遺言を作っておくとその者が亡くなった後の相続手続きを簡単にしたり、トラブルの発生を予防したりすることができるというのは既知の通りでしょう。
しかし、はっきり言って遺言を作らなくても大して困らない家庭も多いことは事実です。
財産の総額も少なく、また家族でトラブルが起きなかったりすれば、結果的に遺言が無くても相続手続きを無事に終えられるということが多いのです。

その反面、遺言が無いことによって相続人間でトラブルになってしまったり、手続き自体が頓挫し、どうにもならなくなってしまったりする家族も多くいらっしゃいます。
今回は「うちの家庭に遺言は必要なのか?」、「うちの家庭ならどのような内容の遺言を作れば良いのか?」という点を遺言診断という形で解説していければと思います。
遺言を絶対に作らなければならない家庭
それではまず、両親が絶対に遺言を作らなければならない家庭について説明します。下記の両項目にあてはまる場合は絶対に遺言をつくっておかなければなりません。
- 知的障害・精神障害・認知症を持った配偶者または子がおり、その他にも健常の家族がいる
- 両親のどちらかが亡くなったタイミングで成年後見人をつけたくない
各項目について下記に解説します。
知的障害・精神障害・認知症を持った配偶者または子がおり、その他にも健常の家族がいる
例としては、
- 父、母、長男が健常者で、次男が知的障害者である
- 父、長女、次女が健常者で、母に認知症がある
などの家族構成です。

ただし、
- 父、母が健常者で、長男が知的障害者である(一人っ子)
という家族の場合は絶対に遺言が必要であるとまでは言えません。
両親のどちらかが亡くなったタイミングで成年後見人をつけたくない
これは、例えば父、母、長男(精神障害)、次男の4人家族で父が亡くなったタイミングで長男に成年後見人をつけたくないといった場合です。母が亡くなったタイミングでも同様です。
絶対に遺言が必要な理由とは
上記の2項目にあてはまる場合に両親が遺言を残しておかなければならない理由について解説します。
逆に遺言が無い場合で解説すると理解しやすいと思うのですが、まず家族が亡くなると相続が発生します。亡くなった家族の財産を他の家族に移転させる手続きです。
この手続きの際に、意思能力の無い者が家族にいた場合、成年後見人をつけることを各機関(銀行・証券会社・法務局等)から求められます。成年後見人をつけないと手続きが進められないと言われてしまうということです。

「うちの子は障害があるけど意思能力はあるから遺言なんて作らなくても大丈夫」と考えているご家族は大変多いです。しかし今の社会ではその考えが通らない場合が多いのです。
なぜなら、「人の意思能力の有無など素人には判断できない」からです。福祉の専門家であるならまだしも、銀行員や事務職の人間であれば全く関与したことの無い世界の話でしょうから、軽はずみに意思能力の有無など判断することはできないのです。
となると、相続人に障害または認知症があることを知られた時点で「じゃあ成年後見人をつけてくださいね」と言われてしまうわけです。

「親が亡くなったら成年後見人を考えよう」と思っていたとしても、両親のどちらかが亡くなった時点で子に成年後見人をつけなければならなくなってしまう家庭が非常に多いというのはこういった事情があるからなのです。
- 父、母が健常者で、長男が知的障害者である(一人っ子)
といった場合は絶対に遺言が必要であるというわけではないと述べましたが、この理由については、「遺言があっても成年後見人をつけることになる可能性が高い」からです。
成年後見人をつけなければならない理由は相続だけではありません。福祉サービスを利用する場合も同様です。
両親が亡くなった時点で子に福祉サービスの利用が必須(通所・入所)である場合であれば、成年後見人をつけざるを得ないということになります。

そのような場合は遺言があってもなくても財産を子に移転させることしかできませんから、絶対に遺言が必要であるとは言えないわけです。
遺言の内容はどのようにすれば良い?
では家族が上記のパターンであり、遺言を作成しようとした場合に、どのような内容にすれば良いのでしょうか?
最低限必要なことが抜けていると遺言を作っても意味のないことになってしまいます。
必要な項目は多岐に渡りますが、絶対に含んでおかなければならないただ一つの項目について説明します。
遺言執行者を健常者に設定すること
このことは絶対に必要であり、ここが抜けていると遺言を作る意味が全くありません。遺言執行者とは遺言の内容を実現する人であり、具体的には「銀行預金の解約手続き」や「不動産移転登記」などの「手続き」を行う役割です。

「遺言を作ったからあとは安心だ」と考えているご両親の遺言に、遺言執行者が設定されていないという例もよくあります。認知症や障害のある子のいる家庭で必要な遺言は少々特殊であり、最も重要なのが遺言執行者になるのです。
遺言執行者が設定されていない場合、相続人全員で手続きをすることが必要になります。相続人に意思能力に支障がある者が含まれている場合ですと、結局は成年後見人をつけなければ手続きを進めることができなくなってしまうのです。
「遺言を絶対に作らなければならない」ケースのまとめ
以上をまとめると、「家族の中に認知症や障害のある者がいて、その他に健常の家族がいる場合、家族の誰かが亡くなった際に成年後見人をつけたくないのであれば、遺言執行者を指定した遺言を作らなければならない」ということになります。
これは最低条件であるため、「障害のある子に使えない財産を持たせたくない」という理由がある家庭でも遺言は作っておく必要があります。障害のある子に不動産や証券、多額の預金を持たせても使うことなく事実上の凍結状態に陥ってしまうからです。
しかしこれらの条件に当てはまらなければ一般家庭と同じく、遺言を作らなくても構いません。
「家族が揉めないように」とか「自分が思い描いている財産移転をしたい」などの希望があれば、それも実現できるのが遺言ですので、とにかく遺言があるに越したことはありません。
しかし最低限家族が困らないようにしたいのが、「予期無き成年後見制度の利用開始」を回避する対策です。
上記の条件があてはまるご家庭においては、家族が遺言を作ることは「必須」と言えます。
また単に遺言を作成しただけでは足らず、適正な内容であることも必須となりますので、お困りの方はぜひ「障害者や認知症の相続専門」の当事務所にご相談ください。



