親や子の銀行口座から家族が預金を引き出すことは違法なのか?
親や子どもの銀行口座から預金を引き出すことが必要な方は多くいらっしゃると思います。
例えば、認知症の親の銀行口座から預金を引き出す必要がある方や障害を持つ子の銀行口座から預金を引き出す必要がある方などです。
しかし、銀行では一定の場合(代理人カードなどを持っているなど)を除いて本人以外からの預金の引き出しを禁止しています。
今回は、家族が本人の口座から預金を引き出すことの是非についてお話していきたいと思います。
現在ではそもそも窓口から他人が預金を引き出すことはできない
そもそも銀行では、家族と言えども代理人として指定されていない者からの預金の引き出しを認めていません。
しかし本人の預金を引き出すことは可能です。キャッシュカードと暗証番号さえあれば(指紋認証などを除く)誰でも銀行のATMから預金を引き出せるからです。
そのため、今回は「キャッシュカードを用いて預金を引き出す場合」に限定して考えていきたいと思います。
考えられる3つのケースからの問題点を挙げてみる
それでは、よくありがちな3つのケースについて考えていきたいと思います。
本人から依頼を受けて預金を引き出す場合
認知症や障害のある者でも意思能力がある場合、自分の口座から預金を引き出してきて欲しいと家族に依頼した場合であれば、法律的には問題ありません。
しかし先程も触れたとおり、銀行では代理人の申込みをしていない限り、家族からの引き出しを認めていません。
そのため、窓口で引き出す手続きを行うことは出来ませんし、ATMから引き出しているということを堂々と銀行員に話してしまうと、その口座を凍結されてしまう可能性があります。
また、本人と依頼された家族の間では問題とならなくても、それを知った他の家族(特に法定相続人)が疑いをもち、トラブルとなる可能性もあるでしょう。
本人の依頼がなく本人の生活費のために預金を引き出す場合
次は、本人に意思能力が無く、依頼されたわけではないのに預金を引き出す場合です。
親が認知症であったり、子に障害がある家庭ではこのケースにあたることが多いと言えるでしょう。
親や子自身の生活のために、親や子に支給されている年金を引き出すわけですから何の問題も無いように思えますが、法律的には違法となります。
ただし、これが世の中で当然に行われているのには主に2つの理由があると考えています。
本人の利益になるため
親や子の介護など、生活に必要なお金は原則本人が支出することになります。
しかし本人は支払うという行為が行えません。
支払うという行為ができなければサービスを受けたり必要な物を受け取ることができませんから、本人の口座からお金を引き出して必要費を支払うという行為は本人の利益になると考えられます。
本人にとって必要不可欠で利益となる行為を行っているのに逮捕されてしまうのであれば、社会問題となることは必至でしょう。
福祉という観点からも、違法ではあるがこのような行為で逮捕されることがあってはならない。いわゆる「寝た子を起こすな」という状態であると言えるでしょう。
親族相盗の適用
親族相盗とは「家族からお金を盗んだり、その他一定のことをしてもその罪を免除する」というルールのことです。
(親族間の犯罪に関する特例)
第244条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪(窃盗)、第235条の2の罪(不動産侵奪)又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。前2項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
この条文は他のいくつかの犯罪にも準用されています。
そのため、万が一家族が本人の口座から預金を引き出す行為の正当性が疑われたとしても警察は動きません。
警察としては、逮捕しても不起訴となることが決まっているわけですから、全くの無駄になってしまうからです。
この親族相盗には例外がありますが、基本的には罪とはなるが逮捕されるわけではないということになります。
本人の依頼がなく家族の生活費のために預金を引き出す場合
話だけ聞くとこれは明らかに違法だということが分かりますね。しかしこれを行っている家族の方も多いと思います。
例えば障害年金から一万円を下ろしてで本人のために服を買う。ただその服と一緒に家族の服も含まれていた場合、それをわざわざ別会計で行えというのは酷すぎます。
多くの家族はその点で詳細に帳簿をつけているわけでもないため、誰も困らないなら問題は無いわけです。
しかもこの行為も親族相盗が適用されますので、特に警察が動くというわけではありませんが、銀行に対する下記の問題が生じます。
銀行に対する詐欺罪の問題は?
上記③のケースでは、「銀行が認めていないのに他人のキャッシュカードを使って預金を引き出し自分のために使う」いうことに対して「詐欺罪」の問題が発生します。
銀行は第三者であるため、親族相盗は適用されません。
しかしそもそも銀行自体には実損害が発生していないこと(本人の口座から残高が減り、本人に意思能力が無いため返還請求される可能性がないこと)から、告訴される可能性が高いとは言えないでしょう。
無理に親や子の預金を引き出すことが無いよう生前や相続時の対応方法を考えよう
とは言え、本人の口座から預金を引き出すことはできるだけ目立たずに行うべきだとも言えます。
堂々と行うには、親や子のために家族が成年後見人の候補者として家庭裁判所に申立を行い、第三者の監督をつけて本人の財産を管理するといった方法がありますが、なかなか踏み込めないご家庭が多いのが事実です。
これを強固に実践しようとすると、子に重い障害がある家庭は、子が18才になったと同時に成年後見人の申立を行い、本人は毎月の報酬額を生活費に使うベき障害年金から一生支払い続けなくてはならなくなるという、どう考えても不平等な状況に陥ってしまいます。
成年後見人をつけずに、家族が本人の日々の生活費を本人の年金から捻出することは仕方ないでしょうが、施設サービスや継続費用はできるだけ銀行引き落としとし、あまり大きな額を一気に引き出さないほうが賢明です(キャッシュカードでは一日の限度額が定められています)。
特に、「子の障害年金に一切手を付けずに親が子の生活費を負担していた」、「相続で子に多額の財産が渡った」、「子の名義預金を作っている」などにより、事実上手の付けられない財産が大きくなってしまったということはよくある話です。
当事務所では認知症や障害のある子を持つご家族の方たちの手続きサポートを行っておりますので、将来のための対策についてお困りの方はぜひご相談ください。
親なき後の資産計画カウンセリング
当事務所では「親なき後の資産計画カウンセリング」も行っております(有料)。
障害のある子の年齢、将来の予定、家族構成、家族の希望、財産の種類等を元に、資産形成が無駄になることのないようアドバイスを行います。
身近にいるファイナンシャルプランナーや銀行などは「障害者のいる家族」の正しい資産運用にはあまり詳しくないため、教えてもらえる機関を探すのはなかなか大変です。
子が若いうちから間違った資産形成をしてしまうと致命的になります。できるだけ早めに正しい財産の確保を計画しましょう。
※親なき後の資産計画カウンセリングは面談、リモート、メール、お電話にて承りますが、どの方法でも有料とさせていただいております。ご希望の方は、まずはお問い合わせください。
【動画での解説】