遺言は基本的には必要の無いもの
遺言というと「作っておいた方が良いって聞くけどなかなか取り掛かる気にはなれない…」といった方が多いと思います。
しかし、特に自分の遺産の承継について強い希望が無いという方には強いて必要が無いとお考えの方が多いものだと思います。
自分が亡くなれば法定相続分を基本として相続されるだろうし、残された家族が別の分割割合で分けたほうが良いと考えればそのようにできるからです。
しかし、絶対に遺言を作っておいた方が良いというパターンもあります。特に遺産について争いが無くても、今回掲げる2つのパターンに該当する方はすぐに遺言を作った方が良いでしょう。
成年後見人をつけることを回避するために遺言を作っておく必要がある
絶対に遺言を作っておいた方が良いパターンがあるというのは、「無駄に成年後見人をつけることを回避するため」にといった理由からです。
家族円満な場合でも、成年後見人が家庭内に入ってくることによってトラブルの種にもなりかねません。
遺言が無いことによって、本来必要のなかった成年後見人をつけることになってしまい、困っている家族が多いということも事実です。
絶対に遺言作っておいた方が良いパターン2つ!
それでは、絶対に遺言を作っておいた方が良いパターン2つについて説明します。
ここでは、シンプルに夫・妻・兄・弟の4人家族を例に出し、遺言を作るか作らないかの主体は夫とします。
家族信託などの対策は特に行っていないと仮定してください。
ケース①【妻が認知症である】
この場合、夫は絶対に遺言を作っておいた方が良いと思われます。
なぜなら、自分が亡くなった後、相続手続が煩雑化するからです。
夫の死後、相続が開始します。しかし、専門家に「妻が認知症である」ということを告げて手続きを依頼しようとした途端、「成年後見人の選任が必要です」と言われる可能性が高いです。
もちろん残された家族が自分達で手続きを行おうとした場合でも、銀行等から「成年後見人の選任が必要です」と言われる可能性が高く、そうなった場合は一筋縄ではいきません。
もちろん成年後見人を選任してから相続手続きを行うことが正攻法であるため、その通りにすることがベターなのですが、選任手続きにも時間を要するため、残された家族は煩雑な手続きを強いられることになります。
ケース②【子に知的障害等がある】
このケースでは特に遺言を作っておいた方が良いと言えるでしょう。
なぜなら上記のケースに比べ、成年後見人をつけた際のデメリットが遥かに勝るからです。
子に知的障害がある場合、妻に認知症がある場合と同様、専門家も銀行も成年後見人無しでは手続きをしてくれない可能性が高くなります。
もちろんこのケースも成年後見人をつけることがベターなのですが、子が若いうちから成年後見人をつけると多大な費用がかかります。
高齢の妻の場合と比べると、成年後見人をつけなければならない期間は+20年以上になり得ます。20年×年間の成年後見人報酬20万としてみても400万円は余計にかかるというわけです。(成年後見人がいなくても他の家族が本人の世話ができることが前提です)
資産が多ければ多いほど成年後見報酬は高くなりますので、もっとたくさんの費用を要してしまう可能性も充分にあります。
遺言が無いと資産が事実上凍結されてしまう
上記2つのパターンでは、遺言が無いと成年後見人を選任せざるを得ないという可能性が高くなりますが、成年後見人を選任すれば話が済むというわけではありません。
遺言があれば相続手続きに成年後見人は必要とならず、遺言者の好きな分割内容を指定することが出来ますが、遺言が無い場合は成年後見人が法定相続分で分けることを前提に遺産分割協議に参加します。
そのため、預貯金や不動産も原則法定相続分で分けられます。
となると、認知症や知的障害のある者が多額の財産を所有することになりますが、本人はその財産を好きに使うことは出来ません。
成年後見人は「保全」を前提に財産を管理することになるからです。
安易に売却することも出来ませんし、本人のために家族が財産を使うことも出来ません。事実上それらの財産は凍結状態に近くなると言えるでしょう。
遺言の内容は「健常な者に財産を全て移転する」
もし遺言を残すのであれば、その内容も考慮すべきです。
遺言の方針の大元は「健常な者に全ての財産を移転する」とすることです。
もちろん、配偶者に関する控除や障害者に関する控除などの相続税対策が必要であれば、事前に税理士に相談することが必要です。
しかし、出来るだけ財産を使うことのできない者には多くの財産を分配しないことを基本として考えましょう。
自筆証書遺言の活用で手続きが簡略化できる
遺言を自分で作ることに不安を覚える方も多いでしょう。実際は専門家に依頼し、公正証書遺言を作る方が多くいます。
しかし、自分で作る遺言、「自筆証書遺言」を作りやすくする制度がスタートしています。
自筆証書遺言の厳格な形式が緩和された上、法務局で安全に保管してもらうことができるようになりました。
この制度を活用すれば、自分一人でも遺言を残すことが可能です。
遺言は家族に起こり得るトラブルを事前に回避させる機能を持っている
今回説明した2つのパターンに該当する場合は、遺言一つで残された家族の運命が変わってしまうと言っても過言ではありません。
自分自身で家族に起こり得るトラブルを事前に回避できるというのも遺言に秘められた機能です。
ご自身が元気なうちに遺言を残しておけば、安心して残りの生活を送ることができますので、早めのご検討をおすすめします。