実家を「とりあえず親名義」にする悲劇 〜専門家が教えない将来の認知症で不動産凍結を防ぐ方法〜

成年後見人をつけない財産管理
  1. 1. はじめに:なぜ「実家をとりあえず(父・母)親名義にする」のが危険なのか
  2. 2. 専門家が教えてくれない「認知症による実家凍結」の恐怖
    1. ① 認知症の進行と実家の空き家化
    2. ② 「実家を売ってお母さんの施設費用に充てたい」という当然の希望
    3. ③ 銀行・不動産業者・司法書士からの「売却不可」という絶望的な宣告
  3. 3. 「成年後見制度」という一生やめられない地獄の罠
    1. ① 一度始めたら「なかなかやめられない」制度
    2. ② 莫大なランニングコスト(後見人報酬)がお母さんの資産を食いつぶす
    3. ③ 家族が後見人になっても「後見監督人」という監視の目がつく
    4. ④ 家庭裁判所は「実家の売却」を簡単には許可しない(居住用不動産の処分制限)
  4. 4. 危険な妥協策「とりあえず法定相続登記で共有」が招くさらなる悲劇
  5. 5. 根本的な解決策:一次相続で「子の単独名義」に移す対策と実践手順
    1. 鉄則①:実家(不動産)の相続分を「子」とし、母には十分な「現金」を相続させる
    2. 鉄則②:一次相続での「代償分割」の活用と税務対策
    3. 鉄則③:生前にできる最も強力な備え「両親による公正証書遺言」の作成
  6. 6. まとめ:「良かれと思って」の慣習を排し、合理的な未来の設計を
    1. ※ 障害者・認知症相続の個別カウンセリング・遺言作成サポート

1. はじめに:なぜ「実家をとりあえず(父・母)親名義にする」のが危険なのか

父親(または母親)が亡くなった際、残された母親(または父親)と子どもたちで行う最初の重要な手続きが「一次相続」です。この時、日本国内の非常に多くのご家庭で、ごく自然に、かつ暗黙の了解として選ばれている選択肢があります。

それは、「実家の土地と建物を、すべて残された配偶者の名義にする(相続登記する)」という選択です。

(以下、父が死亡し、母が健在であるとして説明します。)

長年連れ添った母親にそのまま実家を遺して安心して暮らしてほしいという感情的な配慮、そして税理士や一般的な士業から「配偶者控除(配偶者の税額軽減)を使えば、お母さんが相続する分には相続税が一切かからないから最も節税になる」という形式的なアドバイスを受けることで、この選択は「最も正しく安全な方法」であると信じ込まれています。

しかし、福祉の現場と法律の実務(特に障害者や認知症患者の相続手続き)を長年専門的に取り扱ってきた立場から言わせていただくと、この「とりあえずお母さん名義」という相続登記は、時に将来のご家族の首を絞める、最大級の問題を引き起こしてしまう可能性があります。

親の高齢化、そして避けることのできない「認知症リスク」を考慮していない相続対策は、近い将来、実家という重要な不動産資産を完全にロックし、ご家族を逃れられない成年後見制度の地獄へと引きずり込む引き金となり得るのです。

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本記事では、一次相続で実家を親名義にしてしまうことの危険性を、法的な裏付けと福祉実務の現実を交えて詳しく解説し、それを回避するための「一次相続の段階で子の代に所有権を移す」という具体的な実務対策について、解説していきます。


2. 専門家が教えてくれない「認知症による実家凍結」の恐怖

多くの専門家は、相続が発生した「その瞬間」の税金や登記の手続きを済ませるプロではありますが、相続登記が完了した「その後数年〜数十年先」にご家族の生活がどう変化するかという、福祉・介護のライフプランまでを見越してアドバイスをくれることはほぼありません。ここに最大の盲点があります。

実家をお母さん名義に相続登記した後に待ち受けている、決定的な悲劇のシナリオは以下の通りです。

① 認知症の進行と実家の空き家化

お父さんの死後、お母さんが実家で一人暮らしを続けます。しかし、進行性のある認知症を発症し、徐々に一人での在宅生活が困難になります。ご家族は話し合い、お母さんを有料老人ホームや特別養護老人ホーム(特養)などの高齢者施設に入所させる決断を下します。 お母さんが施設に移ったことで、住む人のいなくなった実家は「空き家」となります。空き家になっても、固定資産税や建物の維持・管理費用、水道光熱費の基本料金などは毎月お母さん(あるいは肩代わりする子どもたち)のサイフから流出し続けます。

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② 「実家を売ってお母さんの施設費用に充てたい」という当然の希望

子どもたちは、「お母さんももう実家には戻れないのだから、あの不要になった空き家を売却(または取り壊して土地を処分)しよう。そして、その売却代金をお母さんのこれからの高い施設入所一時金や、毎月の介護・医療費用に充てて、お母さんの財産でお母さんの余生を支えよう」と考えます。 これは、親の介護に直面した子どもたちであれば誰もが抱く、至極合理的で当然の希望です。

③ 銀行・不動産業者・司法書士からの「売却不可」という絶望的な宣告

しかし、いざ実家を売りに出そうと不動産会社や司法書士、あるいは登記手続きを行う関係機関へ相談した際、子どもたちは冷酷な現実を突きつけられます。 「名義人であるお母様が認知症で、売買契約の内容や自分の家を売るという意味を正しく理解(意思能力)できない状態にあるため、売却手続きは一切行えません。」 

売買契約という高度な法律行為(処分行為)を行うには、名義人本人の確かな「意思能力(判断能力)」が必要です。司法書士や不動産業者は、後から契約が無効とされるリスク(無効確認訴訟などの法的紛争)を避けるため、極めて厳格に名義人の意思確認を行います。お母さんが「この不動産を、誰に、いくらで売るか。どのような契約内容になっているか。」を正しく理解し受け答えできない場合、その時点で実家は「持っているのに一生処分できない凍結財産」に化してしまうのです。


3. 「成年後見制度」という一生やめられない地獄の罠

「実家が売れないなら、成年後見人を立ててお母さんの代わりに売ってもらえばいいのではないか」と考えるのは、最も危険な罠への第一歩です。

銀行や福祉関係者、あるいは認知症や障害者の実務に精通していない一般的な士業は、悪気なく「じゃあ、家庭裁判所に申し立ててお母さんに成年後見人をつけましょう」と安易に勧めてきます。しかし、成年後見制度の実態は、ご家族にとってあまりにも過酷な負担を強いる構造的な課題を抱えています。

① 一度始めたら「なかなかやめられない」制度

現在の制度(令和8年現在)において、成年後見制度(後見・保佐・補助、法改正後の成年補助を含む)は、一度利用を開始すると、原則として本人が亡くなるまで一生涯、途中でやめる(解約する)ことは不可能です。 「実家を売却する手続きの間だけ、一時的につけたい」というご家族の都合は絶対に通用しません。実家が売れた後であっても、お母さんが亡くなるその日まで、お母さんのすべての財産は後見人の厳格な管理下に置かれ続けます。

② 莫大なランニングコスト(後見人報酬)がお母さんの資産を食いつぶす

専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が後見人に選任された場合、お母さんの財産から毎月数万円の「後見人報酬」が支払われ続けます。

例)月額3万円の場合:年間36万円 × 10年 = 360万円 

もしお母さんが若くして認知症を患い、長生きされた場合、その報酬総額は決して安くはない額になります。お母さんの老後や子どもの将来のためにコツコツ貯めていた財産、あるいはせっかく実家を売って得た資金が、「後見人の報酬を支払うために消費されていく」という極めて不条理な事態に陥るのです。

③ 家族が後見人になっても「後見監督人」という監視の目がつく

「他人に任せるのが嫌なら、私(長男)が後見人になればいい」と子どもが立候補しても、家庭裁判所は同じ法定相続人同士の「利益相反(親の財産を子が自分に都合よく使う懸念)」を厳しく警戒します。 結果として、家族の後見人を監視・指導する立場としてプロの弁護士などが「後見監督人」として選任されるケースも多く、この場合も結局は後見監督人への報酬(毎月1万〜2万円等)を一生涯支払い続けなければなりません。さらに、毎月の支出を細かく家裁に報告する極めて煩雑な事務負担が子どもの肩に重くのしかかります。

④ 家庭裁判所は「実家の売却」を簡単には許可しない(居住用不動産の処分制限)

成年後見人がつけば自動的に実家を売れるわけではありません。 民法第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)に基づき、お母さんの「居住用不動産(以前住んでいた実家、敷地)」を処分するには、家庭裁判所の特別な許可を得る必要があります。

家庭裁判所のスタンスは徹底した「本人保護」であり、家族の都合は一切考慮されません。お母さんの預金口座に一定の資金が残っている場合や、「本当に実家を売却しなければ、お母さんの施設生活が立ち行かない」という極めて差し迫った事情(必要性・妥当性)がない限り、家裁は売却の許可を簡単には下しません。 結果として、「介護費用は子どもたちが自腹で立て替え続け、お母さんの財産(実家)は虚しく凍結されたまま、お母さんの余生が終了する」という最悪の結末を迎える可能性があるのです。


4. 危険な妥協策「とりあえず法定相続登記で共有」が招くさらなる悲劇

遺言書がなく、一次相続の遺産分割協議がまとまらないご家庭や、何とかして成年後見人を避けて手続きを急ごうとするご家庭に対して、知識の浅い専門家が安易に提示する妥協策があります。

それは、「とりあえず法定相続分通りに、お母さんと子どもたち全員の『共有名義』で実家を相続登記しておきましょう。これなら、お母様に認知症の疑いがあっても、成年後見人をつけずに登記手続き自体は完了できます」というアドバイスです。

法律上、法定相続分に応じた登記(法定相続登記)は、相続人のうちの誰か一人から(他の相続人の承諾なしに)申請して完了させることが可能です。そのため、お母さんの意思確認を経ることなく、実家の登記名義を母親1/2、長男1/4、次男1/4といった「共有状態」に書き換えることはできてしまいます。

しかし、これもお母様が認知症になってしまうと(いると)同じ結果になります。

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不動産を共有名義にしてしまった場合、将来その不動産全体を売却したり、建て替えたり、大幅なリフォームを行うためには、共有者「全員」の有効な意思表示(署名・押印・印鑑証明書)が必要となります。 母親が完全に認知症になってしまえば、結局母親の持分(1/2など)を処分するために、お母さんに成年後見人をつけ、家庭裁判所の居住用不動産処分の許可を申し立てなければならなくなります。

一度共有登記をしてしまえば、お母さんが亡くなる(あるいは後見人をつける)までその呪縛から逃れることはできません。さらに、この共有状態のまま時間の経過とともに次の世代(二次相続)が発生した場合、それを放置しつづけると長男や次男の配偶者や子どもたちに持分が細分化して引き継がれ、実家の名義人は十数人、数十人といった手の施しようのない「所有者不明土地・カオス不動産」へと化していき、実家は永遠に売ることのできない「負の遺産」として塩漬けされます。


5. 根本的な解決策:一次相続で「子の単独名義」に移す対策と実践手順

この「実家フリーズ」の連鎖を断ち切り、家族全員が平穏で柔軟な未来を確保するための解決策の一つが、「父親が亡くなった(一次相続)の段階で、実家の所有権を母親ではなく、健常でフットワークの軽い『子ども(長男など)』の単独名義に相続登記してしまうこと」です。

実家をお母さんではなく長男の100%単独所有にしておけば、将来お母さんが認知症になり施設に入所した際、長男一人の単独の判断で、いつでも市場のベストなタイミングで実家を売却・現金化できます。家庭裁判所の許可も、なかなかやめられない成年後見人の選任も、毎月の高額な報酬負担も、一切発生しません。実家を売って得たクリーンな現金を、お母さんの最善の介護費用や施設一時金にダイレクトに充て、お母さんの生活を家族の手で100%守り抜くことができるのです。

この解決策を確実に実行するための、実務上の具体的なステップと鉄則は以下の3つです。

鉄則①:実家(不動産)の相続分を「子」とし、母には十分な「現金」を相続させる

法定相続分の割合で財産を移転する場合には、実家をすべて子どもが相続する代わりに、母親には、将来施設に入所する際の費用や、日々の生活費を賄うのに十分な「預貯金(現金)」を相続させます。母親に預貯金が十分にあれば、母親の相続分を0円にしても構いません。

※注意点

母親に十分な意思能力があり、自分の相続分が0円でも構わないと理解してくれることが必要です。また相続財産が相続税の基礎控除額を超えるようであれば、配偶者控除が使えなくなることに注意しましょう。

預貯金であれば不動産とは異なり、「普通預金(現金)」であれば母親の認知症が進行しても、施設への費用を口座引き落としにして支払い続けることも可能です(施設による)。またご家族がキャッシュカードと暗証番号を共有して預かっていれば、本人の生活や介護費用の支払いを行うこともできます。

最悪なのは、母親を気遣うあまり、換金性の極めて低い「実家(不動産)」をお母さんに残してしまうことです。 不動産ではなく、お母さんの手元には「流動性の高い現金(普通預金)」を残し、実家は子ども名義にしておく。これが、実家凍結を防ぐための一つの方法となります。

鉄則②:一次相続での「代償分割」の活用と税務対策

遺産が実家しかなく、お母さんに渡す現金がお父さんの遺産から捻出できない場合、お母さんが実家をお母さん名義に相続登記するのではなく、一旦実家をすべて子どもが相続した上で、不動産を取得した子どもが、お母さんに対して自己の財産(現金)から「代償金」を支払う「代償分割(だいしょうぶんかつ)」という手法を用いることもできます。

この代償分割を行うことで、実家の名義をお母さんに持たせることなく、お母さんに対して法的に正当な現金を支払うことができます。代償分割は相続手続きの一環であるため、子どもからお母さんへ大金を支払っても、税務署から「贈与税」を課される心配はありません(ただし、必ず遺産分割協議書に「代償分割としての支払いである旨」を明記しておく必要があります)。

鉄則③:生前にできる最も強力な備え「両親による公正証書遺言」の作成

これらの一次相続時の完璧な名義コントロールを、親の意思能力の有無に左右されず、100%確実に実現させる方法があります。 それは、両親が元気なうちに、「実家はすべて長男(子)に相続させる。遺言執行者には長男を指定する」という内容の「公正証書遺言」をあらかじめ作成しておくことです。

遺言書がない場合、たとえ父親の生前に家族間で口約束をしていても、父親の死後に「遺産分割協議」を行わなければ相続登記はできません。もしその話し合いの時点で母親に認知症の診断が出ていれば、銀行や法務局から遺産分割協議書の有効性を疑われ、結局手続きを進めるために母親に成年後見人をつけるよう要求されてしまうリスクがあります。

しかし、法的に完璧な「遺言執行者付きの公正証書遺言」があれば、父親の死後、母親や他の相続人の関与(遺産分割協議)をスキップして、長男一人だけの署名・押印で実家の相続登記から銀行口座の解約手続きまでをスムーズに完結できます。母親に意思能力があろうとなかろうと、成年後見人の介入をシャットアウトし、一瞬で実家を子の代へ承継させることが可能です。

遺言執行者は専門家に頼むべきではない?【家族が良いという理由を徹底解説】
遺言執行者とは相続手続きを行う権限を持つ者遺言を作成する場合、基本的には遺言執行者が必要です。遺言執行者を決めておけば、その者が誰の関与も必要とせず、相続手続きが完結できるからです。また親なきあと対策として、意思能力の無い子が相続人にいる場…

6. まとめ:「良かれと思って」の慣習を排し、合理的な未来の設計を

多くのご家庭で「長年暮らしてきた実家はお母さん(配偶者)が引き継ぐのが一番丸く収まるだろう」という感情論だけで相続登記が行われています。 しかし、その優しい「良かれと思って」という配慮こそが、お母さんが認知症という病を患った瞬間、家族全員を身動きの取れない「不動産凍結」という奈落の底に叩き落とす原因になります。

これからの高齢化社会において、ご家族の平穏な暮らしと大切な財産を守るためには、感情論や目先の節税効果(配偶者控除への過度な期待)に惑わされてはなりません。

  1. 実家(不動産)の共有はなるべく避ける。
  2. 親名義の相続登記は認知症による「資産凍結」の最大の引き金であると認識する。
  3. 一次相続の段階で、実家は「健常な子ども」の単独名義(または兄弟の共有名義)に登記する。
  4. 法定相続分で分ける場合、親には凍結の危険が極めて低い「現金(普通預金)」を多く残し、親自身のお金で最善の介護・生活費用を支える体制を構築する。
  5. これらを確実に実行するため、両親が元気なうちに「遺言執行者を指定した公正証書遺言」を必ず作成しておく。

これら法律と福祉の現場における「資産管理の鉄則」を正しく理解し、自らの手で対策を講じておくことこそが、親の高齢期や「親なきあと」を本当の安心へと変える唯一の防衛策です。 ご家族が全員元気で動くことができる「今」だからこそ、ぜひ将来のライフプランと相続対策の一歩を踏み出してみてください。


※ 障害者・認知症相続の個別カウンセリング・遺言作成サポート

当事務所では、長年の障害者・高齢者福祉の現場経験を持つ特定行政書士が、一般的な士業や金融機関では対応できない「成年後見人をつけない・回避するための極めて具体的で実践的な相続対策・公正証書遺言の作成」を全国対応で徹底サポートしております。 「我が家の場合は、どのような遺言書を作ればお母さんや障害のある子を守れるか」「すでに一次相続が発生してしまいお母さんに認知症の症状があるが、どうすれば実家のフリーズを防げるか」など、どのような深いお悩みでもお気軽にお問い合わせください。ご家族全員が笑顔で暮らせる最適な資産計画を一緒に考えます。

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