厚生労働省「成年後見制度の見直し等について」概要
厚生労働省「成年後見制度の見直し等について」厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課、障害福祉課地域生活・発達障害者支援室精神・障害保健課の資料によると、近々成年後見制度の改正が行われるようです。
概要は下記のとおりです。
現在、法制審議会において成年後見制度の見直しが検討されています。現行制度には、「本人の判断能力が回復しない限り利用をやめられない」「後見人の包括的な権限により、本人の自己決定が過度に制限される」「ニーズに合った後見人への交代が難しい」といった課題が指摘されています。
これらを解消するため、令和7年6月に取りまとめられた中間試案などにおいて、以下の見直し案が示されています。
- 制度の柔軟化と終了: 現行の後見・保佐・補助の3類型を「補助」に一元化する案や、支援の必要性がなくなれば制度を終了できる仕組み(期間の限定など)の導入。
- 本人の意思尊重と交代の円滑化: 本人のニーズに合わせて後見人を交代しやすくする新たな解任事由の追加や、後見人等が本人の意思を尊重する義務の明確化。
これにより、本人の尊厳と自己決定権をより尊重し、必要な支援を柔軟に選択できる制度への移行が見込まれています。
【引用資料リンク】
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001634485.pdf

注意点:今回の改正案は「相続」について触れられていない
今回の改正案においては現在の問題点である「必ず本人の相続分は法定相続分になる」ということについては触れられていません。
そのためこの点については現状通りになることはほぼ確実と言えるでしょう。
意思能力の無い者が多額の財産を相続し、結局は誰にも触れられないまま「事実上の凍結財産」となることの改善は考えられていないようですので、問題点は後述したいと思います。
成年後見制度が改正される見込みだが…?
改正の概要を説明しましたが、当事者の皆様としては、本当に「改善」されるものなのか?と不安に思っている方も多いでしょう。
逆にメディアや専門家の情報を鵜呑みにして「成年後見人が自由に外せるようになる!」と手放しで喜んでしまっている方もいると思います。
今回は、成年後見制度の改正が「改善」となるのか、「改悪」となってしまうのか、はたまた「あまり変わらない」という結果になるのかを当事務所が予想し、その解説を加えていきたいと思います。

改正による法的な矛盾点が多発!
まず前述の通りに改正されるとしたら、起こりうるのが「法的矛盾」です。
本来の成年後見制度の根拠自体を覆しかねない内容だからです。
明らかに法的な矛盾を抱えることになっても改正は行われるのか、それとも成年後見制度が開始する前の「寝た子を起こすな」という状態に戻るのかは非常に興味深い点であり、今回の核心部分になると思いますので以下に解説していきます。
意思能力の無い本人を保護されない状態に戻せるのか?
まずシンプルに成年後見人が就いている者「被後見人」から成年後見人が解任されたとしましょう。
もちろん従来の解任事由の「本人の意思能力が回復された時」は除きます。
例で言うと、症状の波が見られやすい認知症や精神障害者ではなく、重度の知的障害者をイメージすると良いでしょう。
重度知的障害のある方が、自身が相続人となる相続手続きのために成年後見人をつけて手続きを終了し、それとともに成年後見人の解任が認められたとします。
法律の建前は、意思能力が無い者の意思能力を補完するために成年後見人が就いたわけですから、それが外れると本人は意思能力が無く、法律行為は一切できません。
そうなるとあくまで法律上の建前ですが、様々な問題が出てきますので、以下に例示します。
日々のお金は誰が下ろすの?
成年後見人がいなくなってしまうと元被後見人(以下、「本人」とします)はお金を下ろすことができません。
家族が勝手に下ろすことはできませんが、法律上は「委任」があれば家族が本人のお金を下ろすことはできます。
しかし本人は意思能力が無いわけですから「委任」という行為は当然できません。
ということは、本人がお金を下ろすことは法的には不可能という結論になります。

大きな買い物はどうするの?
では現金を持っている本人が、大きな買い物をする時はどうなるでしょうか?
意思能力が無くても日用品程度の購入などの「日常生活に関する行為」は行うことができます。
では本人が大きな買い物がしたかった場合はどうでしょう?
例えば、
- 自分の家の窓ガラスが割れてしまったので10万円かけて交換をしたい場合
- 海外旅行に行きたいので旅行代金30万円を支払いたい場合
- 自分の生活の利便のため、200万円の車を購入して家族に運転してもらいたい場合
- 家族に日ごろの感謝を伝えるため10万円の高級レストランをごちそうしたい場合
上記のことは「日常生活に関する行為」にどこまで入るのでしょうか?
福祉サービスとの契約は誰がやるの?
通所施設を利用していた本人が相続のために成年後見人をつけることになりました。
そして相続が終わり、成年後見人を解任することができることになりました。
では、今後の定期的な通所施設との契約はどうすれば良いでしょう?
福祉サービスの利用は必ず契約行為が伴います。
しかし成年後見人がいなければ、法的には家族が代わりに契約行為を行うこともできないのです。

「成年後見制度の改正で今後はこうなる?」予想されるパターン
現在見直しが検討されている案および上記の懸念を踏まえて考えると、下記の未来が予想されると考えます。もちろんこれは当事務所の推測であり、これらの懸念をクリアできるほどの良案が作成されることが望まれますが、これらの懸念をクリアできなくなると「現状とあまり変わらない」といった結果になってしまいます。
A.成年後見人の申立を繰り返す人生になる?
「被後見人が今後も法律行為を送っていけること」に対応するためには、上記に挙げた「お金を下ろしたり、一定額の注文をしたり、福祉施設との契約」を行うたびに成年後見の申立を行う必要があるのでしょうか?
そのようなことになれば、年に何回も申立をする必要がある者もでてくると思います。
そうなると申立の費用も手間も増えますので、実質は不可能と言わざるを得ないでしょう。
B.被補助者として永遠に補助人が就くことになる?
令和8年1月に案が示された、従来の成年後見制度の累計「後見」「保佐」が全て「補助」となり、「成年補助制度」なるものになったとしましょう。
「補助の範囲=制限行為の範囲」は本人の能力により分類されます。
そうすると恐らく、従来の後見、保佐、補助に似通った分類方法にならざるを得ません。
なぜなら本人の能力に応じて制限行為や補助者の権限を分類するしかないからです。
その他の分類候補としては、「本人の財産額」や「家族の支援の有無」が検討されるべきだと思いますが、そのような検討はされていないようです。
結果、従来の成年後見制度とあまり変わらない運用になってしまうのではないでしょうか?
C.制度の促進がされ、最悪義務化となってしまう?
「成年後見制度が利用しやすいように改正されたのだから、これからは制度を義務化しましょう」
これが最悪のパターンです。
若しくは法律的な義務化まではされなくても、国の指針に従い、銀行や福祉施設が今まで不要としてきたことも成年後見人が必要と判断してしまうことでも同様です。
そうなると今よりも困る家庭が多くなることは火を見るよりも明らかでしょう。
最も明らかなのは、「毎年国庫に帰属する額が増加する」ことです。
今までは家族が遺言を作成することにより、意思能力の無い者に財産が行かないようコントロールすることが可能でした。
しかし今後意思能力の無い者に「成年補助制度」なるものが義務化され、意思能力の無い者にも全て法定相続分の取得が促されると、相続人無くして大きな財産を持ったまま亡くなるケースが多発します。
なぜなら意思能力に大きな支障がある者の婚姻率、出生率はかなり低いものになってしまうからです。
相続人無くして亡くなった者の相続財産は、原則として国庫に帰属します。
今まで年間700億円程度の水準だった額が将来はさらに大きな額になることが懸念されるでしょう。
すると「障害のある子のために親御さんが一生懸命貯めたお金を国にプレゼントしなければならない」ということが常識化されてしまうかもしれません。

成年後見制度の改正に期待せずしっかりとした事前対策を取っておくこと!
上記の予想はあくまでも長年障害者や認知症の関わる相続を専門的に行ってきた当事務所の独断によるものであるため、必ずこうなるというものではありません。
今後より良い案が固められ、障害者や認知症の方のいる家庭が幸せになれることが望まれます。
しかし現時点での改正案はそれほど抜本的な事項は読み取ることができず、また曖昧な記述も目立ちます。
となると、今の段階では各家庭で自己防衛策をしっかりとしておくことしかできないと言えるでしょう。
当事務所では、「事前の対策により成年後見制度から遠ざかること」を専門的に研究していますので、お困りの方、ご不安の方はぜひご相談ください。


