「この子の将来が心配だから、障害年金には一切手をつけずに貯金してあげよう」 「日々の生活費は、私たち親の財布から出せばいい」
未成年から20代の知的障害のあるお子さんを持つ親御さんの中には、このように考えている方が非常に多くいらっしゃいます。我が子を想う深い愛情ゆえの行動ですが、実はこの「お金の流れ」、将来の「親なきあと」に深刻な問題を引き起こす可能性が高いことをご存知でしょうか?
今回は、障害者・認知症の相続を専門に行う行政書士の視点から、今すぐ見直すべき「障害年金と親のお金の使い方」について解説します。
よくある罠:子どもの口座にどんどんお金が貯まっていく
多くのご家庭で、お子さんの障害年金に手を出さず、親のお金や別の子(健常者)の預金を優先して生活資金に充てています。
実際に障害のある子と同じ世帯で暮らしていると、親のお金だけで生活できてしまうことが多いのだと思います。医療や福祉で実費が必要になることは多くありませんし、食事やその他の生活費もまとめてしまうとそれほど多くの出費にもならないことがほとんどだからです。
しかし、このままご両親が亡くなる「親なきあと」を迎えたらどうなるでしょうか。 長年手をつけなかった障害年金が、お子さんの口座に数千万円単位で貯まっていることがあります。さらに、親の遺産を法定相続分で分けた場合、お子さんはさらに多額の現金を手にすることになります。
しかし、重度の知的障害などがあり、ご自身で財産の管理ができない場合、手元にいくら現金があっても自由には使えません。お金を引き出したり活用したりするためには、「成年後見人」をつける必要が出てきます。そして一度成年後見人がつくと、財産の使い道は厳格に管理され、柔軟な運用はできなくなってしまいます。
せっかくの貯金が成年後見人への報酬で消費される
成年後見人がついた場合、成年後見人への報酬は「本人の財産額」を一つの指標にして家庭裁判所が決定します。
となると、本人名義の預金が多ければ多いほど成年後見人への報酬は高くなると考えて良いでしょう。
若くから障害年金を本人名義の口座に貯めこみ、相当な額が貯まった段階で成年後見人がついたとしたら、そこから高額な報酬を本人の口座から支払っていくことになります。
結果的に「成年後見人への報酬を支払うために貯金をしていた」という形になるため、貯蓄が意味を為さないことにもなりかねません。

健常のきょうだいが苦労し、最後は国に没収される!?
一方で、親の財産を障害のあるお子さんの生活費として使い続けてきたため、いざ親が亡くなった時に、障害のないきょうだいに渡せる現金が少なくなってしまうというケースが多発しています。
きょうだいが実家(不動産)を相続したとしても、現金がなければ家を直すこともできません。また、きょうだいが障害のある子のサポートをしたくても、「使われないまま凍結状態にある弟(妹)の預金」を活用できないのは、きょうだいにとって非常にもどかしく、負担を強いることになります。
さらに悲しい事実があります。 障害のあるお子さんが、一生かけても使い切れないほどのお金を抱えたまま亡くなったとします。もし、その時すでに親や面倒を見ていたきょうだいも亡くなっており、きょうだいに子ども(甥・姪)がいなければ、その何千万円というお金は誰にも相続されず、最終的に「国庫に帰属(国のものになる)」してしまう可能性が高いのです。
家族のために残したはずのお金が、全くの他人の手に渡ってしまう。これは絶対に避けたい事態ではないでしょうか。
「子名義の貯金」も税務署に無効とされる(名義預金の罠)
また、「子どもの将来のために」と親がせっせとお金を振り込んで作った「子名義の口座」も危険です。
お子さんが自分で口座を管理できない場合、それは名義が子どもになっているだけの「名義預金」と税務署にみなされる可能性が高いのです。名義預金と判断されると、結局は「親の財産」として扱われ、親の相続税の計算に含められてしまいます。これでは、わざわざ子どもの口座にお金を移した意味が全く無くなってしまいます。

今からできる最も簡単な対策:「障害年金を積極的に使う」
では、どうすればいいのでしょうか。 答えはとてもシンプルです。「お子さんの障害年金を率先して、本人の生活費として使う」ようにしてください。
本来、障害年金は障害のある方の生活のために支給されるものです。日本の制度では、基本的には年金などで最低限の生活が送れるよう額が設定されています。
親の財産(現金)は減らさずに親の手元に残しておき、お子さんの日々の生活費や施設利用料、趣味のお金は、お子さん自身の障害年金から支出するのです。
親の手元に現金を残しておけば、将来の「親なきあと」に備えて、以下のような柔軟な対策が取れるようになります。
- きょうだいに多く現金を残す:遺言が必須となりますが、障害のある子のサポートをお願いする対価として、障害のないきょうだいに現金を多めに相続させることができます。
- 必要な時に必要な分だけ使える:親が管理しているお金なら、急な出費や将来のサポート費用として自由に使えます。

まとめ:お金の流れを見直すことが「親なきあと対策」の第一歩
お子さんが若いうちは「まだ先のこと」と思いがちですが、不慮の事故などでいつ「親なきあと」が訪れるかは誰にもわかりません。
今すぐ簡単にできることは、「障害のある子と、障害のない子のお金の用途(流れ)を考え直すこと」です。毎月どれくらいのお金がかかっているかを把握し、親の財産ではなく、まずは本人の年金等から生活を成り立たせるサイクルを作ってみましょう。
「将来のお金の残し方」や「遺言の書き方」について不安がある方は、障害者の相続に詳しい専門家にぜひ早めにご相談ください。


