1/4を取得することを主張することができます。
成年後見人が遺留分を請求してくることがあるのか
しかし、遺留分は本人からの主張がない限り支払う必要はありません。
本人から主張することが出来ないとなると、残るは成年後見人が主張する可能性がでてきます。
そのため、実際どうなるかははっきりとしたことは言えません。
もちろん相続のタイミングで成年後見人がついた場合は本人の法定相続分はきっちり主張するでしょう。しかし、例えば数年後に成年後見人が本人についた場合、遡って遺留分を主張するかどうかは成年後見人次第だと思います。また、10年経てば除斥期間が満了し、もはや成年後見人であろうと遺留分の請求はできなくなります。
対策としては、「自分名義の口座を作り、障害のある子の遺留分相当額を確保しておき、その本人のための支出をその口座から行うこと」などが考えられます。
成年後見人をつけなくて良いかは福祉サービスの方針が超重要!
遺言により、成年後見人をつけることを回避できたとしても、次にある大きな壁は「福祉サービスの契約」です。
現在の障害者福祉サービスの契約状況は、「本人が書面にサインできない場合は家族が本人名のサインをすることができる」とい取り扱いをしているところがほとんどです。
そのため、「親が健在の時は親が福祉サービスの契約書類にサインをしていたが、親が亡くなった後に兄弟が契約書類にサインすることが許されるのか」ということが非常に重要になってくるのです。
しかしこれも、養子縁組をしているからこその強みがあります。
本人の親が亡くなった後、本人から見て「甥」という立場よりも「兄弟」という立場のほうが福祉施設も契約を認めやすいのです。
はっきりいって、他者による本人名の契約という特殊な行為は福祉サービス独自の手法です。そのため、法律で甥は駄目だけど兄弟はOKという決まりがあるわけではありません。
しかし、福祉施設の現状として、「兄弟が本人の契約をしている」というケースは多々あります。これは単に「兄弟なら繋がりが強いから」という福祉施設側のさじ加減のみによるものです。
そのため、福祉施設側に事前に「親が亡くなったら兄弟が引き続き契約を続けていくことができるのか」を確認しておくことが非常に重要になるのです。
同時に母親本人の安心も確保する方法
母としては親族である甥が息子の面倒を見てくれるのであれば安心感が増します。「息子は一人ぼっちにはならない」という安心感を持って生活を送れることは非常に重要だと思います。
しかし、「自分自身の心配」についてはまた別の問題です。もし母親自身が認知症などになってしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。
母親自身の財産も移転しておく
母親が認知症になった場合、母親本人が契約行為を行えなくなる場合があります。
そうなると、多額の引き出しや不動産の処分などは難しくなります。
実際は判断能力がしっかりしているうちから、キャッシュカードの番号などを養子に教えておき、判断が出来なくなってから母親自身に必要な少額の引き出しを行うことは可能です(厳密に言うとグレーな部分ですが…)。
万が一母親が認知症になってしまったり、自分でお金を引き出すことが出来なくなってしまうとなかなか面倒なことになります。そういったことに備えて、事前に養子と財産管理契約を交わしておいたり非課税枠内での贈与などを継続的に行っておくことが必要です(定期贈与とならないよう注意が必要)。
養子縁組の方法をとる場合は絶対的な信頼関係を要することに注意!
今までに挙げた親なき後対策の例は、「養親と養子に絶対的な信頼関係が無いと成立しない」というのが一番のデメリットでもあります。
養親も実子の面倒を見てもらえるよう養子と書面を交わしたところで絶対的な効力が発揮されるわけではありません。
家族信託+信託監督人の仕組みなどである程度対応することは可能だと思いますが、やはり一番重要となるのは養親と養子の信頼関係となるでしょう。
養子としても、兄弟をみていくことに無理をして縁組前の家族関係に支障をきたしてはなりません。「いつかは成年後見を」ということも視野に入れて話し合いを行うと良いでしょう。
養子縁組+遺言で一人っ子の親なき後対策を万全に!
これらの対策は養子縁組だけしておいたのでは威力を発揮することはできません。遺言を組み合わせることで初めて有効に動き出す仕組みとなります。
養子縁組は心理的には非常に敷居が高いものと思われがちですが、「要件が低いこと」、「生きているうちは縁組を解消できること」、「養子縁組前の家族関係はそのまま維持できること」などがあることから、使い勝手は非常に良いと思います。
自分自身の子が一人残されてしまうことに不安を不安に思うのであれば、信頼できる親族等を見つけ、「養子縁組+遺言」の親なき後対策を検討してみてはいかがでしょうか。