知的障害者が成人したら一律で成年後見人をつけなければならないという恐ろしい社会が来る可能性がある?
意思能力や判断能力の無い成人の知的障害者が福祉サービスを利用する場合、原則成年後見人等を立てることが必要となります。
しかし、この「原則」はほとんど適用されていません。
なぜなら、多くの福祉サービス提供事業者は、成人の知的障害者であり、本人に意思能力や判断能力が無くても、その家族が代理署名等をすることにより契約を行わせてくれているからです。
「法律上問題があるのでは…?」と思う方もいるでしょう。確かに法律上は問題があります。しかし、実際にはほとんど問題となりません。
逆に成年後見人をつけて契約を行わなければならなくなってしまう方が問題は多くなるでしょう。
しかし、この先の未来には、成人の意思能力等が無い知的障害者の方には一律に成年後見人等をつけなければならなくなるという恐ろしい社会が待っているかもしれないのです。
今回は、成人の意思能力等の無い知的障害者に一律で成年後見人等をつけることが当たり前になることの不条理さについてお伝えしたいと思います。
18歳や20歳から成年後見制度を利用することのデメリット
2022年4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられます。そのため、今後は18歳になってから福祉サービスの利用を行う場合、福祉施設等と契約を行うためには原則、成年後見人等が必要となってきます。
ただし、現状では今まで通り親や兄弟が福祉サービスの契約を(本人名で)行うことができるでしょう。
しかし今でも、成人の知的障害者が福祉サービスを利用する場合には、親がいても成年後見人を求めてくるという施設もあるそうです。
この先、そういった施設が増えれば増えるほど知的障害者の方がいるご家庭は窮地に追い込まれます。
ここでは、もし福祉施設の言うままに成人になった時から成年後見人を選任してしまった時のデメリットについて解説したいと思います。
成年後見人に要する費用
成年後見人をつけることに対しての費用を比較してみると、「若ければ若いほど費用は大きくなる」ということがわかります。
80歳で亡くなるまでの成年後見人をつけた年齢ごとの成年後見人に要する費用を例に挙げます(初期費用や成年後見人への特別報酬を除く)。
70歳から成年後見人をつけた場合の費用例
毎月3万円×12ヶ月×10年
=360万円
18歳から成年後見人をつけた場合の費用例
毎月3万円×12ヶ月×62年
=2232万円
2000万円ほどの費用差が生まれてしまう
本人や家族が成年後見報酬を支払えなくなり生活保護を受けた場合などは考慮していませんが、一般的には考えられないほどの費用がかかることがお分かりになると思います。
もちろん成年後見人が本当に必要であるのならばその意義は十分にあります。しかし、ほとんどのご家庭では、お子さんが成人に達した際には成年後見人が必要とは言えないはずです。以下に、成人した時点から成年後見人をつけることの「機能面」についてのデメリットをお伝えします。
家族ができることをわざわざ他人がやることの矛盾
ほとんどのご家族が、成人になった知的障害者のお子さんを、成人になる前と変わらずにお世話していくことと思います。衣食住を共にし、生活に必要な物品を購入し、本人に必要な福祉サービスを選択してあげる、などです。
その場合、なぜ成年後見人が必要なのでしょうか?
本人の財産を使い込む可能性がある?
その理由として、「本人の財産を使い込む可能性がある」ということを挙げる者がいます。
しかし、成人したばかりの本人に多くの財産があることは考えられません。
また、本人には障害年金が支給されるでしょうが、支給される障害年金を使い込むということは実質不可能です。
毎月の本人にかかる支出を障害年金で賄う場合、その範囲ギリギリ、または足が出てしまう場合が多いでしょう。
食費、光熱水費、交通費、福祉サービスに関する費用、被服、お小遣いなど、本人が生活していくには色々な費用がかかります。
そのため、家族が使い込むレベルのお金が貯まっていくことは考えづらいでしょう。
また、親や兄弟などの家族には扶養義務がありますので、本人にお金が無くなれば生活に要する費用を支出するのはその家族です。そういったつながりを考えると、本人の財産を使い込むというケースはあまり無いと言えるのではないでしょうか。
家族より本人のことを知らない者に福祉サービスの方針を決定されてしまう
成年後見人がつけば福祉サービスの契約は成年後見人が行います。
家族の意見を尊重しなければならないという義務はありませんので、第三者による成年後見人がついた場合、最悪家族の希望と真反対なことをされてしまう可能性もあるのです。
しかも、本人のことを昔から知っていおり、、本人の障害について理解のある者が成年後見人につく可能性は著しく低いでしょう。
本人のことを一番知っている人間を差し置いて第三者である成年後見人が本人の福祉サービスの方針を決定するという非常におかしな状況になってしまいます。
家族後見人では問題を解決できない?
それならば、家族が後見人になれば良いのではないかという考えが浮かんできます。
家族が後見人になれば、本人の福祉サービスの方針を決定するのには良いと思います。しかし他の問題まで解決できるわけではありません。
家族が確実に成年後見人になるには
家族が後見人になることにはそれなりのメリットがありますが、必ずなれるというわけではありません。
法定成年後見人は家庭裁判所が決定するため、全く知らない第三者が成年後見人に就任してしまうことも考えられます。
家族が必ず後見人になれる方法もありますが、かなり限定的であり、前々からの準備が必要です。
任意後見制度を使い、子が未成年の時に子の法定代理人として契約を結んでしまうのです。
例えば父親が本人の代理人となり、本人の姉を任意後見人とする契約を結んでおくのです。
これはかなり特殊な例であり、任意後見契約書を作成する公証人によってはまだ認められないこともあるそうです。
家族成年後見人に降りかかる苦難
しかし家族が成年後見人になっても全てが解決するわけではありません。
家族が法定成年後見人になれた場合でも、第三者による後見監督人がつく可能性があります。
また、後見監督人がつくことを回避したい場合は、後見支援信託などの裁判所の監督権を強化させるための制度の利用が必要となります。
家族が任意後見契約により成年後見人になった場合は必ず成年後見監督人をつけることが必要となります。
どちらにせよ、監督権が強化されるため、本人の財産の管理や福祉サービスの選定などには厳しい目が向けられます。
なぜ福祉サービスの利用にまで成年後見人が必要となってきてしまうのか?
今まで通りに福祉サービスの契約を家族が行えていれば、成年後見人の問題が降りかかることはありません。
しかし、福祉施設が成年の知的障害者の契約において一律に成年後見人を求めるようになってきてしまえば、知的障害者の方がいるご家族にとっては大変厳しいものとなります。
言わば「必要としていないのに高額の公的サービスを強制的に利用させられる」と例えると合点がいくでしょう。
それでは今後その元凶となり得る、「福祉施設が成年後見人を求めてくる」といった最悪の状況はなぜ起こり得るのでしょうか?
福祉施設が成年後見制度のデメリットやそれによる家族の負担を理解することが難しい
福祉サービスを提供する事業者には、成年後見制度に対する知識はほとんどありません。彼らは福祉のプロであり、成年後見制度のプロではないからです。
そのため、「意思能力や判断能力の無い者が契約を行うには成年後見人等が必要である」といった文言を読んだだけで、「それはまずい!うちの施設の契約も親ではなく成年後見人をつけて行わなければ!」と考えることは自然であると言えます。
今までの慣習どおりの契約方法で特段支障が無くても、少しでも施設にリスクがない方法を取りたがるのは経営者としては当然なのかもしれません。
施設の選択一つで家族がどれだけ苦労するのかを理解するのはなかなか難しいと言えるでしょう。
成年後見制度利用促進の流れが影響している?
認知症高齢者に対しては一定の効果が発揮される成年後見制度ですが、家族のいる若年者に対しては悪法と呼ばれてしまう制度であることも事実です。
家族のいる若年者に対しては、メリットよりもデメリットが勝ることが多いため、進んで利用したがる者などほとんどいないと言えるでしょう。
そのため、国としてはなんとか成年後見制度の利用促進を促すため、今まで平穏に過ごしてきた知的障害者とその家族にまで制度の利用を求めてくるのは当然の流れなのかもしれません。
国の方針として「将来的に全ての知的障害者には18歳から成年後見制度を利用させる」というものだったら、知的障害福祉界は大パニックになってしまうことでしょう。
福祉施設が成年後見人を求めるようになるのは銀行が成年後見人を求めるようになった流れと類似している
福祉施設が成年後見人を求めてくるという流れは、銀行が成年後見人を求めるようになった流れと類似しています。
現在、銀行の耳に知的障害者が相続人の中に含まれているといったことが入ってしまえば、銀行はその者に会ったことがなかろうが、意思能力があろうかなかろうが、一律に成年後見人を求めてきます。
福祉施設までそのような厳しい取り扱いを行ってしまえば全ての負担は知的障害者とその家族にいくことは明らかです。
一律に成年後見制度を適用させようとすることが時に家族のみならず本人の不利益になり得ることを考えてなくてはならないのです。
現行の福祉サービス契約のほとんどは今まで通り
とはいえ、現行の福祉サービス契約は今まで通りに家族の代理契約で通るところがほとんどのようです。
しかし、今後成年後見人等が契約する方式にしようと考えている福祉施設も増えてきています。
また、今回の記事はあくまでも家族が円満に生活を送り、今後も信頼関係が保てているという家庭であるということを大前提としているため、トラブルがある家庭や家族が本人をみることができないという家庭にとっては成年後見人をつけることが急務となる場合もあります。
将来の契約について不安がある方は、直接福祉施設に相談し、家族の実情と将来の福祉サービス利用についてお話しておくことも良いかもしれません。