親や兄弟が知的障害者の財産管理と身上監護を行っていくことの是非

成年後見人の是非成年後見人をつけない相続

親や兄弟が意思能力や判断能力の無い知的障害者の財産管理と身上監護を行うことは良いこと?悪いこと?

意思能力や判断能力の無い知的障害者の方が福祉サービスの契約や遺産分割協議、その他の手続きを行うには成年後見人等が必要というのが世の中の建前となっています。

知的障害者には成年後見人をつけるのが一般的

しかしそれはあくまでも建前であって、一般的とは言えないかもしれません。

現に意思能力や判断能力が無い成人の知的障害者の方でも成年後見人がついていない方はたくさんいらっしゃいます。

そもそも意思能力や判断能力が十分にある知的障害者の方もたくさんいらっしゃいますし、意思能力や判断能力に懐疑がある方でも特段生活に困らなければわざわざ成年後見人をつける必要はないでしょう。

しかし、知的障害者と成年後見制度の関係は大変難しいものです。どの選択肢を選んでも一筋縄ではいきません。

今回は、意思能力や判断能力の無い知的障害者の方と成年後見制度の関係性についての問題をお伝えしたいと思います。

意思能力や判断能力の有無は誰が判断するのか

民法では次のように規定されています。

第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

「事理を弁識する能力を欠く常況」とは、常に事理を弁識する能力を欠いていることであり、「意思能力や判断能力が無い」と言い換えられて使われることが多いです。

では、本当に意思能力や判断能力(以下、意思能力等)が無い者などいるのでしょうか?

例えば自閉症スペクトラムの症状があり、言葉を発せない方がいるとします。

しかし、その方にも自分の思っていることを伝えたりする能力はあるはずです。

知的障害者が本人の思いを伝える

食べ物を食べたいという意思を伝えたり、車が来たから避けるという判断を行ったりすることができる方も多くいらっしゃいます。

また、第三者から見て意思能力等が無いと感じられる場合であっても、親や兄弟から見れば意思能力等が解るということも多々あるでしょう。

家庭裁判所と医師が意思能力等の有無を判断する

しかし今挙げた方の症状であると、法律上は「意思能力等は無し」と判断されてしまうでしょう。家庭裁判所が成年後見人をつけることが必要という審判を下されてしまうのです。

ちなみに、家庭裁判所の判断には医師の意見が重要視されます。裁判官の考えだけでは本人の意思能力等の有無を判断することはできないのです。

そのため、最も本人の意思能力等の判断に影響力を持つのは医師だと言えるでしょう。

しかし医師も医学的な知見から意思能力等の有無を判断します。家族がいくら本人に意思能力等をあることを伝えても参考程度にしかしてくれないでしょう。

成年後見人が必要かを判断す医師のいる病院

それは家族にとっては大変つらいことに感じるはずです。本人の意思等をいくら理解できていても、法律的には意思能力等が無いと判断されてしまうのですから。

意思能力の有無は家庭裁判所にしか判断できない

しかし、成年後見開始の審判により本人の意思能力の有無が判断される機会が無ければ、本人の意思能力等の有無は誰にも判断できません。

即ち、本人は「意思能力等の有無が判断されていない状況」にいるわけです。

成年後見制度を利用するのは義務ではありません。そのため、成年後見人をつけるべき方であっても成年後見人がついていない方が多いのです。

なぜ成年後見人をつけないのか

では、成年後見人をつけるべきであっても成年後見人をつけていない方が多いのはなぜでしょう。

それは、「いなくても特に困らないから」です。

成年後見人の是非

例えば本人が、親や兄弟が本人の面倒をみてくれる環境にあるのであれば成年後見人がいなくても困ることはありません。

成年後見人等は本人の「財産管理」と「身上監護」を行います。本人の財産管理と身上監護を家族が行えている状況であれば成年後見人等がいなくても特段困ることは無いのです。

成年後見人等がいなくて困ること

しかし、家族が本人の財産管理や身上監護をすることができる場合であっても、実際に成年後見人等がいない場合に困ることはあります。大きな点は「相続」の際です。また「福祉サービスの契約」の場面でもそうなることがあります。

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銀行や相続の専門家、福祉施設の職員から「成年後見人が必要です」と言われてしまうことがあるのです。

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もちろん今挙げた者達には、本人の意思能力等の有無を判断する能力も無ければ権利もありません。しかし、成年後見人等がいなければ手続きや契約を行わないと言ってくるという不思議な状況があります。

成年後見人をつけるのとつけないのはどちらが正しいのか

それでは意思能力や判断能力が無い(と法律的に判断される方)場合に成年後見人等をつけないことは良いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。それぞれの立場から是非を考えてみたいと思います。

銀行や専門家、福祉施設の立場から見た場合

銀行や専門家、福祉施設が成年後見人をつけて欲しいのは「立場上」必要だからというのが主な理由だと思います。

例えば銀行や相続の専門家の場合、知的障害のある本人が参加した遺産分割協議により預貯金を移転したのに、後からその遺産分割協議が無効となってしまったら大変です。

遺産分割協議書が無効になる

「なぜ本人の意思能力等を確認しなかったのか」という責任を問われかねません。

そのため、銀行や相続の専門家は意思能力等の多少に関わらず、一律に成年後見人等を求めてくることが多いです。

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また、福祉施設の場合は、本人の緊急時やサービス提供料の支払を担保したいという思いがあるでしょう。

本人の親が健在の場合は成年後見人が必要だとは言ってきませんが、親が亡くなり、その他の家族や親族などの対応に不安があったりすれば、専門家等の第三者に本人の契約等を行って欲しいと思うことは仕方が無いかもしれません。

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本人の家族の立場から見た場合

本人の家族の立場から見た場合、先程お話した「本人の財産管理や身上監護ができる」場合であれば成年後見人はデメリットでしかありません。

成年後見制度を利用するには莫大な費用がかかりますし、第三者が家庭に入ってくることには少なからず嫌悪感を感じることでしょう。

成年後見人に必要な多額の費用

家族にとっては「私達が本人の面倒をみられるのになぜお金を払って赤の他人に本人の面倒をみさせなければいけないのか」というイメージがまさにピッタリだと思います。

あくまでも法律的な話ではありませんが、知的障害者の方を子に持たれる親御さんの場合、「未成年か成年か」という境界についてはハッキリと切り替えることは難しいかと思います。

やはり実の子であったり、実の兄弟である本人の面倒をみていくのは家族であることが当たり前だと思ってらっしゃるでしょうし、それは自然なことだと思います。

「未成年の時は親権による代理権のもと本人の面倒をみてきたのに、成人になったら赤の他人にお金を払ってみてもらう(または家族が後見人になって裁判所の管理下に置かれる)」ことの矛盾は誰であっても理解に苦しむことでしょう。

確かに本人が成人になった場合、親の代理権は失われます。しかし、健常者に対する法律の建前を知的障害者に対しても強引に適用させるのは明らかに法の欠陥とも言えるでしょう。

本人の立場から見た場合

しかし、上記のケースの場合でも「本人保護のために成年後見人等が必要だ」という考えも確かにあります。

この「本人保護」という考えですが、実は成年後見制度の一番の目的がこの考えなのです。

障害者のいる家族の円満な相続

本人の財産や身の周りのことについて、家庭裁判所に強力な監督権を持たせた第三者に権限を与えることによって本人保護を図ること、これが成年後見制度の一番の機能と言えます。

「成年後見人等であるものと契約を結ぶ相手方に対する保護の機能」も備えられているのですが、はっきり言って機能していません。

成年後見制度は本人保護に対しては強力な制度でありますし、その点においてはかなりよくできた制度と言えるでしょう。

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本人保護のために家族の権利を排除し、成年後見人等以外の者は一切本人の財産等に口を出すことができません。家族が本人の財産を使い込んでしまうことも防止できます。

本当に本人が成年後見人を望んでいるのか?

成年後見制度は、本人保護のために最強の制度と言いましたが、では別の角度から見てみるとどうでしょうか。

「本人保護」が必ずしも「本人が望んでいること」では無い場合も考えられます。

例えば成年後見人をつけて遺産分割協議を行い、法定相続分の遺産を確保した場合を例に挙げてみます。

本人にはそれ以降、死ぬまで成年後見人がつきます。成年後見報酬については年額40万円程度が本人の口座から支払われます。

そして家族が本人の通帳から引き出しを行ったり、本人の福祉サービスの方針についても口を出せなくなりました。

家族にとっては大変ショックなことだと思います。親も兄弟も、自分または本人が亡くなるまで面倒を見ようと思っていたのに、それが第三者によって(または家族後見人が家庭裁判所の管理下に置かれて)行われることになってしまったのです。

もしその状況を本人から見た場合、果たして本人が望んでいたことと言えるのでしょうか?

本人にも意思能力はあります。法律的には意思能力が無いと判断されてしまったとしても、自分の喜びや悲しみという感情や家族を愛しているという想いは確実にあるのです。

家族円満で素敵な生活

成年後見制度を利用したことで家族が悲しみに打ちひしがれるといった状況に陥ってしまったら、本人としてもいたたまれない気持ちになるでしょう。今まで年金の支給日に一緒に銀行に行き、その後買い物や食事に行くという本人にとって楽しみなイベントがあったとしても、その機会はもう無くなってしまいます。

大袈裟だと思う方もいるかもしれませんが、それは決して大袈裟ではありません。

私本人としても、何が正解なのかは未だに分かっていません。しかし本人が守られ、愛され、家族円満で生活が送れること。これが理想であると考えています。

成年後見人をつけない相続
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行政書士花村秋洋事務所が目指す支援とは

行政書士花村秋洋事務所では、本人の保護が図られ、本人を含めた家族みんなが円満だと思える生活が送れるような支援を理想としています。

それには、相続時点での対応が一つの鍵となると考えております。

障害者に関する相続手続きについては、知的障害者本人やその家族への理解のある行政書士が全国対応をさせていただきますので、お気軽にご相談いただければと思います。

成年後見制度を利用する前にぜひ一度ご相談を!新たな方法をご提案できるかもしれません!
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