障害者や認知症の方を取り巻く環境は厳しい
今の日本では障害福祉サービスや高齢福祉サービスに予算を多くかけており、その質も年々高くなっていると感じます。
福祉サービスや医療サービスの質や量については完璧だとは思わずとも、不満を抱いている人はそこまでいないはずです。
しかし、別の視点で見てみるとどうでしょうか。「障害者や認知症に対しての法律サービス」には完全な欠陥がある状態が続いています。
なぜなら障害者や認知症をフォローする制度がほぼ「成年後見制度」しか無いからです。
この成年後見制度(任意後見制度含む)で全ての障害者や認知症の方の法律的フォローをするのは限界があります。それが今の図式です。
今回は、知的障害者や精神障害者、認知症の方とそのご家族の周囲の環境についての注意点をお伝えしたいと思います。
障害者と認知症を取り巻く環境には敵ばかりなワケ
障害者や認知症を取り巻く法律的環境には、本当の味方はほぼいません。
なぜ味方がいないのかという大きな理由の一つは、「知識や経験のある機関が無いから」です。
障害者や認知症の方の生活に関わるものとして、福祉サービスや医療サービスを除くと「銀行」、「行政」、「行政書士や司法書士、税理士などの士業」などがあります。
福祉や医療は、障害・認知症という症状に関してはプロ中のプロです。しかし障害者や認知症の方の生活上の手続きに関してはほとんど知識はありません。
また、そこを補う存在であるお金のプロ「銀行」、手続きのプロ「行政」、「士業(福祉関係の士業を除く)」は障害・認知症という症状に関しては全くの素人です。
これらのズレが時として障害者や認知症の方やそのご家族から「敵」として見られてしまうことが多々あります。
当事務所でも「嘘を言われた」、「騙された」、「儲けのタネにされた」など、不満を仰る方が多くご相談をしてきます。
ではなぜそのような状況に陥ってしまうのか、一つ一つ事例とその理由を挙げていきたいと思います。
銀行が敵となる時
ではまずお金のプロ「銀行」が敵になってしまう時について解説します。
銀行が敵となってしまう時は「信託」、「貯蓄(定期預金)」などが挙げられます。
信託での事例
信託についてですが、信託銀行では「本人の障害の程度や生活の状況」について良く理解できていないという問題があります。
もちろん障害者に関しての現場経験のある者が担当していることなどほぼありえないでしょうから「信託って便利なんです」という点を第一に推してくるでしょう。
例えば重度知的障害者の親なきあと対策として信託を勧めてくる場合、銀行を受託者、障害者を受益者とする信託を組むと「支払われた信託財産を受益者である本人が下ろすことができない・下ろしたお金を管理できない」という問題が生じることがあります。
しかし銀行としては「成年後見人をつければそれで全て問題ありませんよ」という話を結論として持ってきがちです。そして成年後見人をつけるとどのようなデメリットがあるのか、回避する方法はあるのかなどは具体的には説明してもらえないでしょう。
貯蓄(定期預金)での事例
また、定期預金を持っている高齢者について、銀行は「定期預金を解約して普通預金にしておいたほうが良いですよ」なんてことは絶対に言いません。当然銀行としては不利になってしまうことですから、勧める方がおかしいとも言えます。
しかし、高齢者の定期預金は時に大きな悲劇を生むことになります。その高齢者が認知症になってしまった時に事実上口座が凍結してしまうからです。
定期預金入っているお金を現金化するには成年後見人をつけるしかありません。そのため、急な出費(本人所有の不動産の修繕等)に対応することが不可能となります。
そして家族が立て替えはするものの、それは高齢者本人が亡くなるまで返してもらうことができないのです。
例えば80代の高齢者の場合、額にもよるでしょうが、死ぬまでに定期預金で得られる利子など微々たるものです。その微々たる利益のために大きなリスクを背負っていることになります。
しかし銀行としては、そのリスクを知っていたとしても定期預金を解約したほうが良いということは言えないのです。
専門家が敵となる時
ここで言う専門家とは、弁護士や司法書士、税理士や行政書士などの「手続きに関する専門家」のことを指します。また社会福祉士や介護福祉士、ケアマネジャーなどの福祉の専門家も含まれます。
これらの業種は国家資格であったり国家が認定している資格であるため、その道の知識は相当なものです。
しかし、その他の分野にも精通しているという者は案外少ないものです。
そのため、相続手続きに関しての専門家は、障害者や認知症の方が相続人にいた場合には、それぞれ「障害者」、「認知症」という障害や疾病に関して目が行きがちです。その結果それらの者に対して一律での対応を考えがちになります。
ひどいケースだと、しっかりと話を理解できてコミュニケーション能力も高い障害者に対して「障害があるから成年後見人をつけないと手続きできませんよ」と言われてしまったケースもあります。
これも仕方の無いことで、福祉の現場経験があったり、多くの障害者・認知症の方と接してきたりした経験のある専門家はほぼいませんし、逆に現場経験の豊富な福祉の専門家が法務や税務に詳しいということもほぼありえないでしょう。
行政が敵となる時
行政は福祉サービスの提供や、年金の支給、その他便利な制度を教えてくれたりもする重要な機関です。
しかし、その頼りになる行政でさえ時として敵に見えてしまうこともあります。
行政の立ち位置も銀行や専門家と同様、「意思能力を問題としてサービスがストップしてしまう」ということになりがちです。
行政としても確実な本人確認と正確な手続きを行わなければならないため、障害者や認知症の方に対しては意思能力の有無を厳しく判断してくるでしょう。
例えば印鑑登録申請などで困らされている家族が実際にいます。障害があるから印鑑登録はできないという不当な理由で断られてしまうのです。
そうなると成年後見人をつけなければ実印が必要な手続きはできません。家族や本人にとっては大きな負担となります。
また最近多いのが「市町村申し立てによって勝手に成年後見人をつけられた」というものです。これは本人や家族と行政や福祉機関の調整がうまくいっていないことによって起きてしまうものもあります。
細かな福祉サービス等を提供してくれている行政が時に家族を不幸に陥れることもあるのです。
障害者・認知症のいるご家族は常に良質な情報を手に入れておくこと!
以上、障害者や認知症の方をご家族に持つ方達への注意を促す内容でしたが、まずは味方となってくれる相談機関や専門家を探すことです。自分達の将来までをよく考えてくれている相談機関や専門家を見つけましょう。
当事務所では、メールやお電話での初期相談は無料で対応しております。「こんなこと言われたけどホント?」という疑問があればまずは当事務所にお聞きください。