遺言を作れない状況から成年後見人をつけざるを得なくなってしまうことも!
最近では、重度の障害者や認知症の方が推定相続人にいる場合、遺言を作らないと大変なことになるという理解は進んできたと思います。
「遺言が必要なのは分かっている、じゃあ自分が不安になってきたら遺言を作ろう!」と決心している親御さんも多くいらっしゃるのですが、「遺言が作りたくても作れない」といった状況に陥ることもあります。
今回は「遺言が作りたくても作れなくなってしまった」ことから「成年後見人をつけざるを得なくなってしまった」というケースをご紹介しながら注意点を説明していきます。
予期せぬことにより遺言が作れなくなってしまったケース
父、母、長男、次男の四人家族。長男に重度の知的障害があるため、親の財産はほとんど次男に相続させようと考えていた。
そのため父と母は遺言を作らなくてはならないと思っていたが、いざという決心がつかず、十数年が経っていた。
ある日、父が脳梗塞で倒れてしまい入院状態となったが、長期の入院期間を経て退院することができた。
母は長年引き伸ばしてきた遺言の作成に迫られ、父名義および母名義の公正証書遺言の作成に踏み切った。
いざ当日、母は公証人の面前で遺言の作成手続きを終了した。次に父が遺言の作成手続きに入ったが、思わぬことが起きてしまった。
父が遺言の原案と全く違うことを話していたため、公証人から「遺言は作成できない」と言われてしまったのだ。
母は、父には脳梗塞により多少の見当識障害はあったが、母の言葉は理解しており、遺言の作成には影響がないと思っていた。
しかし公正証書遺言の作成時には母は同席することができないため、他人に囲まれた父は普段思っていたことと違うことを話してしまった。
遺言案は、長男には重度の知的障害があり、成年後見人をつけたくないといった理由から「財産は次男に渡す」旨の内容にしていた。
また相続税対策として長男にもいくらかの現金を渡すという条項もつけていた。
しかし公証人が父に意向を聞くと、
「財産は全て妻に渡したい。妻が死んだら子ども達に平等に分けたい。子ども達には仲良く過ごして欲しいから。」
という一点張りであった。
結局遺言は作成できないまま、さらに数年が経ち、父は他界した。
父の財産については、遺言が無かったため成年後見人をつけて手続きをするほかなく、不動産は共有名義となり、長男は多額の財産を相続することとなった。
遺言作成には明確な意思表示が必要
多少の修正は加えましたが、これは実際にあった話です。
注意しなければならない点は、まず「本人の意思能力について家族と社会で取り方が違う」ということです。
家族は「多少の認知症はあるけど話は理解できている」と思っていたとしても、他人からは「認知症が進んでいるので話を理解できていない」と判断されてしまうことが多くあります。
ましてや公正証書遺言は家族の同席が認められない中、全くの他人に囲まれて手続きが進められます。
高齢者であれば、認知症を患っていなくても緊張により普段言えていることが言えなくなることもあるでしょう。
その中で「財産はどのようなものがあるのか」、「何を誰に渡したいのか」ということを明確に公証人に伝えなければなりません。
もちろん認知症があっても遺言を作ることはできます。しかし認知症の程度により、どこまで詳細な内容にできるかはよく検討しなければなりません。
遺言作成の可能性を上げるには
なお、遺言作成の可能性を上げる方法はいくつかあります。
- 遺言の内容(どこまで簡素化できるか)
- 遺言作成時の環境(どこで行うのが本人が一番リラックスできるか)
- その他の対策(持参物等)
などにより、一般的な方法では作成が難しかった場合でも、何とか遺言作成手続きを終えられる可能性もあるので、認知症があるからといって遺言作成を諦める必要は無いと思います。
遺言は何度でも作り直せる
例に挙げたケースにならないよう、遺言は作れる時に作っておくことが重要だと思いますが、若いうちに作っておくことには消極的な方も多いでしょう。
「今の財産と将来の財産は違うはず」
「将来不動産を売るかもしれない」
「子どもが将来どこで生活することになるのか分からない」
などの理由で「後で作ればいいや」となっている方が多いのです。
しかし、遺言は何度でも作り直すことができます。遺言を作り直した場合には、過去の遺言を更新できるという決まりになっているからです。
そのため「40代の遺言」、「60代の遺言」、「80代の遺言」という風に適宜内容を変えて作り直しておけば万全だと思います。
遺言内容についても、将来に財産に変動があっても対応できる内容に調整することは可能です。できる限り現行の遺言を使えるようにし、どうしても書き直さざるを得ない状況になってから更新するというのが費用の面でもベターと言えるでしょう。
遺言がどうしても作れなくなった状況を覆すことは難しい
例に挙げたケースから、遺言が作れなくなった状況を覆すことは大変難しいと言えます。
そのため、遺言を作れる意思能力が無いと判断されてしまった場合には、取りうる手段がほぼ無くなってしまいます。
「遺言が無いため不動産が共有となってしまった」、「遺言が無いため成年後見人をつけることになってしまった」という最悪のケースに陥ることは避けなければならないため、まずは現状を把握し、どのような遺言を残しておくべきなのかを家族で話し合っておくことが必要です。
当事務所では「相続人が認知症・障害者の場合にどのような遺言をつくるべきか」についてのサポートを専門的に行っております。また「認知症の方の遺言作成」についても積極的にサポートを行っておりますので、ぜひご利用ください。