一般的にお子さんが18歳を迎えて成人になると、「一人でできることが増える」「社会的な権利や選択肢が広がる」と考えられがちです。 しかし、意思能力や判断能力に不安がある障害のあるお子さんをお持ちのご家庭においては、事態は全く逆となる場合があります。
なぜなら、18歳に達した瞬間に親の「親権(法定代理権)」が法律上自動的に消滅してしまうからです。 未成年の頃は親権者として親が代わりにできた様々な手続きが、成人した途端に親であっても一切代理できなくなり、法律や実務上の制限によって「単独でも親でもできないこと」が急増してしまいます。

第1章:成人(18歳)になると「単独でも親でもできなくなる」5つの手続き
お子さんが成人すると、身近で重要な以下の5つの手続きが突然行えなくなってしまいます。
- 銀行口座の作成 成人後に本人名義の銀行口座を新しく作ろうとしても、本人による意思表示や自筆での署名が難しい場合、銀行窓口で「本人の意思確認ができない」として新規開設を拒否されます。
- 預金の引き出し 未成年のうちは親が法定代理人として窓口でお金を引き出せました。しかし、成人後は親権が消滅するため、親が窓口に行っても引き出しを拒否され、最悪の場合は口座を凍結されてしまいます。
- 定期預金の解約 普通預金以上に厳格な本人確認が求められるのが定期預金です。名義人本人の意思確認がない限り、基本的には親であっても代理で解約することはできません。
- 印鑑登録 契約や手続きに不可欠な実印の登録(印鑑登録)ですが、自治体の窓口で本人の意思能力が確認できないと判断された場合、成人後は印鑑登録の申請自体を拒否される可能性があります。
- 契約全般(福祉サービス・携帯電話・賃貸など) 福祉サービスの利用や各種契約は、本来すべて本人が行う「契約行為」です。未成年のうちは親権でカバーできましたが、成人後は親が代わりにサインすることが法律上認められなくなります。

⚠️【最悪のシナリオ】成年後見人をつけても「自由にはならない」落とし穴
窓口で手続きを拒否された際、銀行や役所から「成年後見人を立ててください」と案内されることがよくあります。 しかし、言われるがまま成年後見人をつけたとしても、ご家族の思い通りに手続きが進むわけではありません。
成年後見人や家庭裁判所は「本人の直接的な保護と利益」しか考慮しないため、明確で合理的な理由がない限り、定期預金の解約やまとまった支出、不動産の処分などはなかなか認めてはもらえません。
第2章:子が「未成年のうち」に親が絶対にやっておきたい4つの備え
親権という法的な守りがあり、親自身も若く健康で動きやすい「未成年のうち」に、以下の4つの備えを確実に進めておくことが重要です。
- 銀行口座の管理(キャッシュカード・暗証番号・ネット口座の準備) 未成年のうちに日常使いの普通預金口座を作り、必ず「キャッシュカード」を発行して暗証番号を家族間でしっかり管理しておきます。キャッシュカードと暗証番号があれば、成人後もATMから日々の生活費をスムーズに引き出すことが可能です(あくまでも本人の同意の上で)。また、カードの磁気不良や紛失による窓口手続きのストップを防ぐため、スマートフォン等で操作できる「ネット口座(インターネットバンキング)」もあらかじめ開設しておくのが安全です。失念などに備えログインパスワード等は本人だけでなく必ず家族とも共有しておきましょう。

- 15歳以上になったら「印鑑登録」を行っておく 印鑑登録は15歳から行うことができます。成人後に行おうとすると意思確認で引っかかるリスクが高まりますが、未成年のうちは親権者の同意や同行によって相対的に登録しやすい傾向があります。今のうちに役所で印鑑登録を済ませ、「実印」と「印鑑登録カード」を確保しておくことが大切です。

- 子の口座にお金を「貯めこまない」 「子の将来のために」とお子さん名義の口座に多額の貯金をしたり、支給される障害年金を使わずに丸々貯めこむのは「百害あって一利なし」です。税務署から「名義預金」と判断されて節税にならないばかりか、将来口座が凍結されたり、成年後見人の高額な報酬の基準になってしまいます。障害年金は本人の日々の生活費として率先して使い切り、親の資産は親名義のまま手元に残しておくのが鉄則です。

- 親の「エンディングノート」と「遺言」を作成する 親が健康なうちに「エンディングノート」を活用してお子さんのケア情報や将来の希望を整理します。そして何より重要なのが、親が法的な効力を持つ「公正証書遺言」を作成しておくことです。遺言の中に信頼できる家族等を「遺言執行者」として指定しておけば、親が亡くなった際も遺産分割協議を行う必要がなくなり、成年後見人を立てずにスムーズに手続きを完了させることができます。「将来がわからないから…」と思われる方も多いと思いますが、実は子が18歳未満に作る遺言も子が成人になってから作る遺言も基本的な内容はほとんど変わりません。

まとめ:できなくなる前に親が対処を!
「成人になれば大人としてできることが増える」というのは、健常者の常識に過ぎません。(比較的重度の)障害のあるお子さんの場合は、親権が消える18歳の壁によって「できること」ではなく「できないこと」が急増します。
親権という強い法的な代理権があり、ご自身も元気に動ける「未成年のうち」に正しい知識を持ち、口座管理・印鑑登録・遺言作成などの備えを整えておくことが、我が子の将来と家族の生活を守る重要な一歩となります。



