軽度〜中程度知的障害者の親なき後対策
親なき後対策とは、一般的には「親が亡くなった後に残された子の生活を確保するため」の対策を言います。
しかし、その対策は家族により十人十色、それぞれで全く違うものになるため一概にこれが良いとは言えません。
また、残された子の障害の種類、障害の程度によっても対策は違います。
今回は「軽度から中程度の知的障害や発達障害」を持つ子のための親なき後対策についてお話しします。
高等特別支援学校卒業後の対策
軽度や中程度の知的障害や発達障害がある人は、高等特別支援学校を卒業すると、就職や就労訓練への道へ進む人が多いと思います。
民間企業へ一般就職する、民間企業へ障害者雇用枠で就職する、就労移行施設へ通所するなどです。
親としてはもちろん民間企業へ就職してお給料を貰えるようになることが一番望ましいと思います。しかし、民間企業へ就職するのは狭き門ですので、希望通りにいくとは限りません。
就労移行施設へ通所する場合は、訓練や支援を受けながら希望の就職先につけるまで通い続けます。自分の子の能力や特性を活かしつつも継続して働き続けられる職場を職員とともに見つけていきましょう。
親なき後は「成年後見制度を前提に考えない」ことが重要
親が高齢になることを考えると、まず「成年後見制度」が頭に浮かぶと思います。
しかし、軽度から中程度の知的障害や発達障害の場合、必ずしも成年後見人は必要ではありません。
親が亡くなった後も成年後見人無しで生活すること、または成年後見人をつけることを遅めることができます。
そのため、親なき後対策としては「成年後見人を前提に考える」のではなく、「成年後見人をつけないことを前提に考える」ことが必要でしょう。
相続では成年後見人が必要とならないことが多い
子に知的障害がある場合、どちらかの親が亡くなって相続が発生した場合に成年後見人が必要となってしまうことが多いです。
しかし、軽度〜中程度の知的障害であった場合、相続手続きには成年後見人をつけずに行うことも十分可能です。
一律に成年後見人が必要だと言ってしまう銀行や専門家には十分注意しましょう。
対策としては、「銀行に子に知的障害があることを伝えない」、「障害者について理解のある相続の専門家に依頼する」ことなどが必要です。詳しくは当ホームページの他記事をご覧ください。
成年後見人をつけないためのケース別対策
では、成年後見人をつけないための対策を家族構成ケース別に考えてみましょう。大きく対策が分かれるのは「兄弟がいるかいないか(一人っ子)」です。
親が亡くなっても兄弟(複数の子)がいる場合
父、母、兄、弟の四人家族で父と母が亡くなった場合です。兄に軽度〜中程度の知的障害があったとします。
この場合は両親がなくなっても弟が兄をみることができる可能性があります。
弟が同居することや近くに住んでいることによって兄に成年後見人をつけなくても生活を送っていくことは十分可能といえるでしょう。
この場合の対策としては、「福祉施設」についてです。
兄が利用している福祉施設が、両親が亡くなった後にも継続して契約を続けられるか否かが大きなポイントとなります。
兄弟がいるのみでは契約を継続できないと言われてしまった場合は、成年後見人をつけて施設と契約するか兄弟でも契約を行うことができる施設に移行するかを選択しなければならなくなってしまいます。
一人っ子であり両親が亡くなると誰も家族がいなくなってしまう場合
父、母、子のみの三人家族のケースでは、両親が亡くなると子が一人残されてしまいます。
そうなると子がいくら判断能力がしっかりしていても、生活上の契約を行うためだけに成年後見人をつけなくてはならなくなってしまうことがあります。
それを避けるためには親が元気なうちに親戚と子の間に家族関係を構築する「養子縁組」などの対策が行なえます。
甥や姪にあたる親戚などに自分の養子になってもらうのです。
なぜこの養子縁組が有効なのかと言うと、養子をとることにより、一人っ子だった子に正式な兄弟ができることになるからです。
甥や姪も養子になることによって実親との家族関係が無くなることはありませんので、相続などでのデメリットはありません。
唯一デメリットと考えられてしまうのは、養子となった甥や姪は子と兄弟関係となるため、「扶養義務」が発生してしまうことです。
また、親が亡くなった後には子の生活をサポートすることになるため、心理的負担もあることでしょう。
それを担保するために「子への相続分を渡しておく」という手法もあります。子をサポートするための対価として親の遺産を多めに相続させておくことで成年後見人無しで子に生活を送らせることができるようになります。
甥や姪には「遺言」などにより法的に確実に資産を渡すことができるように対策しておくことによって安心感も生まれます(遺言が無いと約束した金額が甥や姪に渡らないことがあります)。
ただし、先程の問題点「福祉施設との契約」があるため、それについても対策を取っておくことが必要です。
生活を送る基盤を作っておく
親が元気なうちに子の生活の基盤を作っておくことが重要となるのはどんな場合でも言えると思います。
「子が一人で生活を送る」ということを事前に想定して基盤を整えていきましょう。
子の住居についての対策
まずは「住まい」です。賃貸契約の物件ですと、契約者が子に映るため、再審査が行われることがほとんどでしょう。
管理会社の審査は厳しいですから、いくら子が一人で暮らしていける能力があっても、契約変更の際に障害を理由に成年後見人を求められるということは十分考えられます。
一方マンションであっても自己所有でローンも無くなっている場合、そのまま名義変更をして住み続けられる可能性は高くなります。管理費の支払いや光熱費の支払いについては兄弟等にしっかりフォローしてもらいましょう。
子の生活資金についての対策
例えば親が2000万円の相続財産(住居用不動産を除く)を残していた場合、成年後見人をつけると30年でその半分(750万円〜1000万円程度)くらいは成年後見人への報酬として支払うことになります。
成年後見人をつけないで生活できれば2000万円は丸ごと子の生活資金に充てることができます。
子が障害年金を受給できていた場合なら、2000万円で一生暮らすことも可能かもしれません。
もちろん子の生活資金が無くなっても生活保護を受給することはできますので、生活が送れなくなってしまうということはありません。
もし2000万円程度の資金を残せない場合は「生命保険や生命保険信託」を活用して親が無くなったら自動的に子に現金が受け取れる仕組みを作っておくことも重要です。
親なき後の対策は「まず自分達の環境を知ること」!
以上、軽度〜中程度の知的障害の子に対しての親なき後対策についてお話ししましたが、子が一人でどのくらいのことができるのか、家族や親族でサポートできる者はいるのか、居住用不動産や資金はどの程度用意できるのかなどによって取れる対策は変わってきます。
まずは自分達の家族を取り巻く環境を把握することで、取れる対策が分かってくるということもあります。
「親なき後対策は死後にはできない」ため、自分達が元気なうちに考えなければならない事柄ですので、できる限り早めからの対策が必要となります。
当事務所では、親なき後対策としての遺言や財産分与の方法についてもサポートしておりますので、お気軽にご相談ください。