※この記事は「知的障害者や精神障害者の方」に対する成年後見人を立てない相続を主な対象としています。
成年後見人を立てない相続をする場合のメリットとデメリット
知的障害や精神障害をお持ちの方が相続人に含まれている場合、成年後見人を立てることを考えることがあると思います。
成年後見人を立てて遺産分割協議を行えば、意思能力や判断能力が無い方でも有効な遺産分割協議ができるからです。
しかし、相続のためだけに成年後見人を立てることが必ずしも良いことではありません。たくさんのデメリットも潜んでいるからです。
成年後見人を立てずに相続を行うことは可能ですし、実際に成年後見人を立てずに相続手続きを行ったご家庭は数多く存在します。大事なことは、そのデメリットをしっかりと理解し、十分に対策をとっておくことです。
今回は、知的障害や精神障害をお持ちの方が相続人に含まれる場合に、成年後見人を立てずに相続手続きを進めた場合のメリットとデメリットをお伝えしたいと思います。
成年後見人を立てない相続を行った場合のメリット
成年後見制度利用にかかる多額の費用が節約できる
成年後見制度を利用するためには、多額の費用がかかることは知られていることだと思います。
しかし、認知症の高齢者が成年後見制度を利用するのと、障害者のある方が成年後見制度を利用するのではランニングコストが大きく違います。
成年後見制度の利用開始には10万〜20万円程度の費用がかかる点は同じですが、成年後見制度を開始してからその方が亡くなるまでの年月に大きな差があるため、障害者の方に成年後見人等を立てる場合は費用面についてよく考えなければならないのです。
相続時に成年後見人をつけた場合と、本人が高齢になった時に成年後見人をつけた場合では、1000万円以上の差が出ることもあるので注意が必要です。
逆に言えば、成年後見人を立てないで相続手続きを行えればその差額を節約できたと言いかえることができるでしょう。
家庭に第三者が介入するのを防ぐことができる
成年後見人を立てるということは、本人に対して「財産管理」と「身上監護」を行う第三者が現れたということです。
成年後見人がついた途端、今まで行っていた「家族のご本人に対する財産管理と身上監護」は行えなくなる、または制限されることとなります。
ご本人の預金通帳は成年後見人のもとへ渡ることになりますので、いくらご本人のためと言えども障害年金を使うことができなくなります。成年後見人が障害年金から必要だと思われる分のお金を引き出して工面していくことになります。
それを防止するためにご家族が成年後見人になった場合でも、第三者による後見監督がつく場合が多いですので、ご家族が今まで通りの財産管理をすることはできなくなってしまいます。
しかし成年後見人を立てないで相続手続きを行えば、今まで通りご家族がご本人の財産管理と身上監護(福祉サービスの利用等)を行えます。そして、誰もご本人のサポートができなくなった時に、はじめて成年後見制度の利用を申し立てることになるでしょう。
財産が国に行くことを防ぐことができる
成年後見人を立てて遺産分割協議を行った場合、ご本人に不動産の所有権が渡ることがあります。
意思能力や判断能力が無い場合、簡単に不動産の所有権を誰かに渡すことは難しくなります。成年後見人及び家庭裁判所の許可が必要となるからです。
一度不動産の所有権がご本人に渡ってしまえば、ご本人が亡くなるまで処分できずに凍結される可能性もあります。そしてご本人が亡くなった際に相続人にがいなければ、最終的に国庫に帰属することになります。ご家族や本人の希望があったとしてもどこかに寄付することも叶いません。
成年後見人を立てずに遺産分割協議を行った場合、遺産分割協議の内容は相続人の任意でいかようにもできますので、ご本人には不動産の所有権を渡さずに現金を渡すなどの臨機応変な対応が可能となります。
成年後見人を立てない相続を行った場合のデメリット
遺産分割協議の無効を主張されることがある
意思能力や判断能力の無い者が参加した遺産分割協議は法律上「無効」です。誰かから遺産分割協議の無効が主張された場合、行われた遺産分割協議は無かったものとなり、再度遺産分割協議をやり直さなければならなくなります。
しかし、遺産分割協議の無効は裁判を起こして主張しなければなりません。となると、遺産分割協議の無効を主張してくる可能性があるのは、「遺産分割協議に参加した相続人」と「ご本人についた成年後見人等」ということになります。
遺産分割協議の無効の訴えは何年後だろうと行えますので、ご本人に後々成年後見人が立てられた場合、ご本人に分けられた財産が少ないといった理由で遺産分割協議のやり直しを求めてくる可能性は捨てきれません。
その可能性が継続していくという部分があるので、成年後見人を立てずに遺産分割協議を行うことにはリスクがあると言えるでしょう。
遺産分割協議無効の訴えを回避するための準備はできる?
では、成年後見人が遺産分割協議の無効を主張するメリットが無かった場合はどうでしょう?
ケース①「財産が概ね法定相続分で分けられており、不動産か現金かだけの違いであった場合」
例えば、財産が概ね法定相続分で分けられており、不動産か現金かだけの違いであった場合。
成年後見人の業務としては、ご本人の生活の資金が不足した場合、家庭裁判所の許可を得て本人所有の不動産を売却しなければなりませんから、不動産があらかじめ現金に換価されているのは好都合と捉える方もいるでしょう。
ケース②「他の相続人が多く取得しておいた現金を本人のために使用しており、余りはいつでも本人に返却すると言っている場合」
また、遺産分割協議で他の相続人が法定相続分より多く現金を取得していたが、他の相続人がその現金を本人の生活ために支出し、余りはいつでも本人の口座に入金すると言っている場合。
この場合も成年後見人としては、裁判を起こしてまで遺産分割協議のやり直しを求めるメリットは無いのではないかと考えられます。
もちろん額によっては相続税や贈与税に影響してくる可能性はありますが、ご家族としては成年後見人を立てずに相続ができ、その後のトラブルも解消できるのであれば、準備をしておくメリットは十分にあるでしょう。
銀行等に知られている場合に成年後見制度の利用を求められることがある
ご自分達で銀行の名義変更を行おうとしている場合、ここでつまずいてしまうことも多くあります。
日頃からお世話になっている銀行であるため、ご本人に知的障害や精神障害があることを知っている場合があるのです。
銀行としては後々のトラブルを避けたいですから、家族にどんなに負担がかかろうと、名義変更にどれだけ時間がかかろうと成年後見人を立てることを要求してきます。ここで仕方なく成年後見人を立てるしかなくなってしまうのです。
成年後見人を立てない相続に慣れている専門家を探さなければならなくなる場合がある
相続手続きを行政書士や司法書士、税理士等へ任せたいと考えている方も多くいらっしゃると思います。
その際、それらの専門家が依頼を受任しないという場合があります。
成年後見人を立てずに遺産分割協議を行うと後々無効を主張される可能性があるわけですから、トラブルに巻き込まれるのは避けたいと考える一心でしょう。こうなると新たな専門家を探してたらい回しに合うリスクがあります。
遺産の種類や額によっては、一人の専門家だけで手続きを行うことができない場合もありますので、なおさら大変なことになってしまいます。
成年後見人を立てない相続を行う場合のメリットとデメリットのまとめ
メリット
- 成年後見制度利用にかかる多額の費用が節約できる
- 家庭に第三者が介入するのを防ぐことができる
- 財産が国に行くことを防ぐことができる
デメリット
- 遺産分割協議の無効を主張されることがある
- 銀行等に知られている場合に成年後見制度の利用を求められることがある
- 成年後見人を立てない相続に慣れている専門家を探さなければならなくなる場合がある
成年後見人を立てても立てなくても様々なリスクがあるのが障害者の相続
以上、知的障害者や精神障害者が相続人に含まれる場合に、成年後見人を立てないで遺産分割協議や名義変更などの相続手続きを行うことのメリットとデメリットをお話しました。
障害を持たれている方とそのご家族は、相続手続きの時まで一般的な家庭よりも大変な思いをすることになります。
行政書士花村秋洋事務所では、障害者の方とそのご家族が苦労せずに相続手続きが行えるようサポートいたします。相続が発生し、成年後見人を立てるかどうかお悩みの場合は、ご相談だけでも結構ですので、ぜひ一度ご連絡ください。
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